【解説】 「手違い」で中米に強制送還、アブレゴ=ガルシア氏と「ギャング・メンバー」疑惑について分かっていること

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画像説明, 3月にトランプ政権が「手違い」で中米に強制送還したキルマー・アブレゴ=ガルシア氏

シャヤン・サルダリザデ、マーリン・トーマス、ジェイク・ホートン、マイク・ウェンドリング BBCヴェリファイ(検証チーム)

トランプ米政権は3月、ギャング団「MS-13」のメンバーだとして、エルサルバドル出身で米メリーランド州在住のキルマー・アブレゴ=ガルシア氏(29)を強制送還した。ドナルド・トランプ大統領が不法移民対策の一環として、犯罪組織のメンバーとされる人々を国外に追放する中で、「事務手続き上の手違い」があったという。アブレゴ=ガルシア氏の強制送還によって、政権の移民政策をめぐる法廷闘争が起きている。

メリーランド州の連邦地裁、そして米連邦最高裁判所も、アブレゴ=ガルシア氏は政府によって誤ってエルサルバドルに強制送還されたと判断。トランプ政権に対し、同氏の帰国を「容易にするよう」命じている

しかし、ホワイトハウスは、アブレゴ=ガルシア氏がエルサルバドルにルーツを持つ国際ギャング団「MS-13」のメンバーだと主張し、同氏がアメリカで暮らすことは二度とないだろうと述べている。トランプ氏は1月に、「MS-13」を外国テロ組織に指定する大統領令に署名した。

これに対してアブレゴ=ガルシア氏は、自分は「MS-13」のメンバーではないと、米政権の主張を否定している。同氏には、犯罪で有罪になった経歴はない。

BBCヴェリファイ(検証チーム)は、アブレゴ=ガルシア氏について、そして彼が「MS-13」とつながっているとする米政権の主張について、分かっていることと、まだ明らかになっていないことを見極めるため、裁判資料と公的記録を調査した。

裁判資料によると、アブレゴ=ガルシア氏は2012年にアメリカに不法入国したことを認めている。

2019年3月、彼はメリーランド州ハイアッツヴィルにある米住宅リフォーム小売「ホームデポ」の駐車場で、別の男性3人と共に拘束された。連邦移民当局の施設で勾留されたが、その後、エルサルバドルのギャングから迫害される恐れがあるとして、強制送還を差し止める保護処分の対象になった。

同州のプリンスジョージズ郡警察は、男性たちが「うろついていた」としている。その後、アブレゴ=ガルシア氏とほかの2人がMS-13のメンバーであることを確認したという。

警察は「ギャングに関する現場での聞き取りシート」と題する文書に、当時の観察内容を詳細に記している。

それによると、アブレゴ=ガルシア氏は「シカゴ・ブルズの帽子をかぶり、さまざまな額面の紙幣に描かれた歴代大統領の目や耳や口が札束で覆われたデザインの、パーカーを着用していた」という。

この記録を書いた警官たちは、この服装は「ヒスパニック・ギャングの文化を示すもの」で、「シカゴ・ブルズの帽子の着用は、MS-13の正式メンバーであることを表している」と主張している。

MS-13について長年研究している、ジャーナリストで作家のスティーヴン・ダドリー氏は、「確かにある時から、角のある雄牛をあしらったシカゴ・ブルズのロゴが、MS-13のシンボルの悪魔の角の代わりに使われていた」のは事実だと述べた。

しかし、絶大な人気を誇る米プロバスケットボールNBAのチーム・ロゴを身に着けるのは、もちろんギャングに限ったことではないと、ダドリー氏は付け加えた。

「ギャングと関係があるかどうかは、証言や犯罪歴、そのほかの裏付けとなる証拠をもとに、判断する必要がある」と、ダドリー氏は指摘した。

警察の聞き取り記録や、そのほかの裁判資料によると、警察は「実績のある信頼性の高い情報源」から、アブレゴ=ガルシア氏がMS-13の「西側の小集団」の現役メンバーで、「チェケオ」という階級を持っているとの情報を得たという。

しかし、ダドリー氏によると「チェケオ」は階級ではなく、組織にまだ正式に入っていない新人を指す用語だという。

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画像説明, アブレゴ=ガルシア氏の妻ジェニファー・バスケス=スラ氏は、夫はMS-13のメンバーではないとしている

弁護人は、MS-13の「西側の小集団」拠点はニューヨークで、アブレゴ=ガルシア氏はニューヨークで暮らしたことは一度もないと、法廷で主張した。また、政府文書によると、警察が入手したアブレゴ=ガルシア氏に関する情報はいずれも「また聞き」だと、弁護士は一蹴した。

アブレゴ=ガルシア氏はアメリカあるいはエルサルバドルで、ギャングのメンバーだったことはなく、犯罪歴もないと、弁護団は主張している。裁判記録によると、同氏はアメリカで14年間生活し、3人の子供をもうけ、建設業に従事していた。

しかし、2019年にアブレゴ=ガルシア氏を強制送還するかどうかの裁判を担当した裁判官は、アブレゴ=ガルシア氏がギャング・メンバーだと裏付ける十分な証拠が、機密情報によって示されたと述べていた。この判断は後に、ほかの裁判官からも支持された

その結果、アブレゴ=ガルシア氏は保釈請求が棄却され、勾留が続いた。この間、同氏はエルサルバドルへの強制送還を防ぐために亡命申請をした。

裁判資料によると、2019年10月に「国外退去処分の保留」が命じられた。これは亡命とは状況が異なるが、エルサルバドルに戻れば危害が及ぶ可能性があるという理由から、米政府によるエルサルバドル送還を防ぐ内容の命令。

アブレゴ=ガルシア氏がアメリカに入国する以前、同氏の家族と事業は「バリオ18」の脅迫を受けるなどしていたという。

2019年に送還保護を受けて釈放されて以降、アブレゴ=ガルシア氏は毎年、移民当局の職員との面会に「欠かさず、何事もなく」応じていたと、弁護団は主張している。

アブレゴ=ガルシア氏をめぐっては、ほかに少なくとも2件の「犯罪行為」疑惑が浮上しているが、どちらについても有罪にはなっていない。

しかし、バスケス=スラ氏は今月16日に声明で当時について、訴訟を続けないことにしたうえで夫と「カウンセリングを受けるなどして、家族として個人的にこの状況を解決することができた」と説明。夫は「家族を愛するパートナーで父親」だとして、MS-13のメンバーではないと繰り返し否定している。

こうした中、ホワイトハウス報道官のキャロライン・レヴィット氏は15日、アブレゴ=ガルシア氏が人身売買に関与していると非難した。

報道官の発言は、保守系ニュースサイト「テネシー・スター」の報道踏まえたものとみられる。同サイトは、アブレゴ=ガルシア氏が2022年12月に、人身売買の疑いでテネシー州の高速警察に拘束されたと伝えている。同氏が運転していた車には、7人が同乗していたとされる。

高速警察が米連邦捜査局(FBI)に連絡し、その後、アブレゴ=ガルシア氏らは釈放されたのだと、同サイトは匿名の情報筋の話として報じている。

BBCはこの報道内容を独自に検証できていない。テネシー州当局とFBI、アブレゴ=ガルシア氏の弁護人にコメントを求めている。

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