ヴァンス米副大統領、グリーンランド訪問中にデンマークを叱る
画像提供, Reuters
アメリカのJ・D・ヴァンス副大統領は28日、訪問先のデンマーク自治領グリーンランドで、デンマーク政府がグリーンランド住民を中国やロシアに侵略されやすい弱い状態で放置していると批判した。さらに、グリーンランド住民にアメリカと「取引」するよう求めた。
グリーンランドを訪れたヴァンス氏は、ドナルド・トランプ米大統領が武力でグリーンランドを占領するという脅しへの懸念を鎮めようとした。
その代わりに、同氏はグリーンランドの住民に対し「自己決定権」を受け入れ、1721年以来この地域を支配してきたデンマークとのつながりを断つよう求めた。
また、デンマークはグリーンランド自治領を守るために十分な投資をしていないとデンマーク政府を非難し、デンマークが「ロシアや中国、その他の国々による非常に攻撃的な侵略からグリーンランドの人々を安全に守る」必要があると主張したものの、それ以上の詳細は明らかにしなかった。
「デンマークに対する我々のメッセージは非常にシンプルだ」とヴァンス氏は言い、「あなた方はグリーンランドの人々のために良いことをしてこなかった。グリーンランドの人々への投資が足りなかったし、この信じられないほど美しい大陸の安全への投資も足りなかった」と批判した。
人口5万7000人のグリーンランドには、未開発の鉱物や石油が大量に埋蔵されていると考えられている。
ヴァンス氏はそれを踏まえて、グリーンランド周辺の航路や鉱物資源に複数の国が関心を抱いていると指摘。アメリカは地上での米軍のプレゼンスをすぐに拡大する計画はないものの、海軍艦艇や軍用砕氷船などを増やすつもりだと述べた。
「私たちはドナルド・トランプ流に取引をまとめ、この地域の安全を確保できると考えている」とヴァンス氏は語った。
ヴァンス氏の28日の訪問は当初、妻ウシャ氏が犬ぞりレースを観戦する「文化的」ツアーとして予定されていた。しかし、その意図が厳しく注目され、複数の抗議行動が計画される中、警備上の問題が懸念されたことから、訪問内容は変更された。
結果的に副大統領夫妻は、マイク・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)やクリス・ライト・エネルギー長官らとグリーンランドに数時間滞在するだけにとどめ、自治領の首都ヌークから約1500キロ離れた島の北部にあるミサイル防衛施設、ピトゥフィク宇宙基地を訪問しただけだった。
今年 1月の世論調査では、グリーンランド住民の圧倒的多数がアメリカによる併合に反対している結果が明らかになった。グリーンランドの首相は、米副大統領の訪問は「敬意が欠けている」ことを示すものだと反発している。
デンマークのフレデリック国王もアメリカの計画を拒否した。
国王は28日、「私たちはこれまでとは異なる現実を生きている」とソーシャルメディアで述べた。「グリーンランドへの私の愛情と、グリーンランドの人々と私の結びつきは不変で、そのことに疑いの余地はないはずだ」とも国王は強調した。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相はBBCへのコメントで、ヴァンス氏の発言に異議を唱えた。
「私たちは長年にわたり、とても難しい状況でも、アメリカと肩を並べてきた」、「したがって、副大統領がデンマークについてこのように言及するのは正確ではない」とフレデリクセン首相は述べた。
さらに首相は、 デンマークはすでに防衛費を大幅に増やしてきたし、今後も監視の強化、北極圏の新型船舶、長距離ドローン、人工衛星などに投資を拡大すると述べた。
「私たちは、昼夜を問わずアメリカと協力する用意がある」、「協力は必要な国際ルールに基づいたものでなければならない」 と首相は強調した。
グリーンランドの新首相イェンス・フレデリック・ニールセン氏は、ヴァンス氏の訪問を前に、この訪問は「グリーンランドの人々への敬意が欠けている」ものだと述べた。
グリーンランドの首都ヌークでBBCが話を聞いた人々の中には、アメリカの申し出に納得しない人もいた。
市内の文化センターで、芸術家のカーリン・ポールセンさんは「物事の言い方にはいろいろあるが、しかし、トランプ大統領の言い方はふさわしい物言いではないと思う」と話した。
「ニーナ」とだけ名乗った女性は、「(訪問について)心配している。ちょっと変な感じがして、嫌だ」と話した。 娘のアニタさんは、今回の訪問は「多くの不確実性を引き起こすもので、大勢が心配している」と述べた。
2009年以来、グリーンランドには独立の是非をめぐる住民投票の実施権がある。近年では一部の政党が、独立を強く求め始めている。
グリーンランドは領内の問題には自治権があるが、外交・防衛政策に関する決定はデンマーク政府が行う。
今月の選挙に参加した主要6政党のうち5政党はデンマークからの独立を支持しているが、独立までの行程については意見が分かれている。