告発者処分の「違法」指摘受け入れぬ斎藤兵庫知事、「前回の反省」で県議会は動けず
斎藤元彦兵庫県知事の再選から1年。この間、斎藤氏の疑惑告発文書問題を巡り、告発者を処分した対応の違法性を指摘する第三者委員会や県議会調査特別委員会(百条委)の調査結果が相次いだが、斎藤氏は「適法だった」との主張を崩していない。県議会からの批判はやまないものの、知事選を巡る公選法違反罪の捜査が不起訴になったことなどから、再度の不信任決議には慎重な見方が広がる。知事と議会との対立構造には行き詰まり感もあり、識者は局面打開の必要性を訴える。
「答弁において一部議論が深まらなかった側面があったことは否定できず、議会として決して本意ではない」
今年10月22日、県議会定例会の閉会にあたり、山口晋平議長は斎藤氏に苦言を呈した。文書問題などに関する県議の質問に斎藤氏が正面から答えない場面が目立ち、「沈黙が(現状の)承諾となることを懸念した」と山口氏は理由を語る。
異例の言及には、斎藤氏と議会側との溝の深さがにじむ。文書問題に関する百条委での斎藤氏の言動などを問題視し、県議会が全会一致で不信任決議をしたのは昨年9月。同11月の知事選で斎藤氏はSNSで支持を広げて再選を果たしたが、誹謗(ひぼう)中傷が飛び交い、禍根を残した。
知事批判は強いが
今年3月には百条委が調査報告書で、告発文書を公益通報として扱わず、作成者を処分した斎藤氏の対応は「公益通報者保護法に違反している可能性が高い」と指摘。斎藤氏自身が設置した弁護士でつくる第三者委も同月に報告書を公表し、告発者処分の経緯は「明らかに違法」と断じ、パワハラも認定した。
いずれも斎藤氏の主張を真っ向から否定する内容だったが、斎藤氏は「適切に対応してきた」と繰り返している。かたくなに受け入れようとしない姿勢に議会からの批判は強いが、一部の会派が辞職を申し入れただけで、再度の不信任には慎重な意見が大半だ。
不信任の反省ある
「県民に十分な説明をせず、不信任に踏み切った反省はある」。ある県議はこう振り返った上で再選の民意は重いとし、議会側の出方によっては「議会への批判を招きかねない」と話す。
議会側は知事選で、対抗馬の擁立でまとまれなかった経緯もある。別の県議は「中途半端な対応はよくない」とし、公選法違反罪の不起訴を受けた検察審査会の議決や、ほかの捜査の行方を見極める構えをみせる。
膠着(こうちゃく)状態が続き、県政の正常化は見通せない。大正大の江藤俊昭教授(地方自治)は「不信任からの1年を検証し、今後の進む道を明らかにするのが県民に責任を持つ議会の役割だ」と指摘。「議会が自らの反省点も踏まえながら、特別委員会や説明会など住民や知事との議論の場を仕掛けていくことも必要となる」と提言している。
私的情報漏洩の捜査続く
昨年の兵庫県知事選や斎藤元彦知事の疑惑告発文書に関する一連の問題を巡っては、告訴や告発が相次いだ。神戸地検は今月12日、このうち知事選のSNS運用に絡んで斎藤氏らが告発された公職選挙法違反(買収など)の罪など7件を嫌疑不十分で不起訴とした。
一方、捜査が続くものもある。弁護士でつくる県の第三者委員会は5月に公表した調査報告書で、斎藤氏の側近だった元県総務部長が、告発文書を作成した元県幹部の公用パソコン内にあった私的情報を県議3人に漏洩(ろうえい)したと認定。元総務部長の説明などから、「知事や元副知事の指示で情報漏洩を行った可能性が高い」と指摘した。
斎藤氏は指示を否定、元総務部長は停職3カ月の懲戒処分を受けた。県は刑事告発を見送ったが、大学教授らが地方公務員法(守秘義務)違反罪で、斎藤氏と片山安孝元副知事、元総務部長の3人を地検に告発した。
情報漏洩を受け、斎藤氏は給与カットの条例案を県議会に提出。ただ、カットの理由が管理責任にとどまっていることから、県議会からは「幕引きは許されない」との声が上がり、継続審議となっている。