コラム:世界の「関税危機」、政府支援はコロナ禍より困難か
[ロンドン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領の関税政策に起因する混乱が、コロナ禍で実施された政府支援の枠組みを蘇らせようとしている。新型コロナウイルスのパンデミックが始まった2020年3月と同じように、足元でも市場は荒っぽい値動きが続き、各国政府は米関税ショックの矢面に立つ企業の救済を話し合っているところだ。しかし政治家たちにとって、今回の危機を乗り切るのはより難しくなるだろう。その理由の第一は、米関税政策自体がまだどのように落ち着くのか見えないからなのは言うまでもない。
2020年当時に各国が実施した支援の規模は決して小さくなかった。国際通貨基金(IMF)の見積もりでは、20年9月11日時点で発表された財政支援策の総額は世界総生産(GDP)の12%弱に相当する11兆7000億ドルに上った。パンデミックの期間を通じて、多くの先進国はGDPの10%を越える追加支出に乗り出した。
A line graph showing the uptick in government debt in five major economies since 2015. There was a major spike in 2020今回各国政府が恐れているのは医療制度の崩壊ではなく、米関税が重要産業と雇用に及ぼす波及的な影響だ。カナダ、ポルトガル、韓国、スペインはこれまでに、関税の打撃を受けている業界を助けるための財政支援策を公表している。だがその金額は、コロナ禍対応時に比べれば微々たる規模に過ぎない。ポルトガルが先週、輸出業者を支える目的で計上した予算は100億ユーロ(110億ドル)で、昨年のGDPの3%強程度だった。スペインが関税の痛手を受けた業界のために準備しているのも140億ユーロだ。カナダは労働者が失業保険申請をしやすくする措置や、打撃が大きい企業が所得税納付を繰り延べできる仕組みを打ち出したが、これは400億カナダドルの流動性支援に相当する。
これらの支援策をいつ、どのように投入するかは各国と、態度が定まらないトランプ政権の関税交渉の行方に左右される。トランプ氏が一歩も譲らず、2日に発表した「相互関税」上乗せ分を復活させれば、幾つかの国や輸出セクターは存続を脅かされる。しかし現状ならば痛みは分散されるだろう。キャピタル・エコノミクスの試算に基づくと、中国以外の大半の国・地域に適用される税率が10%のままで、報復措置が引き続き限定的であれば、今後2年間の世界のGDPは0.4%押し下げられるだけで済む。
ただダメージが想定よりずっと深刻だったとしても、政治家は20年当時に一般的だったほどの「大盤振る舞い」的な介入をためらうかもしれない。なぜなら彼らはまだ、コロナ禍で抱えた借金の返済を続けているからだ。先進国の公的債務のGDP比は昨年109%で、過去最悪だった20年の122%から低下したとはいえ、なおパンデミック前の103%よりも高い。
それでも今回の危機では各国にとって「時間」という有利な要素が1つある。コロナ禍においては公衆衛生危機が急激にエスカレートする中で、ロックダウンや労働者救済策の取りまとめは事実上一晩で行われた。今各国政府は、さまざまな業種を手助けする方法や時期の決定に数カ月かけることができる。もっともこのようなスタート時点のメリットがあっても、関税危機の痛みは何年にもわたって続くことになるだろう。
●背景となるニュース
*スペインと韓国はそれぞれ3日と7日に、トランプ政権の新たな関税に対応して経済をてこ入れする措置を発表。ポルトガルも10日、貸付制度など総額110億ドルの支援策を明らかにした。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。