「中年時のメタボ」でその後の「認知症」リスクが上昇。200万人8年観察データで判明【最新情報】(黒澤恵(Kei Kurosawa))
今回も、最新の医学エビデンスを見ていきましょう。
取り上げるのは、4月23日に公開された「中高年の時にメタボだと、そのあと認知症になりやすい」という、ちょっと怖い内容の論文。
背景知識も含め、簡単にご紹介します
「加齢によるもの忘れ」とは大きく異なる認知症の「もの忘れ」
「認知症」の初期症状として多いのは「記憶障害」(もの忘れ)です [和歌山県立医科大学・認知症疾患医療センター]。
ただの「もの忘れ」なら、歳を取れば誰でも経験するのですが、認知症による物忘れは少し、様子が違うようです。
「政府広報オンライン」の説明を見てみましょう。
万国著作権条約にのっとり引用このように、認知症による「もの忘れ」は、本人にとっても周りにとっても、かなり大変そうです。
中高年時のメタボも認知症のリスク
そしてこの「認知症」になるリスクが、中高年でメタボだった人ではそうでない人に比べ高くなっていることが、新たに明らかになりました。
韓国からの報告です [文末文献1] 。
私たちと同じ東アジア人ですので、白人データよりも適合性は高いでしょう。
論文が載ったのは「神経学」という学術誌。「米国神経学会」という由緒正しい医学会の公式論文集なので、信頼性はかなり高いと考えて良いでしょう。
書いたのは、韓国・順天郷大学校のリー・ジョンユン氏たちです。
「神経学」誌ウェブサイトに掲載された論文韓国の200万人を8年弱追跡
ジョンユン氏たちが調べたのは、韓国の公的保険データベースです(日本に倣い国民皆保険制度を導入)。
40歳から60歳の、健康診断データがある約200万人(平均年齢49歳)を抽出しました。
その上で、その時点の「メタボ」の有無に分け、それ以降の「認知症発症」リスクを比較したのです。
まずその後8年弱で、2000人中9人が認知症を発症していました。
そして「メタボの有無」で分けて比べると、
「メタボ」だった人ではそうでない人に比べ、認知症になるリスクが相対的に24%、高くなっていました(1.24倍)。
そしてメタボに伴う認知症リスク上昇は、「男性よりも女性」の方が大きくなっていました。
同様に「40歳代」でも「50歳代」に比べ、メタボの人の認知症リスクは高くなっていました。
これは「メタボ」以外が認知症発症に及ぼす影響を、統計学的に除外した後の数字です(純粋にメタボの影響を比較しようと努力)。
では「メタボ」の人では、どのような認知症のリスクが上昇していたのでしょう?
「アルツハイマー型認知症」のリスクも上昇
まず、「血の巡りに問題がある」と考えられている「血管性認知症」、このリスクが「メタボ」では、相対的に21%増えていました。
これは何となく、分かりやすいかもしれません。
意外だったのは「アルツハイマー型認知症」。
こちらもメタボの人ではそうでない人に比べ、リスクが相対的に12%、増えていたのです。
ご存知の通りアルツハイマー型認知症は、ひとたび発症してしまうと、進行を若干遅らせることは可能ですが、現状では治癒できません。
これらの結果からジョンユン氏たちは、「メタボを避けるように生活習慣を変えれば、認知症リスクも下げられるかもしれない」とコメント。
ただし本当にそうなるかは、別に臨床試験をする必要があるとも記しています。
「メタボそのものが認知症リスクを挙げているの(「メタボ」がファクター)か、それとも「メタボの人に共通する未知の要因が認知症リスクを上げている(「メタボ」はマーカー)なのか、この研究だけではわからないからです(マーカーならば治療しても無意味)。
とはいえ、「メタボ」の是正、つまり「腹囲径減少」「血圧低下」「血糖低下」「中性脂肪低下」「善玉コレステロール増加」——は、認知症と無関係でも血管の健康に良いのは明らか。
なおで「認知症抑制」に賭けて、メタボ解消に努めても損はないはず。
あなた本人だけのためでなく、家族や周りの人たちのためにも、少しだけ頑張ってみませんか?
認知症予防については次のような論文紹介記事も書いています。
こちらもぜひ、お読みください。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
ではまた!
今回ご紹介した論文
本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。