白石死刑囚の刑執行に遺族「何も感情湧かない」…娘失い癒えぬ痛み、使っていた食器も手放せず

 27日に刑が執行された白石隆浩死刑囚(34)は2017年、SNSを悪用し、神奈川県座間市の自宅アパートで当時15~26歳の男女9人を次々と殺害した。若者たちがネット上で漏らした「自殺願望」につけ込み、現場のアパートへと誘い込んだ。9人の命が奪われて以降もSNSの利用は拡大し続けており、遺族らは再び惨事が起きないよう願った。(丸山滉一、福島支局 高田彬)

事件後絶たず

 事件で高校3年だった娘(当時17歳)を失った福島市の男性(70)は27日午前、死刑執行をテレビのニュースで知った。

 自宅で読売新聞の取材に応じ、「(白石死刑囚が)亡くなったことには、何も感情が湧いてこない。娘が亡くなったという実感も湧かないまま、会えない時間だけが流れている」と語った。「生きて罪を償ってほしかったという思いもある。死んでしまったらそれで終わりだ」と複雑な思いも口にした。

 娘が使っていた食器を手放せず、今も自宅の棚に保管している。「生きていたら、どんな姿なんだろう。同じ年頃の人を見かけると、ふと考えてしまう」。かわいらしい絵柄のコップや皿を手にとり、つぶやいた。

9人の遺体が発見されたアパート(2017年10月、神奈川県座間市で、読売ヘリから)

 娘は悩みを抱え、SNSで知り合った白石死刑囚から「一緒に自殺する」とアパートに誘われた。事件後もSNSを悪用した犯罪が相次ぐ現状に、「同種の事件がなくなってほしいが、どうしてもなくならない。難しい問題だ」と話した。

元弁護人「ショック」

 20年9~12月に東京地裁立川支部で開かれた裁判員裁判で、白石死刑囚は起訴事実を認めた。弁護側は、法定刑に死刑がない「承諾殺人罪」などの成立にとどまると主張したものの、白石死刑囚は「裁判を長引かせ、自分の親族に迷惑をかけたくない」として、弁護側の被告人質問にはほとんど応じなかった。

 主任弁護人を務めた大森顕弁護士は取材に対し、執行について「大変ショックだ」とし、刑確定後も半年に1度ほどのペースで白石死刑囚と東京拘置所で面会を重ねていたと明かした。今月24日夕に会った際の白石死刑囚は「ラジオで米価が高騰していると聴いた。先生、コメ食えていますか」と問いかけたり、最近読んだ本の感想を述べたりした。拘置所では筋トレに励んでいたという。

 これまでの面会の中で事件が話題に上ることはなく、被害者への謝罪や反省の言葉を発することもなかった。「まだ語っていない動機もあったのではないか。事件に関する話もいずれ聞きたかった」と述べた。

「気にかけていた」

 1審で補充裁判員を務めた会社員(33)は取材に「いつ執行されるか、ずっと気にかけてきた」と打ち明けた。法廷での白石死刑囚について「ひとごとのように淡々としていた」と振り返り、「執行は一つの区切りではあるが、遺族感情に終わりはないと思う」とおもんぱかった。

 日本弁護士連合会は27日、「死刑が執行されたことは大変遺憾。強く抗議する」とする会長声明を出した。

SNS 目立つ自殺関連投稿

 座間市の事件後、国は、自殺願望を抱く人が犯罪に巻き込まれないよう対策を強化した。しかし、SNS上には依然として自殺関連の投稿があふれており、類似事件も起きている。

 厚生労働省は2018年、自殺防止などに取り組む民間団体に対し、SNSによる相談事業の委託を始めた。23年度の相談件数は延べ27万5270件。自殺に関する相談が最も多く、19歳以下が全体の40%、20歳代が26・6%を占めた。

 警察庁から委託を受け、ネット上の違法・有害情報の通報を受け付ける「インターネット・ホットラインセンター」では、自殺につながる投稿の削除要請を進めている。昨年は、「一緒に死のう」「自殺を手伝う」といった投稿に関する通報が6582件に上り、このうち4986件が削除された。通報件数はセンターが対応を始めた18年(2582件)の約2・5倍に増えているという。

 だが、自殺関連の投稿をきっかけに若者が事件に巻き込まれるケースは後を絶たない。今年2~6月、山形、福島両県内の高校生ら男女5人に対する自殺ほう助罪などで起訴された福島市の男(36)も、SNSを通じて被害者と自殺に関するやり取りをした上で、誘い出していたとされる。

 警察幹部は「悩みを抱えた若者が事件に巻き込まれないよう支援を拡充するとともに、自殺を誘う投稿の削除に向け、積極的な取り組みを進める」と話す。

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