【解説】異常気象が新しい日常に……英気象庁が最新報告書で警告(BBC News)
ジャスティン・ロウラット気候変動編集長 イギリスの気象庁は14日、同国における気候変動の影響を調査した最新報告書を発表した。温暖化が進む中で、イギリスにおける高温や降水量に関する記録が、これまで以上に頻繁に更新されていると警告している。 「イギリスの気候の現状報告書」によると、気象パターンの変化により、現在のイギリスは数十年前とは「著しく異なる」気候を経験しているという。 最新の評価によると、非常に暑い日が大幅に増加する一方で、極端に寒い夜は大幅に減少している。 この報告書は、人間の文明が排出する大量の温室効果ガスによって引き起こされる地球温暖化が、イギリスの気候をいかに大きく変化させているかを明確に示している。 気候変動にって嵐や洪水といった深刻な異常現象が増え、イギリスの気候の変化も、必然的に自然環境に影響を及ぼしている。異常気象や気候の変化は、一部の生物にとって悪影響になっている。 今回の報告書は2024年に焦点を当てたもの。イギリスはこの年、1884年の観測開始以降で2番目に暖かい2月、最も暖かい5月と春、そして5番目に暖かい12月と冬を記録した。 気象庁は、昨年のこうした記録の一部はすでに2025年になって更新されていると指摘。より極端な気象への傾向が続いていると示す、追加の証拠だとしている。 イギリス各地は現在、今夏3度目の熱波に見舞われている。非常に暖かい気候がイングランド南部だけでなく、ウェールズや北アイルランド、北部のスコットランドにも及んでいる。 イングランドの今年の春は過去132年間で最も乾燥し、最も日照時間が長い春だった。続く6月も、観測史上最も暑い6月イングランド北部ヨークシャーでは先週、水不足対策として、ホースを使った放水禁止令が今年初めて発令された。 イギリスの環境庁は6月、ヨークシャーおよびイングランド北西部に正式な干ばつ宣言を発令した。16日に開かれる国家干ばつ対策会議では、少なくとも1地域が、新たに干ばつ地域に指定される見通しだ。 気象庁の気候科学者で、今回の報告書の筆頭著者マイク・ケンドン氏は、「イギリスの気候は年を追うごとに、気温上昇の軌道を一歩ずつ上がり続けている」と述べた。 また、「イギリスの気候がわずか数十年前と比べて、今では著しく異なっていることが、観測データから分かる」と話した。 ■より暑いだけでなく、より湿潤に イギリスは、広大な大西洋とヨーロッパ大陸に挟まれた島国で、複数の主要な気団が交差する地点に位置している。イギリスの気候が非常に変わりやすいのはそのためで、その変わりやすさゆえに一部の気候変動の影響が把握しづらくなっている。 気象庁によると、気温よりも降水パターンの変動の方がはるかに大きい。ただし、イギリスでは気温の上昇に加えて、前より湿潤な気候になってきており、特に冬季の降水量が顕著に増加しているという。2015年〜2024年の10年間における10月から3月の降水量は、1961年〜1990年の平均と比べて16%多かったという。 こうした変化の背景には、気候変動のため平均気温が着実に上昇していることがあると、気象庁は言う。工業化以降、地球全体の気温は1.3度以上、上がっている。これは、人類が二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスをかつてない規模で大気中に排出し続けているためだ。 気象庁の試算によると、イギリスの気温は10年あたり約0.25度のペースで上昇しており、2015年〜2024年の平均気温は、1961年〜1990年の平均と比べて1.24度高くなっている。 気象庁は、世界最長の気象記録「イングランド中部気温記録」を保持している。この記録は温度計などの観測機器による測定に基づき、1659年から現在まで続いている。これによると、近年の気温上昇は、過去300年以上にわたって観測された気温を超えている。 過去3年間はいずれも、イギリスの観測史上で最も暖かい年の上位5位に入っており、2024年は1884年以降で4番目に暖かい年となった。 気温がわずかに変化するだけでも、極端な気象現象の頻度や強度が大きく増加する可能性がある。 気温分布が変化するにつれて、かつては「極端」とされていた気温が通常の範囲に入り込み、新たな極端現象が発生する可能性が大幅に高まっていることを、さまざまなデータが示している。 「昔はもっと寒かった」とよく言われるが、それも気象庁のデータによって裏付けられている。実際、寒い日は年々減少している。 