カーニー氏がカナダ新首相に就任 「決して」アメリカの一部にならないと表明
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カナダ銀行、イングランド銀行と2つの中央銀行で総裁を務めたマーク・カーニー氏が14日、カナダの新首相に就任した。新首相は、カナダが「決して」アメリカの一部にはならないと約束した。
ジャスティン・トルドー氏の退任発表を受け、政界では新顔のカーニー氏は9日に与党・自由党の党首に選出されたばかり。カナダの首相交代は9年ぶり。
新首相は就任後、「私たちが一緒になって築き上げていくことで、ほかの誰かが奪えるよりはるかに大きいものを、私たちは自分たちに与えられる。それを私たちは承知している」と述べた。
さらに、ドナルド・トランプ米大統領がカナダを「51番目の州」にすると繰り返していることについて、カーニー新首相は記者団に対して、「私たちがアメリカの一部になることは、どのような形だろうと、決してない」と表明した。
「我々はとても根本的に、違う国だ」とカーニー氏は言い、さらに、カナダがアメリカの一部になるなどという考えは「狂っている」とも付け加えた。
カーニー首相は最初の政策措置として、野党などが強く批判する一般消費者向けの炭素税を、公約していた通りに廃止した。これはトルドー政権の重要な環境政策だったが、近年の高インフレのため極めて不評となっていた。
野党・保守党は、この税のため光熱費を含む物価の上昇が国民の負担となってきたと批判していた。
14日午後の初閣議でカーニー氏は、政府は気候変動対策を取り続けると述べた。大規模排出企業に対する産業炭素税は継続される。
カナダ国民は炭素税の負担相殺のための払い戻しを受けてきたが、最後の小切手は4月に受け取る。
トランプ米大統領が開始した貿易戦争にカナダが直面する状況を踏まえ、カーニー首相は、トランプ氏との会談を楽しみにしていると言い、「我々はアメリカを尊敬している。トランプ大統領を尊敬している」、「トランプ大統領はいくつかの非常に重要な問題を最優先課題に据えている」とも話した。
首相としての最初の外国訪問には、イギリスとフランスを予定している。
カーニー氏は、トランプ大統領がカナダ・アメリカ・メキシコ協定(CUSMA)の対象外のカナダ製品に対する25%の関税を維持する限り、特定のアメリカ製品に対するカナダの相互関税を維持すると約束した。
カナダ経済は対米貿易に依存しており、トランプ大統領の関税が全面的に導入されればカナダで景気後退のリスクがあるというエコノミストの観測も出ている。
カーニー内閣の新閣僚の何人かはトルドー政権からの続投。新首相は、特にこのところトランプ政権との交渉に直接かかわってきたメラニー・ジョリー外相、ジョナサン・ウィルキンソン・エネルギー相などを留任させた。
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新首相は、現在10月に予定されているカナダの次期連邦選挙の時期については、記者団の質問には答えなかったが、「この時代に必要とされる、できる限りの強い信任」を国民から得るため、素早く行動するとうかがわせた。
カーニー首相はカナダとイギリスの両方で、中央銀行総裁として経済混乱の中のかじ取りを支えた経験がある。それだけに、総選挙では自分こそがトランプ氏とトランプ氏がもたらす貿易戦争に対応するのに適任だと、有権者にアピールするものと予想される。
総選挙で9年ぶりの政権奪還を目指す最大野党・保守党は、トランプ政権発足までは複数の世論調査で自由党に対して20ポイントのリードを維持していた。しかし今では、両党の支持率は拮抗(きっこう)している。
保守党のピエール・ポワリエーヴル党首はカーニー氏の首相就任後、自由党は4期目の政権を任されるべきではないと主張。物価抑制など国民にとっての数々の問題について、与党はすでに9年間も時間を費やしてきたと批判した。
ポワリエーヴル氏はさらに、自分が首相になれば「トランプ大統領と直接対決し、対抗関税で対応し、主導権を取り戻す」と主張した。
カナダ連邦議会下院(定数338)では現在、自由党153議席、保守党120議席、ブロック・ケベコワ(ケベック州の独立や自治権拡大を主張する地域政党)が33議席、新民主党(NDP)が24議席となっている。
NDPのジャグミート・シン党首は、カーニー氏の閣僚人事から、新政権には進歩的な自由党員の居場所がないことが明らかだと主張。女性や若者や障害者担当の閣僚ポストを設けなかったことを批判し、カーニー首相は「労働者を犠牲にして億万長者を非常に裕福にした」と評した。