「何でも学んでモノにできる人」と「学べない人」を分ける決定的な差 (ベンジャミン・ハーディ 組織心理学者)

「自分には文章を書く才能がない」「数学は苦手だから無理」――。そう思い込んでいる人は、実は才能の問題ではなく、自分の可能性を自ら閉ざしているだけだと、組織心理学者ベンジャミン・ハーディ氏は指摘します。50年に及ぶ学習理論の研究が示す、どんな環境にも適応し、何でも学べる人になるための方法とは。最適な行動を自動的に選択し、能力を上げる環境の作り方を科学的に解き明かした『全力化(ベンジャミン・ハーディ・サンマーク出版)』から再構成してお届けします。

ストア派の哲学者エピクテトスに、若き生徒が尋ねた。あらゆる状況で自分はどう行動すべきか、と。 エピクテトスはこう答えた。 「『自分の心がどんな状況にも適応できるようにしてください』と言うべきだろう」 手早い解決法やその場しのぎが溢れるこの世の中では、何をしようにもかなり細かな指示が必要だと、多くの人が思うようになってきた。 一方、常に変わり続ける世の中では、より高い適応能力が求められるが、適応できない人がむしろ増えている。 適応能力があるということは、「いかに学ぶか」に長けているということに他ならない。自分の環境に注意を払い、そこからいかにして最適な情報やリソースを取り出すかだ。 さらに、適応能力があるということは、環境にコントロールされるのではなく、「自分が環境をコントロールする」ということだ。 あなたが本当に適応能力を備えていて、物事を学ぶ姿勢があるならば、ひとつの環境で長い間身動きが取れなくなるなどということはないだろう。 自分の環境から得られるものをすぐに学び取り、もっと難しい未知の環境へと進めるはずだ。

ビデオゲーム同様に、今いるレベルをクリアしないと次のレベルへは進めない。ゲームでは、そこで学ぶべきを学び、障害を乗り越え、そのレベルをクリアするまで、何度も最初からやり直さなければならないだろう。 人生も同じだ。学び取るまで、レッスンは何度も繰り返される。 今の環境にうまく適応していないのであれば、もっと難しい環境に適応するのは苦労するだろう。 適応能力の高い学習者でいることについて、核となる考え方には次のようなものが含まれる。 (1)「自分は適応して変われるのだ」と信じること。つまり心理学者のキャロル・ドゥエックがいうところの「成長型マインドセット」だ。これは、「固定型マインドセット」(fixed mindset)と対になるもので、柔軟な学習者でいるということだ。 つまり、「反復的な学習習慣」やいくつかの「限定的な学習スタイル」にがんじがらめになることはない。 (2)求める変化に100%、コミットする。つまりそれは、自分が決めたことを守るため、または達成するためには、自分自身を変えることも厭わないということだ。 (3)自分が一番恐れているものへの「耐性」はどうすれば伸ばせるかを学ぶ。 (4)難しくて不快な感情にどう対処し、どう受け入れるかを学ぶ。これは心理学で「情動制御」と呼ばれるもので、自分が抱く恐怖や抵抗に直に触れる必要がある。


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何かを達成したいなら、まずはそれが実現できるのだと思い描き、信じなければいけない。もっとはっきり記すと、今現在、あなたにとって触れられないものを、信じる必要がある。 これは宗教的な信心ではなく、「自分は目標に到達できる」という確信と信念だ。 たとえばもし、億万長者になりたいのであれば、自分が億万長者になれると信じる必要がある。そして、「億万長者は実際にどう振る舞うのか」を学ぶ必要がある。 自分が何かをできるだなんて信じられない人は、「固定型マインドセット」の持ち主だ。こうした人たちは、どこかで聞いた「人のアイデンティティは変えられない」という話を盲信している。 人の本質は絶対であり、育めるものなどないと思っているのだ。 残念なことに、固定型マインドセットの持ち主は人生で苦労することが、長年の研究によって繰り返し示されている。 さらに研究によると、固定型マインドセットの持ち主は、学習するのにも大変な苦労を要する。自分は進化などできないと思い込んでいるのに、どうしてスムーズに学べるだろうか? そして固定型マインドセットの持ち主は、難しい環境を避けようとする。自分にとって快適に学べる方法はひとつしかないと思い込み、それ以外の取り組み方や学習スタイルが必要となる状況を避けるのだ。 しかし難しい環境に適応する力を育むには、複数の学習スタイルを身につけて、それを活用する必要がある。

50年に及ぶ学習理論に関する研究によると、誰もが自分の得意な学習スタイルを持っている。 また、誰もが学びがなかなか進まない難しい状況になったときには、「こうすれば効果的だ」という学習スタイルもバックアップとしていくつか用意している。 とはいえ、「どうも避けてしまう」苦手な学習スタイルもまた、誰にとっても複数あるものだ。 そもそも学習には、次のようなフェーズがある。 ・想像:「アイデア」を思いつく ・熟考:思いついたアイデアについて学ぶ ・分析:学んだことをまとめ、このアイデアを使って何をするのか「戦略的な計画」を立てる ・決定:具体的なアイデアを使う方法を「ひとつ」決める ・行動:アイデアの実現に向けて「何か」をする ・経験:「複数の角度」から学ぶ(たとえば他の人と一緒に、または何かを作って、失敗して、試して) こうしたフェーズのどれかを省けば、あまりうまくは学べないだろう。 しかし私たちは誰もが、どれかを省略してしまう。誰もが、物事を「自分なりの方法」でやりたがるのだ。 興味深いことに、自分が快適だと思う学びについては、ほとんどの人が「成長型マインドセット」を持っている。 たとえば、あなたは数学が好きで、分析的な方法を使って学ぶタイプだとしよう。そのときおそらく、困難や失敗を成長の機会と捉え、自分は演算をもっと上達できると感じるだろう。 アドバイスや学べる機会、誰かからの協力を自ら積極的に求め、好奇心旺盛に、数学に関する知識と視野を広げようとするはずだ。

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