体質でも年齢のせいでもない…脳神経外科医が警告「疲労をため込む人」に共通する"危険な人付き合い" 休んだのに休んだ気がしないのは「脳疲労」のせい
この現象をもたらすメカニズムのことを、アメリカのワシントン大学セントルイス校の神経学者マーカス・レイクル教授は「デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network :以下DMN)」と名付けました。
DMNには、内側前頭前野、後帯状皮質、下頭頂小葉、楔前部などの脳の領域が含まれ(下部【図表1】参照)、DMNが活性化されると、新たなアイデアがわくだけでなく、過去の経験が整理されて情報が組み立てやすくなり、記憶や思考がうまくまとまるようになります。
無意識化の脳の活動なので、自動車が停止していてもエンジンは止まらずに動いている、アイドリングの状態に置き換えるとわかりやすいでしょう。
イギリスの科学者アイザック・ニュートンは、物思いにふけっているときに、木になっていたリンゴがたまたま落ちるのを見て、万有引力の法則の着想が生まれたといいます。「なぜリンゴは落ちるのか」を意識的に考え、脳の一部をフル稼働させて発見に至ったわけではありません。
また、入浴中や電車移動中に「曲や歌詞のいいアイデアが浮かんだ」というアーティストの話もよく聞きます。これらは、脳を意識的に使わない状態であり、DMNが活性化しているから起こることなのです。
“DMN活性化”のメリットとデメリット
DMNが活性化されると、脳内の情報整理をスムーズに行うことができ、さらには記憶力が定着するので、空いたキャパシティを有効活用できるようになります。それにより、脳のパフォーマンスが格段にアップすることはいうまでもありません。
それだけでなく、脳が余計な情報処理にエネルギーを使わなくて済むので、脳疲労の防止にもなります。忙しさに追われて心理的な余裕がないと感じている人は、そんなときこそ、あえてぼーっとする時間をつくってみてはいかがでしょうか。
ただし、いいこと尽くめというわけではありません。デメリットもあります。じつは、安静時の脳活動の多く(推定60%前後)がDMN関連領域に割り当てられることがわかっており、DMNが活性化しすぎてその状態が長時間続くと、オーバーワーク気味になって歓迎できない事態をまねいてしまうのです。
注意力が散漫になったり、大切なことを一時的に忘れたりすることにもつながります。情報処理がスムーズに進みすぎたことにより、余計なことを考えてしまって、それが不安感を助長するケースもあるでしょう。
この状態を続けていると、脳に蓄積されているエネルギーが枯渇し、かえって疲労の原因になることもあります。
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私がみなさんにお伝えしたいことは、自分の心が疲弊しきってしまうほど、周囲に対して配慮しなくてもいい――これに尽きます。
菅原道仁『働きすぎで休むのが下手な人のための 休息する技術』(アスコム)
空気を読まなくていいとは言いません。とくに組織に属していれば、折り合ったり、妥協点を見いだしたりすることも、時に必要となるでしょう。しかし、空気を読みすぎるあまり、自分自身が疲れてしまうのは大問題です。そこまで気にすることはありません。自分が違うと思えば主張していいですし、それで波風が立つことを危惧するのなら、相手の言うことを受け流してしまいましょう。
仮に険悪なムードになったり、自分の立場が悪くなったりしても、長い人生において、それは一時的なつまずきに過ぎません。その相手とこの先、一生付き合っていくのかと自らに問えば、その答えはほとんどが「ノー」となるでしょう。ならば、重く受け止める必要はないということです。
和を乱さないことばかりを気にして疲れがたまり、心を病んでしまっては身も蓋もありません。私たちに必要なのは「スルーする力」です。自分を守ることを優先して、うまくやり過ごしていきましょう。