ハマス、イスラエルの停戦案を拒否 ガザ南部では野戦病院の門付近に空爆
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ヨランド・ネル中東特派員(エルサレム)、ラシュディ・アブ・アルーフ・ガザ特派員(カイロ)
パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスが、イスラエルから出されていたガザでの6週間の停戦案を拒否したと、15日に報じられた。この案は、ハマスに武器の放棄を求めていた。
停戦をめぐる交渉に詳しいパレスチナの高官によると、この案には、戦争の終結やイスラエル軍の撤退という、ハマスの主要な要求に対する約束が含まれていなかった。また、停戦の条件として、ハマスが拘束している、生存している人質の半数を解放することがあった。
南部ハンユニスでは野戦病院への空爆で警備員が死亡し、他の9人が負傷したと、病院が発表した。イスラエル国防軍(IDF)は、ハマスの部隊の指導者を攻撃したと述べた。
一方、国連機関は「ガザの人道状況は、敵対行為が始まってからの18カ月間で最悪の状態にある可能性が高い」と警告している。
イスラエルがガザへの支援物資の搬入を止めてから6週間が経過しており、これまでで最も長い停止期間となっている。
国連機関は、ガザには長期間持ちこたえるだけの食料が十分にあるというイスラエルの主張を強く否定し、封鎖が国際人道法に違反する可能性があると示唆している。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、物資の供給停止はハマスに人質を解放させ、3月1日に終了した停戦を延長させることを目的としていると述べた。
一方で、国連の人道支援機関は、「現地のパートナーからは、民間人に多数の死傷者を出す攻撃が急増し、人々の命を維持するために必要な残りのインフラの一部が破壊されているとの報告を受けている」と述べた。
イスラエルは先週末、最新の停戦案を地域の仲介者に提出したとされている。これは、ネタニヤフ首相が米ワシントンでドナルド・トランプ大統領と会談した数日後のことだ。
ハマスの交渉責任者であるハリール・アル=ハイヤ氏が率いる代表団は、その後、カイロでエジプト情報当局者と会談した。
パレスチナの高官はBBCに対し、「エジプトを通じて組織に伝えられたイスラエルの提案は、戦争を終結させることや、ガザからの撤退に関するイスラエルの約束なしに、ハマスの武装解除を明示的に求めるものであった。したがって、ハマスはこの提案を全面的に拒否した」と述べた。
イスラエルが停戦を進める条件としてハマスの武装解除を追加したのは初めてとされる。これはハマスにとって譲れない一線だ。
パレスチナの高官は、イスラエルが戦争を長引かせながら、人質の救出だけを求めて時間稼ぎをしていると非難した。
ガザには59人の人質が残っていて、そのうち24人が生存しているとみられている。
ハマスの軍事部門のアブ・ウバイダ報道官は15日午後、イスラエル系アメリカ人兵士で人質のエダン・アレクサンダー氏(21)を拘束しているグループが、「直接攻撃を受けた後に連絡が途絶えた」と述べた。
ウバイダ氏はこの主張を裏付ける証拠を示さず、連絡が途絶えた時期についても言及しなかった。イスラエルは、人質が拘束されていると考えられる場所への攻撃を避けているとしている。
ハマスは12日にもアレクサンダー氏の映像を公開した。イスラエル政府を批判する様子が映っていたが、強制されているように見えた。
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最近解放された人質たちは、地下の過酷な環境で多くの人が一緒に拘束されていたとしている。けがの治療を受けず、今なお健康状態が悪い人もいるという。
ハマスは、敵対行為の完全な終結とガザからのイスラエル軍の完全撤退と引き換えに、拘束している全員を返還する準備があると述べた。
以前は、停戦延長と引き換えに人質5人を解放すると提案していたが、解放される人質の数について柔軟性を示していると主張している。
BBCが得た情報によると、現在、エジプトがハマスに修正された提案を提示し、ハマスがそれを検討しているという。
イスラエルのメディアは、すぐに停戦の突破口が見つかるとは期待していなかった。
イスラエルの新聞「イェディオト・アハロノト」は、イスラエルの安全保障当局の匿名高官の、次のような見方を報じた。
「2〜3週間以内に合意が成立するとみているが、現時点ではまだ両者の間に溝があり、距離は大きい」
