米株式市場の次の動きを探るトレーダー、資金フローに警戒

米S&P500種株価指数を先週調整局面に導いた株式相場の下落は、比較的落ち着いていたことが注目された。投資家は先行き相場が回復するのか、一段安となるのかヒントを探るため市場心理の指標や主要価格水準を精査しているが、より曖昧な側面である市場流動性にも目を向ける必要がある。

  1987年の大暴落や新型コロナウイルス禍の株安といった米株式市場の危機には、流動性の枯渇による相場変動の激化という共通するテーマがあった。現在は、デリバティブ(金融派生商品)の急速な成長で、デリバティブの暴落が記憶に長く残る傾向があるだけに、オプションポジションが原資産のスポット市場にどう影響するかという点に注目が集まっている。

  ボラティリティーは急上昇してはいない。米シカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)は、株価が下落を続ける中、30近くまで着実に上昇した後、後退した。また、日中の変動がデイトレーダーを引きつけた一方で、S&P500種のプット・スキューはフラット化し、VIXのコール・プット比率は低下した。これは、投資家が株式と関連オプションのヘッジの両方を売却し、資金を引き揚げたことが株価下落の一因であることを示唆している。

The ratio of outstanding VIX calls versus puts has fallen

Source: Bloomberg

  オプションのショートポジションによるネガティブガンマの影響でディーラーのポジション調整のヘッジが時折勢いを加えた可能性はあるものの、オプションが市場に過剰な影響を与えているという論調は高まっていない。シカゴ連銀とCMEグループによる市場の奥行きを測る指標によると、その主な理由はおおむね安定した流動性にある。

  BNPパリバの株式デリバティブストラテジスト、ベネディクテ・ロウ氏と欧州株式デリバティブ戦略責任者のジョルジュ・デバス氏は、「現物市場がオプション価格の感応度を表す『グリークス』から生じるフローを吸収するには、流動性が明らかな鍵となる」と指摘。「主なリスクは、ディーラーのポジションが大きくショートガンマとなり、流動性が引き揚げられ、現物市場の大幅なオーバーシュートが見られる時だ」と述べた。

  S&P500種の下落が起きているのは主に流動性が高い通常取引時間中だ。下落の要因は衝撃的なデータや発表によるものではなく、関税の公表や貿易政策の威嚇が絶え間なく繰り返されたことによるもので、その多くは数時間のうちに撤回されている。

  投資家がS&P500種のポジショニング水準に注目するのは当然のことで、デルタ調整前の想定元本で毎日2兆ドル(約300兆円)強のオプション取引が行われているが、通常の市場環境では、5000億ドルの先物市場期近物や現物市場、上場投資信託(ETF)市場でヘッジのフローを吸収できる。

  ラショナル・エクイティー・アーマー・ファンドのポートフォリオ・マネジャー、ジョー・タイゲイ氏は「市場はディーラーのポジショニングだけで動くわけではない。こうした力学は、より大きなパズルのほんの一部に過ぎない」と指摘。「それがほとんど目立たない日もあれば、標準的な下げが本格的な急落に転じる可能性のある日もある」と論じた。

原題:Traders Gauging Stock Market’s Next Move Keep Wary Eye on Flows(抜粋)

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