気象庁によると、気温が氷点下まで下がる日数は、直近10年間において、1931年〜1990年の期間と比べて14日少なかったという。 ■洪水のリスクが高まる 近年と同様、昨年もイギリスでは洪水や嵐による被害が、最も深刻な自然災害となった。 2023年秋からイギリスを襲った一連の嵐が、2024年1月初旬の広範な洪水の一因となった。その結果、2023年10月〜2024年3月の半年間は、過去250年以上で最も降水量の多い冬季となった。 特に深刻な洪水被害を受けた地域には、スコットランド東部、ダービーシャー、ノッティンガムシャー、ウエスト・ミッドランズなどが含まれ、一部の地域では9月の降水量が平年の3〜4倍に達した。 2024年1月初旬には、劇作家ウィリアム・シェイクスピアの生地ストラトフォード・アポン・エイヴォンが洪水の影響を受け、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが2夜連続で舞台上演を中止せざるを得なかった。さらに同年11月には、ウスターシャー州テンベリー・ウェルズで小川の水位が上昇し、町の中心部が浸水。これにより、石壁の一部が崩落する被害も発生した。ストラトフォード・アポン・エイヴォンはイングランド中部、テンベリー・ウェルズはイングランド中西部にある。 気象庁主任科学者のスティーヴン・ベルチャー教授は、気候変動がすでにもたらしている影響を裏付ける証拠から、将来の異常気象に対応するためイギリスが適応策を急ぐ必要があることが分かると話す。 ベルチャー教授は、「気候はおそらく今後も変化し続ける。それが日々の天気にどう影響するのか、私たちはそれに備える必要がある」と述べた。 今回の報告書では初めて、イギリス周辺の海面上昇が世界平均を上回るペースで進んでいることが明らかにされた。 英国立海洋センターのスヴェトラーナ・イェヴレイェヴァ博士は、イギリス周辺の海面が上昇し続ける中で、洪水のリスクは今後さらに高まると指摘している。 イェヴレイェヴァ博士は「過去の事例から見ても、イギリスが次に大規模な高潮の進路に入るのは時間の問題だ」と述べた。 ■自然も気候によって変化している イギリスの気候変化は、必然的に自然環境にも影響を及ぼしている。 2024年の春は、記録されている13件の春季自然現象のうち12件が、平均よりも早く訪れた。特に、カエルの卵塊の出現とクロウタドリの営巣については、1999年以降で最も早い時期となった。 動植物が季節的に示す現象のタイミングは「フェノロジー(生物季節)」と呼ばれる。イギリスでは、民間の科学プロジェクト「ネイチャーズ・カレンダー」によって、ボランティアのネットワークを通じて記録されている。 自然現象のタイミングの変化は、大きな影響をもたらす可能性がある。たとえば、ヤマネやハリネズミといった、イギリスで最も絶滅の危機に瀕している一部の哺乳類は、非常に暖かい気候のもとで特に影響を受けやすいとされている。 また、果実や木の実は気候が暑いと早く熟すため、秋にそれを必要とする動物たちが冬に備えて脂肪を蓄える時期には、食料が不足することになるという。 ロンドン郊外にあるアリス・ホルト森林研究センターでは、イギリスの将来の気候に対し、森林や樹木をどのように適応させていくかについて研究が進められている。 同センターの気候変動科学部門責任者を務めるゲイル・アトキンソン博士は、悲しい現実として、現在イギリスにある多くの樹種は将来の気候に耐えられないと述べた。 アトキンソン博士は、「干ばつの後には成長が鈍化し、樹木が期待通りに育たなくなっている」と述べ、「木のてっぺんを見上げると葉がやや傷んでいるように見えるし、森の内を歩いていると、ストレスの兆候が他にも見られる。極端な例では、木がすでに枯れてしまっていることもある」と指摘した。 同センターの研究によると、イギリスが今後さらに暑く湿潤な気候になる中で、適応が期待される樹種の一つがアメリカ・カリフォルニア州原産のセコイアだという。同センターでは過去60年間にわたり、異なる緯度から持ち込んだ樹木を育て、イギリスの気候下での適応性を調査してきた。 この研究が進めば、今後数十年のうちに、世界で最も背の高い樹木がイギリス国内で一般的な光景となる可能性もある。 (英語記事 Extreme weather is the UK's new normal, says Met Office)
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