トランプ米大統領の対中関税、iPhoneの値段は上がるのか?
画像提供, Reuters
リヴ・マクマーン(テクノロジー担当記者)、ゾーイー・クラインマン(テクノロージー担当編集長)
携帯電話、ノートパソコン、タブレット、スマートウォッチなど、世界で大いに人気のガジェットが今後、アメリカで今後大幅に値上がりする可能性がある。
こうした製品の多くは中国で作られている。そして今や、異論の多いドナルド・トランプ米大統領の貿易政策によって、中国製品のアメリカ輸入には145%の関税が課せられることになっている。
これがiPhoneと開発元のアップルに、果たしてどういう影響を与え得るのか、注目されている。一部のアナリストは、コストが消費者に転嫁されれば、アメリカでのiPhoneの値段は何百ドルも上がる可能性があると指摘している。 また、関税がドルの価値に影響すれば、世界中でiPhoneやその他のデバイスの輸入コストが上昇し、イギリスでも店頭価格が上昇する可能性がある。
英市場分析会社CCSインサイトのベン・ウッド氏はBBCに対し、関税が継続されれば、次期モデルの発売時にアップルはiPhoneの価格を世界的に引き上げる可能性があると話した。
ウッド氏は、「アップルが世界の場所ごとに、価格設定を変えるとは考えにくい」と指摘。たとえば、イギリスで端末を安く買って利ざやを得るためアメリカで転売するなどの事態は、アップルとしては避けたいはずだ。
しかし、従来はアメリカに商品を送ってきた企業が、比較的関税の低いイギリスなど他の国に商品を送れば、価格は安くなるかもしれないという意見もある。
また、関税のコストが世界中の消費者に転嫁されれば(たとえば、機器の費用を分散させるために契約期間を長くするなど)、大きな変化が起きるかもしれない。
これまで 携帯電話の契約期間は通常2年だったが、ウッド氏によるとすでに一部の会社は4年契約を提供している。さらに2025年には「5年契約も登場するかもしれない」とウッド氏は言う。
「これは要するに、スマートフォンのためにローンを組むようなものだと言える」
調べによると、アメリカで販売されるアップルのiPhoneのうち80%は中国製、残りの20%はインド製だという。
アップルは近年、サムスンなど他のスマートフォン大手と同様、中国への過剰な依存を避けるため、サプライチェーンの多様化に取り組んできた。その中で、インドとヴェトナムが新しい製造拠点の最有力候補として浮上している。
関税の発効に伴いアップルはここ数日、インド製端末の生産を加速・増加させようとしているとされる。
ロイター通信は10日、アップルがインドからアメリカへ600トン以上のiPhoneを輸送するため貨物便をチャーターしたと報じた。
トランプ大統領がインドへの関税を含め、ほとんどの国への関税を90日間一時停止する中、インドはiPhone製造拡大による恩恵を受けるかもしれない。
BBCはアップルに対し、関税が同社の事業と価格にどのような影響を及ぼすのか取材し、コメントを求めているが、まだ回答はない。
トランプ大統領とその周りの顧問たちは、関税の目的はアメリカ国内での製造が増えるように奨励することだと主張する。
しかし、テクノロジー業界は、製品の部品や組み立てに関して世界的なサプライヤー ネットワークに依存している。 これに加え、アジア並みの生産スピードと低コストに対応できる熟練労働者を見つける必要がある。
つまり、サプライチェーンの移転は決して簡単なことではないのだ。
アップルは今年2月、アメリカに5000億ドルを投資すると約束した。トランプ政権はこれが、アメリカ国内での製造拡大につながると考えている。
しかし、ウェドブッシュ証券のアナリスト、ダン・アイヴス氏は、相対的に費用の安いアジアの製造拠点からアメリカへと、サプライチェーンの一部を移転するには、かなりの時間と費用がかかると言う。