「我々は19人の生存している人質を解放させたい。イスラエルとアメリカは連携しており、軍事的圧力が影響を与えている」
「彼ら(ハマス)はガソリンが不足しており、食料と燃料は数週間で尽きるだろう。ガザ地区北部への住民の帰還という大きな成果は消え去った。住民からの圧力が始まっている。それが彼らを動揺させている」
イスラエルは3月18日にガザへの爆撃を再開し、その後地上作戦も再開した。ネタニヤフ首相は、今後の停戦交渉は「戦火の中で」行われると述べた。
ハマスが運営するガザの保健省によると、イスラエルがガザで攻撃を再開して以来、少なくとも1630人が殺害されており、18カ月間の戦争での総死者数は5万1000人に達した。
イスラエルによると、2023年10月7日のハマス主導のイスラエルに対する攻撃では、約1200人が殺され、251人が人質となった。
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15日朝、イスラエルの戦闘機がガザ南部アル=マワシにあるクウェート野戦病院の門付近を攻撃した。同病院の広報担当者がBBCに語った。
アル=マワシは南部ハンユニス近郊の海岸沿いの地域で、避難民が集まるテント地帯となっている。
同病院の広報担当のサベル・アブ・アラル氏によると、現場で働いていた男性1人が死亡したほか、病院のスタッフと患者らが負傷した。また、救急車3台と、患者の受付として使用されていたいくつかのテントが損傷した。
野戦病院がフェイスブックに公開した映像には、血まみれの男性が急いで運ばれ、蘇生が試みられている生々しい様子が映っていた。
IDFは声明で、病院の外で「ハマスのテロリスト組織のリーダーと戦闘区域の指揮官」を攻撃したと発表したが、証拠は示さなかった。
また、地域の被害を軽減するために「精密兵器」を使用したとも述べた。
この攻撃は、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が北部ガザ市のアル・アハリ・アラブ病院への攻撃について「深く懸念している」と述べた後に行われた。
イスラエルは、ハマスが「指揮統制センター」として使用していた建物を標的にしたと述べたが、ハマスはこれを否定している。
医師たちは、攻撃のわずか20分前にIDFから警告を受け、大急ぎで病院から人々を避難させようとしたと述べた。頭部外傷の治療を受けていた12歳の少年が、治療が中断されたために死亡したと伝えられている。
ガザ北部で最も機能していた同病院は現在、サービスを停止しており、新しい患者を受け入れることができない。
グテーレス事務総長の報道官は、「国際人道法の下では、負傷者や病人、医療従事者、病院を含む医療施設は尊重され、保護されなければならない」と述べた。
さらに、攻撃はすでに壊滅的な状態にあるガザ地区の医療システムに「深刻な打撃を与えた」と指摘。援助物資の搬入が止められているため、医療用品だけでなく食料や水の在庫も不足していることを強く懸念していると語った。
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最近のイスラエル軍の避難命令により、ガザの210万人の住民が広範囲にわたって避難を余儀なくされている。
国連によると、ガザ地区の約70%が現在、避難命令下にあるか「立ち入り禁止区域」に指定されている。この「立ち入り禁止区域」では、イスラエル当局が人道支援チームに対して移動の調整を求めている。
イスラエルでの世論調査によると、大多数のイスラエル人がガザでの停戦合意を支持している。政府の掲げる戦争目標に関しては、ハマスの統治および軍事能力の解体よりも人質の帰還を求めている。
しかしネタニヤフ首相は、戦争を終結させれば連立政府を崩壊させると脅迫する強硬派の宗教的超国家主義政党から支持を受けている。
イスラエルとハマスは1月に停戦協定に署名。合意の第1段階では、約1800人のパレスチナ人収容者と引き換えに、人質33人が解放された。うち25人が生存していた。
その後、イスラエルは計画されていた第2段階の交渉を開始することをほぼ拒否した。第2段階は、イスラエル軍の完全撤退と戦闘の完全終結につながるはずだった。
先週には、イスラエルの予備役兵と退役軍人が、継続中の戦争を非難し、その優先事項を疑問視する複数の公開書簡に署名した。
これに対し、IDFの参謀総長と空軍司令官は、最初の声明に署名した空軍予備役兵を解雇。この動きに対する批判も出ている。
予備役兵とその家族の間では、継続する予備役勤務の負担や、戦闘兵が不足しているにもかかわらずIDFが超正統派ユダヤ人を徴兵できていないことに対し、不満が高まっている。