アングル:西側企業のロシア市場復帰進まず 厳しい障壁と高まるリスク
[モスクワ 17日 ロイター] - トランプ氏が1月に米大統領に返り咲き、ウクライナ戦争の早期終結を約束すると、西側企業が大挙してロシア市場に戻ってくるのではないかとの熱気が盛り上がった。しかしそれから3カ月がたち、今では厳しい現実が目の当たりになっている。
ロシア政府関係者およびロシア人弁護士4人によると、ロシアはウクライナへの軍事侵攻開始後にロシアでの事業を停止したり資産を売却したりした企業数千社によるロシア市場への再参入に障壁を設けている。ロシアの小売り、自動車、金融などの分野の関係者12人の話では、市場シェアを取り戻そうとする西側企業が直面しているのは、厳しい交渉や大量の書類手続き、そして風評リスクだ。
ロシア財務省のアレクセイ・ヤコブレフ金融政策局長は4月上旬にモスクワで開かれた金融フォーラムの傍ら、「ロシア当局は外国企業がロシア企業と締結したオプション契約を無効にすることはないが、契約の履行には追加の要件を課すだろう」と述べた。
FTLアドバイザーズの弁護士、エカテリーナ・ドロズドワ氏は、事業買い戻し契約を一方的に破棄すれば訴訟が相次ぐだろうと述べ、ロシアが財政資金を増やすための「参入料」を導入する可能性があるとの見方を示した。
ロシアの外資系企業関係者4人によると、幾つかの企業は水面下で問い合わせを行っているが、西側諸国による広範な対ロシア制裁が続く限り、本格的な復帰計画はありえないという。
西側企業撤退後にその空白を埋めてきたロシアの地元企業も、西側企業のロシア市場再参入に障壁を設けるよう政府に働きかけていると、別の弁護士が匿名を条件に証言した。プーチン大統領は3月、撤退時に「反抗的な態度を剥き出しにした」企業が安値で事業を買い戻したり、地元企業を押しのけたりすることは認めないと警告。ロシア財務省は、外国企業に対して現地の生産や研究開発への投資、技術の共有を求めると説明した。
ロシア市場を扱うプライベートエクイティ(PE)関係者は「企業間での話し合いは確かにあるが、条件概要書(タームシート)すら存在せず、ましてや契約には至っていない」と述べ、2022年に撤退した企業がすぐに戻ってくることはないと付け加えた。
ロシアの財務省と中央銀行は、これまでにロシア市場への再参入を申請した外国企業はゼロだとしている。
<価格競争>
自動車市場関係者4人が明らかにしたところでは、同業界は中国企業のシェアが50%強と、2022年以前の10%弱から大幅に上昇し、西側企業が入り込む余地はほとんど残されていない。西側自動車大手は現地生産や政府補助がなければ価格競争で太刀打ちできないという。
ある自動車業界関係者は、西側自動車メーカーは極めて悲観的で、書類手続きだけでも2027年以前にロシア市場に復帰するのは困難との認識を示した。
<風評リスク>
高級品小売り関係者4人の話では、著名なブランドにとってプーチン政権下のロシアでの事業再開には風評リスクも伴う。
関係者2人によると、ブランドがロシア市場に再参入する場合には売り場面積を縮小し、より直接的な販売体制を導入する公算が大きい。ロシア政府は、外国企業の出資比率を制限したい意向で、中国企業との間で採用済みの合弁事業モデルを義務化する見通しだと、2人のロシア人弁護士は話した。
外国のサーバーで運営されている企業は「ボタン1つ」で事業を完全に停止できるため、ITシステムの現地化は特に重要だと別の3人目の弁護士が付け加えた。ロシア下院情報政策委員会のアントン・ネムキン議員は、物流、財務、規制面の課題があり、情報の保管に関する法律も導入されていると指摘。「彼ら(外国企業)は新しいルールに従う覚悟があるのか」と、ロシア市場再参入に懐疑的な見方を示した。
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Chief companies correspondent for Russia, Alexander covers Russia’s economy, markets and the country's financial, retail and technology sectors, with a particular focus on the Western corporate exodus from Russia and the domestic players eyeing opportunities as the dust settles. Before joining Reuters, Alexander worked on Sky Sports News' coverage of the 2016 Olympics in Brazil and the 2018 World Cup in Russia.