超長期金利上昇:識者はこうみる

 3日午前の国内債券市場で、新発20年債利回りは26年ぶり高水準、新発30年債は過去最高水準を更新した。写真は2013年2月、都内で撮影(2025年 ロイター/Shohei Miyano)

[3日 ロイター] - 3日午前の国内債券市場で、新発20年債利回りは26年ぶり高水準、新発30年債は過去最高水準を更新した。

市場関係者に見方を聞いた。

◎背景は財政不安、政治の姿勢に変化が必要

<三井住友トラスト・アセットマネジメント シニアストラテジスト 稲留克俊氏>

背景は財政不安だ。自民党の森山裕幹事長ら党四役が辞意を表明し、石破茂政権の基盤が揺らいだこと。石破首相(党総裁)は財政規律に厳しいとの評価になっており、退陣が連想されることで財政悪化が懸念されている。

しかもタイミングの悪いことに、英国やフランスも同じような構図で、政治・財政への不安によって超長期金利が10数年、20数年ぶりの水準へ上昇している。

この問題は各国それぞれの問題ではあるが、連鎖してしまう傾向が近年みられるので、その影響も相まって、けさの超長期の円債への強い売り圧力になっていると思う。

日本の財務省が先週、プライマリー・ディーラー(PD、国債市場特別参加者)向けアンケートで流動性供給入札の発行減額を打診したと報じられているが、そうした財務省の努力も政治の動きによってあっけなく打ち消されてしまう、残念な構図が今回も起きた。

今後については、政治サイドが何か姿勢を変えない限り、この金利上昇は止まらないと考える。

◎政局と財政政策に不透明感、投資家が買い控え

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニア債券ストラテジスト 鶴田啓介氏>

1番大きな背景は、政局と財政政策を巡る不透明感だ。自民党の森山裕幹事長ら党四役が辞意を表明し、石破茂政権の基盤が揺らいだこと。きのうの自民党の両院議員総会では、石破首相(党総裁)が当面は続投するとの意向を改めて示したが、森山幹事長ら党四役が一斉に辞意を表明して政権運営は困難さを増している。自民党総裁選前倒しの実施是非は8日に判明する見通しだが、石破首相は財政規律に厳しいとの評価であるため、退陣が連想されることで財政悪化が懸念されている。

石破首相が退陣した場合、誰が次の総裁に選ばれるかはまだ不透明だが、市場としては決め打ちできない以上、高市氏など財政拡張的な人物になるシナリオも意識せざるを得ないということで、超長期金利が大幅上昇している。そうした不透明感自体が投資家の買い手控えにもつながっている。金利が上がれば買い手がいなくなるし、買い手がいなくなれば金利がさらに上昇する、といった悪循環が足もとでは一層強まっている状況だ。

もう1つの背景は、グローバル的にも同じことが起きていることだ。英国もフランスも財政再建をしようとしているが、それに対する疑念が出ている。政局の揺らぎから財政拡張が意識され、超長期金利が上昇しており、日本と全く同じ構図だ。そうした海外の流れも、国内の超長期金利上昇を後押しする要因となっている。

今後については、既に超長期金利は過去最高水準に上昇しており、上昇めどを予想するのは難しいが、投資家が買うに買えないため金利が上昇する状況を変えるには、政権・財政政策の姿形がある程度見えてくることが必要だと考える。石破首相の進退、自民党が連立または協力する先がどうなるのか、または財政政策などが見えてくれば、ある程度投資家の不安心理も落ち着き、金利水準に着目した買いも出てきて、金利上昇に歯止めがかかるのではないかとみている。

◎世界的な悪い金利上昇が日本にも波及

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

欧州や米国などが財政拡張策にかじを切っており、世界的に超長期ゾーンを中心に金利が上昇し、その流れが円債にも波及している。

現状では日本は財政拡張政策にかじを切っていないものの、衆参両院で与党が過半数割れとなる中、野党と政策を進めていかなければならないとの見方から消費税減税がより意識されている。

前日の氷見野良三日銀副総裁の講演を受けて、早期利上げ観測が後退する中、中短期ゾーンの金利低下余地、超長期ゾーンは金利上昇余地がある。

流動性供給入札の発行減額観測はあるものの、前回の国債発行減額後の相場を踏まえると、供給の負担を軽くしても買い手が現れなければ、地合いは改善しない。

世界的にイールドカーブはスティープニングの動きが出ており、日本のイールドカーブも同様の形状になりやすい。財政拡張への懸念を背景とした金利上昇が日本も始まった格好だ。今後は補正予算案が策定されていく中、日本の国債格下げリスクへの警戒感も根強く、円債は超長期ゾーンを起点とした一段の金利上昇圧力が続きやすい。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

関連記事: