ヨークHD、「数千億規模」投資でライバル買収も視野-集中出店で拡大
ヨーク・ホールディングス(HD)は、傘下のイトーヨーカ堂やヨークベニマルを含むスーパー事業での出店拡大に向けて、ライバル企業の買収・合併(M&A)も含めて検討する。
3日に開いた戦略説明会で、西直史取締役が投資額について必ず行うとは限らないとしながらも「制約はない」とし、数千億規模になる可能性を見込んでいるとした。エリア内に集中出店する「ドミナント戦略」を拡大していく際に新規出店だけでなく、ヨークHDの理念に共鳴するスーパー事業者がいる場合には買収も検討する。
同社はセブン&アイ・ホールディングスからスーパー事業など29社が分離して、昨年10月に発足。9月から米ベインキャピタル傘下に入っており、西氏はベインから取締役に就任した。ヨークHDは早期の新規株式公開(IPO)を目指しており、売上高の85%を占めるスーパー事業の成長が市場の評価を得るための関門となる。西氏はIPOの時期について「3年くらいは必要」と述べた。
ヨークHDの石橋誠一郎社長は説明会で、食品スーパーに注力し、惣菜に強みのあるヨークベニマルの知見を生かして差別化を図る方針を示した。テナント事業の積極化も視野に入れ、新たな経営計画も策定する予定だ。
右肩下がりからの脱却
イトーヨーカ堂はセブンの祖業だが、長く業績が低迷してきた。食料品から衣類、生活雑貨まで扱う総合スーパーは専門店の台頭で、戦後の経済成長を支えた小売の雄としての面影はなくなった。岡三証券の金森淳一アナリストは特に衣料品が売れなくなった点を挙げ、他店で代替購入できる商品が並んでいたのが原因だったと分析する。
同社はすでに自社開発のアパレル事業から撤退し、今年の秋冬商品を最後にアダストリアからの衣料品調達も終了する。食品の強化に加え、大規模な店舗閉鎖や人員削減も断行し、首都圏に集中戦略を進めてきた。2025年3-5月期(第1四半期)のスーパー事業の営業利益は前期比4倍の84億円。イトーヨーカ堂は通期で6年ぶりの最終黒字が視野に入る。
ヨークHDの株式はベインが6割、セブンと創業家が4割を保有する。イトーヨーカ堂の山本哲也社長はブルームバーグへのインタビューで、親会社の変更により投資の優先度が高まったことを挙げた。セブンではコンビニ事業が収益の柱だったが、ヨークHDではイトーヨーカ堂が売上高の45%を占め中核を担う。ベインが持つネットワークも生かし、より戦略的な投資ができるとしている。
社内の風土改革も進んでいる。山本氏は「これまではトップの顔色をうかがってお客様を見られなくなっていた」と言及。「何をやってもうまくいかないという負け癖もついていた」と振り返るが、業績の改善で社員の意欲は高まっているという。
問われる企業像
戦略説明会で名前が挙がった事業は、29社の一部だった。持ち株会社としては、スーパー事業など利益貢献度の高い中核事業に注力できれば業績改善が見込める。ただ、残る事業群との相乗効果をいかに生み出し、成長期待につなげるかは大きな課題として残る。岡三証券の金森氏は「アイデアは思いつかない」と語った。
西氏もブルームバーグとのインタビューで「ヨークHDとは何かということが僕の中でわからない」と述べ、社内で共通理解を作るために議論していく必要性があるとした。ヨークHD全体としてのIPOを目指しており傘下企業の切り離し売却は想定していないが、輪郭がつかめた時には構成企業の顔ぶれも定まってくるとの見方を示した。