知床の海に叫ぶ「一緒に帰ろう」…息子が最期に見たであろう景色、父は「目に焼き付けた」

 北海道知床半島沖で2022年4月に起きた観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故を巡り、乗客家族による初の洋上慰霊が13日、沈没地点の「カシュニの滝」付近で行われた。「会いに来たよ」「一緒に帰ろう」。予期せぬ別れを強いられた家族をしのび、泣き叫ぶ声が知床の海に響いた。

観光船「KAZU I」沈没後、初の洋上慰霊

 乗客14人の家族40人は午前5時23分、洋上慰霊を企画した桜井憲二さん(62)(羅臼町)らのボランティアスタッフ26人と斜里町ウトロ漁港を出発。同6時51分に半島先端部の文吉湾から上陸し、桜井さんらがこれまでに遺骨や遺留品を発見した場所を約3時間かけて訪ね歩いた。

「カシュニの滝」沖で花束を海に投げ入れる乗客家族(13日午前10時28分)=木田諒一朗撮影

 船に戻った後は知床岬の手前で折り返し、「カシュニの滝」の沖合へ。それぞれの思いをつづった紙や花束を海に流したり、空を仰ぎながら家族の名前を大声で呼んだりした後、全員で黙とうをささげた。

 小柳 宝大(みちお) さん(当時34歳)の父親(66)(福岡県久留米市)は、カズワン船内で見つかった宝大さんのリュックサックを携え、宝大さんが残した長靴を履いて参加した。海を見ながら「宝大」と口にした瞬間に涙が止まらなくなったが、「宝大の魂だけでも連れて帰れる気がした」という。

13日の洋上慰霊の行程

 30歳代の息子を亡くした千葉県の男性は「息子も同じ景色を見たんだろうなと思い、船上からの景色を目に焼き付けた」。一方、息子(同7歳)と元妻(同42歳)が行方不明のままの帯広市の男性(53)は、沈没地点で船が止まった瞬間に「思ったより陸に近い」と驚いたという。「それなのに海は凍るほど冷たく、泳ぐこともできずに……」。2人が感じたであろう恐怖と絶望に思いを巡らせ、涙が止まらなくなった。

 大阪府の会社員だった弟(同46歳)とその妻を失った福岡県の女性(58)は、洋上慰霊を一つのきっかけと考え、初めて取材に応じることを決めた。

 この日は病気を抱える両親も同行し、弟夫妻が好きだったヒマワリの花束を手向けた。両親は「息子に会えるから」との一心で苦しいリハビリに耐えたといい、女性は「弟も『よう来たね』と喜んでくれたと思う」と声を震わせた。

ウトロ漁港に帰港後、乗客家族から花を受け取る桜井さん(右)らボランティアのスタッフ(13日午後0時1分)=木田諒一朗撮影

 今回の洋上慰霊は、桜井さんらが全国に寄付を呼びかけ、1400万円以上を集めたことで実現した。正午前にウトロ漁港へ戻った後は、乗客家族が涙ながらに感謝を伝え、スタッフ全員に花を手渡す場面も。桜井さんはスタッフを代表し、目に涙をたたえながら「戻らぬ家族の分も、これからの人生を歩んでください」とあいさつした。

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