21人と282体の動物の骨を発掘、ローマ時代の英国の生贄か、研究
ローマ人がペットとしてイヌを飼っていたのは、紀元2世紀ないし3世紀のモザイク画からもうかがえる。英サリー州の儀式の遺跡から見つかった骨の一部は、飼いイヌの骨だったかもしれない。ただし、飼い主がローマ人だったのかブリトン人だったのかは不明だ。(Photograph by Bridgeman Images)
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英国南部で見つかった古代の採石場の竪孔(シャフト)に、儀式の跡を示す子イヌの死骸や、生贄だった可能性のある人骨、着色されたイヌの陰茎骨が埋まっていた。ローマ帝国にグレートブリテン島が征服された初期のころに、どのような豊穣の儀式が行われていたのかがこれらの遺物から明らかになりつつある。
「足の踏み場もないほど、おびただしい数の骨でした」と英レディング大学の生物考古学者エレン・グリーン氏は語る。氏は今回の発見について、2024年12月25日付けで学術誌「Oxford Journal of Archaeology」に論文を発表した。
大量の骨が発掘されたこの孔は、ブリテン島がローマ帝国の支配下にあった時代の儀式跡としては最大級だ。紀元1世紀ごろ、征服されたこの地の人々がローマの文化的慣習をどのように取り入れたのか、あるいは取り入れなかったのかを示す手がかりになっている。(参考記事:「古代ローマの身だしなみは実にワイルド、ワキ毛抜きや肌かきも」)
グリーン氏のチームは2015年、ロンドンの南西にあるサリー州の町ユーエルで調査を行っていた。介護施設を建設する前に義務づけられていた考古学調査だった。ユーエルにはかつてローマ時代の集落があり、火打ち石や白亜(チョーク)の採石場が見つかっており、考古学者はこの地域には遺跡があるかもしれないと考えていた。
発掘調査を行うと、研究チームは大量の骨が残された深さ4メートルほどの竪孔を発見した。一番上の層にあったのは主にさまざまな種類の動物の骨で、人間が食べたものの形跡を示す、いわば古代の台所ごみのようなものだった。
しかしさらに掘り進めると、イヌやウマ、ブタの骨、そして人骨が次々に発掘された。(参考記事:「ストーンヘンジ期のブタ宴会、全島イベントだった」)
集計し分析したところ、最終的には、識別可能な骨片はおよそ1万1400個に及んだ。その中には、少なくとも21人の人間および282体の動物の一部が含まれていた。
「正直に言って、英国でこうしたものが発掘された遺跡はほかにはありません」とグリーン氏は言う。一緒に埋まっていた硬貨に刻まれていた年代と放射性炭素年代測定法から、これらの骨は、およそ紀元77年から遅くとも紀元118年ごろまでに埋められたものとみられる。紀元43年にローマ帝国が初めてブリテン島に侵攻してから、わずか数十年後の時代だ。
ローマ時代を専門にする英レディング大学の考古学者で、この研究には関与していないマイケル・フルフォード氏は、今回の発見を「驚くべきもの」と語り、グリーン氏による「非常に綿密な遺跡調査」を称えた。
明らかな死因を示す骨がほぼ見られない
これらの人間や動物の死因は不明だが、グリーン氏によれば、堆積のようすがほかの埋葬とは違うという。
例えば、一番上の層の骨は食べかすと見られるが、それ以外の層には、外傷など明らかな死因を示す骨がほとんど見られない。とりわけイヌはどれも死んだときは健康だったとみられ、イヌの多くが野良ではなくペットだったことを示しているのかもしれない、とグリーン氏は語る。(参考記事:「古代ローマ人も「鼻ぺちゃ犬」好き? 2000年前の墓から骨を発見」)
埋葬された人物や動物に何が起きたのかを断言するのは難しいが、生贄だった可能性を排除できないとグリーン氏は言う。当時、喉を切るのが一般的な生贄の方法で、すると骨に跡は残らない。