「現実には、サプライチェーンの10%をアジアからアメリカに移転するだけでも、業務の流れに大混乱が生じる。我々は、移転には3年と300億ドルがかかると推定している」と、アイヴス氏は4月3日にソーシャルメディア「X」に投稿した。
アップルは、関税コストをアメリカの消費者に転嫁して値上げするつもりなのかどうか、まだ明らかにしていない。
一部のアナリストは、アップルは他社よりも恵まれた立場にあると考えている。製品の製造にかけた費用よりも多くの利益を製品から得ているからだ。
「アップルは端末で高い利益率を確保しているので、少なくとも短期的には、財政的に大打撃を受けることなく、関税コスト増加の一部を吸収できる」。調査会社フォレスターの主任アナリスト、ディパンジャン・チャタジー氏はこう言う。
さらに、アップルは強力なブランド力があり、人気もあるので、コストの一部を消費者に転嫁してもさほど大きな反発を受けずに済むかもしれないと、チャタジー氏は言う。
「アップルというブランドは、競合他社よりも高い忠誠心を獲得している。そのため、許容可能な範囲の価格上昇なら、それでただちに顧客がアンドロイドOSベースの競合他社へ逃げていく可能性は低い」
一部の推計によると、もしも関税コストを消費者に転嫁するなら、アメリカでのiPhoneの値段は最大3倍になる可能性があるという。
投資銀行UBSの推計によると、トランプ大統領が対中関税を125%に引き上げたことを受けて、中国製でストレージ容量256GBのiPhone 16 Pro Maxの価格は、1199ドルから1999ドルに急騰したという。
インド製のiPhone 16 Pro(128GBストレージ)の価格は999ドルから1046ドルに5%ほど上昇すると、UBSは予測している。 ダン・アイヴィス氏などのアナリストの中には、「Made in USA(アメリカ製)」のiPhone価格は3500ドルまで高騰する可能性があるという意見もある。
次に何がどうなるのかについては、不確実な部分がたくさんある。アップルなどの企業が関税にどう反応するのかは、まだ不明だ。
それでもアメリカでは一部の消費者が、iPhoneを買うためにアップルストアに急ぎ向かっているという。
BBCはニューヨークのアップルストアの外で、値上げを警戒してアップル製品を買った人たちに話を聞いた。
DJ兼セキュリティー技術者のアンソニー・カシオッポさん(53)は、新しいiPhoneを購入した。
「本当は、携帯電話が特に必要だったわけではない(中略)でも、2倍の値段を払うつもりはなかった」のだという。
美容師のブルース・コンロイさんはBBCに対し、価格がかなり上昇したとしても「アップル製品を使い続けたはず」だが、値上がり次第では新型iPadの購入を延期する可能性もあると話した。
「関税が導入されるので、値上がりする前に買いたいし、上がると予想しているから買った」。個人ファイナンスの編集者、ジュリア・バウマンさんは、購入したばかりのマックブックについてこう話した。
次期iPhoneの価格がいくらになるのか知るには、おそらく秋まで待たなくてはならない。 しかし、関税コストが価格上昇につながるなら、競合の携帯電話や中古品に目を向ける人もいるかもしれない。
前出のCCSインサイトはイギリスについて、2025年に550万台の中古スマートフォンが販売され、市場全体の29.7%を占めると予測している。
iPhoneは依然として市場で最も高価なスマートフォンの一つで、米グーグルや韓国サムスン電子などは、同じような機能を備えた携帯電話を、アップルより低価格で提供している。
もうひとつの選択肢、そしておそらく最も費用対効果の高い選択肢は、新型iPhoneへのアップグレードを諦めて、少し古くて安価なバージョンを検討することだ。
「消費者として一番じたばたしない方法は、すでに持っているスマートフォンを、もっと長く使い続けることだろう」とウッド氏は話した。
(追加取材:ポール・サージャント、トム・フィン、プラティクシャ・ギルディアル)