夜空に閃く“赤い妖精”「レッドスプライト」とは、激レアな現象
2023年6月に米国カンザス州で撮影されたレッドスプライト。この閃光をニンジンやクラゲのようだと表現する人もいる。(PHOTOGRAPH BY PAUL SMITH)
ヒマラヤ山脈の北に位置するチベット高原では、雷雨がしばしば発生する。標高の変化が大きいため、大気中に激しい対流が生じ、湿った空気が撹拌(かくはん)されて雲が発生するこの場所は、TLEを調べるのにうってつけの観測場だ。しかし、2022年にアン氏とドン氏がレッドスプライトを撮影するまで、ヒマラヤでTLEが記録されたことはなかった。
ホアン氏と共同研究者である中国科学技術大学の大気物理学者のルー・ガオペン氏は、アン氏とドン氏がチベット高原で撮影したビデオと写真を同期させる手法を開発した。彼らは衛星データと星図を使って個々のビデオフレームのタイムスタンプ(時間情報)を決定し、確認できたスプライトの約70%を、その原因となる雷と結びつけることができた。
ホアン氏は、この研究結果はアマチュアによる観測の科学的価値を実証するものだと考えている。「この分野では、はかなくも奥深い現象を理解するために、プロの科学者と情熱的なアマチュアが協力し合っています」
写真家たちはヒマヤラの雷雨でかなりの数のレッドスプライトを捉えただけでなく、「ジェット」と「ゴースト」という、さらに珍しいTLEも撮影していた。研究チームは、16本の二次的なジェット(雷雲から上向きに伸びる青や紫の光の柱)と、少なくとも4本のゴースト(しばしばレッドスプライトの上空で見られる、緑色のぼんやりした光)を発見した。
「上層大気中のスプライトや他のTLEは繊細で静かな現象に見えるかもしれませんが、しばしば強力な、ときに壊滅的な気象システムと関連しています」とホアン氏は言う。「スプライトを理解することは、上層大気に対する私たちの好奇心を満足させるだけでなく、地上の人々が直面する暴風雨について、より深い学びにもつながるのです」(参考記事:「通常の1000倍強い雷「スーパーボルト」、発生の謎に迫る新発見」)
NASA の「スプリタキュラー」プロジェクト
どの種類のTLEが発生するかは、発光現象が起こる高度や雷のタイプ、その場所の大気中に存在する物質によって違ってくるが、各種のTLEの厳密な原因はまだ確認されていない。2022年以来、NASAの「スプリタキュラー(Spritacular)」プロジェクトは、数百人のアマチュア科学者から提供されるデータも活用して、この多様性を捉えようとしている。
「私は世界中の一般市民が撮影したすばらしいTLEの画像を目にしてきましたが、そのほとんどがインターネット上で散発的に共有されているため、科学コミュニティーに気づかれずに終わっていました」と、NASAのゴダード宇宙飛行センターの大気物理学者で、このプロジェクトを率いるバージュ・コサー氏は言う。
「スプリタキュラーは、スプライトや他のTLEの世界初のクラウドソーシング・データベースを構築することによって、このギャップを埋め、一般市民と科学界をつなぐために生まれたプロジェクトです」