実質GDPは6期ぶりマイナス、住宅投資と輸出下押し-縮小幅予想下回る

日本経済は7-9月期に6四半期ぶりのマイナス成長となった。法改正前の駆け込みの反動による影響が出た住宅投資や、米国による関税措置を受けた輸出が全体を押し下げた。

  内閣府が17日発表した実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率1.8%減、前期比では0.4%減だった。市場予想はそれぞれ2.4%減、0.6%減。最大の押し下げ要因は住宅投資で、前期比9.4%減。4月の建築基準法・省エネ法改正前の駆け込み着工急増の反動による影響が出た。

  輸出は1.2%減で、輸出から輸入(0.1%減)を差し引いた外需寄与度はマイナス0.2%と2期ぶりのマイナスとなった。 物価高の影響で個人消費は前期比0.1%増と、前期から伸びが縮小。一方、設備投資は1.0%増とプラス幅を拡大した。  

  予想より小幅な悪化にとどまったものの、マイナス成長は「強い経済」を目指す高市早苗政権にとって積極財政を正当化する材料となる可能性がある。個人消費は力強さを欠き、輸出は不透明感がくすぶるなど、内外需ともにけん引役が不在だ。経済対策の議論が進む中、市場は財源の裏付けとなる補正予算の規模を注視している。

  みずほ証券の松尾勇佑シニアマーケットエコノミストは、今回は「全体像としてヘッドラインが示唆するほど悪い内容ではない」と指摘。潜在成長率を上回る成長ペースは維持されているため、「巨額の経済対策は必要ない」とし、的を絞った物価高対策を行うべきだと語った。

  城内実経済財政担当相はGDP発表後の談話で、景気が緩やかに回復しているとの認識に変化はないと説明。政府は「責任ある積極財政」の考え方の下、戦略的に財政出動を行い、「力強い経済」を構築する方針を示した。

  国内メディア各社の報道によると、高市首相は16日、公邸で片山さつき財務相や城内経済財政相らと経済対策を協議。共同通信は、物価高への対応を柱に17兆円を大きく上回る規模で調整していると伝えている。ブルームバーグが先月実施した調査では、補正予算の規模についてエコノミストの予想中央値は15兆円だった。

  経済財政諮問会議の民間議員に起用された第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、昨年度の13兆9000億円を上回る規模でなければ、積極財政への期待が低下する可能性があるとの見方を示している。

中国リスク

  SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは、今回の落ち込みは一時的要因が大きく、「悲観的になる必要はない」と指摘。今後は緩やかな回復基調に戻るとみている。ただ、日中関係の悪化に伴うインバウンド消費への影響や、米関税措置を巡る動向を注視する必要があるとも語った。

  台湾有事が日本の集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」になり得ると高市首相が発言した7日以降、中国が日本に対し圧力を強めている。中国外務省は14日、高市首相の発言で日本に滞在する中国人の安全に「重大なリスク」が生じたとして、中国国民に日本への渡航を短期的に控えるよう呼び掛けた。

関連記事:中国、日本への渡航自粛呼び掛け-台湾巡る高市首相発言に反発強める

  野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは17日付リポートで、尖閣問題で日中関係が悪化した際と同様に、向こう1年の中国からの訪日客数が前年比25%減ると仮定した場合、インバウンド消費の減少額は年2兆2124億円と試算。年間の実質GDPを0.36%押し下げ、2期連続マイナス成長の可能性も出てくると指摘した。

金融政策への影響

  昨年1-3月期以来の大幅なマイナス成長となったことを受け、追加利上げのタイミングを探る日本銀行への逆風が強まる可能性がある。

  高市首相は、金融政策の手法は日銀に委ねられるべきものだとしつつも、「マクロ経済の最終的な責任は政府が持つ」と言明。日銀には、政府の政策と整合性を取るよう促す発言を繰り返してきた。

  ブルームバーグ・エコノミクスの木村太郎シニアエコノミストは、7-9月期のGDP縮小は高市政権にとって補正予算による経済対策の根拠となり得ると指摘。日銀には利上げペースを緩めるよう圧力が強まる可能性があるとの見方を示した。

関連記事:高市首相、マクロ経済政策の最終責任は政府-日銀は十分に連携を

  植田和男日銀総裁は10月の金融政策決定会合後の会見で、経済・物価が日銀の見通しに沿って推移していることを踏まえ、物価目標が実現する確度が「少しずつ高まってきている」との見解を示している。同会合では、前回9月に続いて高田創、田村直樹両委員が現状維持に反対し、0.75%程度への利上げを提案した。

  ブルームバーグの先月の調査では、利上げ時期について12月会合が50%、来年1月までは98%とほぼ全員が想定していた。翌日物金利スワップ(OIS)から算出した12月会合での0.25ポイントの利上げ確率は約3割。来年1月を含めると7割強となっている。

内閣府の説明

  • 住宅投資の落ち込み幅は、リーマンショックの影響を受けた2009年4-6月期(9.8%減)以来の大きさ
  • 輸出は自動車などが減少に寄与。インバウンド(訪日外国人)消費や産業財産使用料収入も減少した
  • 設備投資は4期連続プラス、受託開発ソフトウエアやパソコンなどへの支出が増加。生産用機械、自動車への支出は減少
  • 個人消費は6期連続プラス、飲料やゲーム・玩具などが増加。一方、チョコレートなどの菓子類や衣服、自動車がマイナス方向に寄与

— 取材協力 Toru Fujioka

(エコノミストコメントと詳細を追加して更新しました)

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