英仏の対ロシア"核抑止一体化"は世界に波紋を呼ぶか 200個以上の核弾頭保有とみられるイギリスが「見せつける抑止」へ
具体的には、どういうことなのだろうか。 「(英国)政府はプログラムの存続期間中に138機のF-35を調達する予定」(同上)だが、 英政府が導入を進めているF-35は、すべて、エンジンの噴射口の向きを変え、機体に内蔵する巨大なファンを使って、短距離発艦垂直着艦が可能なF-35Bというタイプだった。 F-35Bには、核兵器を搭載する計画はない。 「次の調達パッケージの一部として、(本来計画されていた)12機のF-35Bではなく12機のF-35Aを調達する」 (同上)。つまり、複雑な推進機構を持つが故にコストもかさむF-35Bから、構造が比較的単純なF-35Aに切り替えることによって「納税者は航空機1機あたり最大25%の節約になる」(同上)。 しかも、F-35Bと異なり、現在、米国で生産中の新しいF-35Aなら、安全保障を大幅に強化できるというのが、英国政府の公式見解だが、その通りなら、戦力強化とコスト削減を同時に達成できると言わんばかりである。 そんなことが可能なのだろうか。 カギは、核兵器にある。 現在の英国は、独特な核兵器政策をとっている。 核兵器の拡散を防ぎ、原子力の平和利用をすすめるために結ばれたNPT(核拡散防止条約:1970年発効)で、核兵器の保有が認められている米・露・中・英・仏の5カ国のうち、戦術核兵器を保有せず、保有しているのが、原子力潜水艦から発射する戦略核弾道ミサイル(トライデント2(D5))のみなのは、英国のみだ。 英国も、冷戦期には、爆撃機や戦闘攻撃機に搭載するWE.177核爆弾を保有していた。その数は最大107個に達したが、冷戦終了後の1998年には、これらの核爆弾を退役させ、保有しているのは戦略核兵器のみとなった。 従って冷戦後、半世紀近くたって「英国独自の空中発射核兵器を退役させて以来、初めて、英国空軍に核兵器の役割を再導入することになる」(同上)と、今回の発表でも意義づけたのだ。 英国は2021年段階で、約225個の核弾頭を保有していたとみられている。 1隻のヴァンガード級ミサイル原潜は、それぞれ、最大射程約1万2000キロとされるアメリカ製トライデントII(D5)潜水艦発射弾道ミサイルを最大16発搭載可能だが、ヴァンガード級に搭載される同ミサイルは、アメリカ海軍のトライデント2(D5)ミサイルと異なり、ミサイル1発に最大8個の英製の複数個別誘導再突入体(MIRV)を搭載する。 そのMIRVは、最大出力100キロトンの英国産のMk4/Aホルブルック核弾頭を内蔵する。 つまり、英国は、例えミサイルそのものは米国製であっても、それに搭載する核弾頭については、独自に開発・生産・配備する能力を持っているのだ。 2025年現在、英が保有する核兵器は、このトライデント2(D5)ミサイルを搭載するヴァンガード級弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)という、海中に隠れ、ミサイルを発射する、いわば“見せない核抑止”の戦略核兵器のみ。しかし、見えなければ、抑止したい相手に意識されず、抑止にならない、または、なりにくいかもしれない。見せつけなければ抑止にならない可能性もある。 このように、英国には、潜在的な敵に見せつけ、核抑止を行う戦術/戦域核兵器は存在しなかったが、今後、導入される「DCA(核・非核両用機)の任務は、NATOの核抑止力の重要な部分であり、同盟全体の人々の安全を守るのに役立つ」(同上)と評価しているのだ。 では、英国は、航空機搭載用の独自の核爆弾を製造することは出来るのか。 WE.177核爆弾を開発、生産し、独自に設計したMk4/Aホルブルック核弾頭をトライデント2(D5)ミサイルに搭載していることから、英国には技術上の素地はあると見るべきかもしれない。 まず、材料となるプルトニウムだが、英政府は、2025年1月24日、「プルトニウム処分戦略」と題する声明を発表した。 「政府はプルトニウムを混合酸化物燃料(MOX)として再利用することを追求する一方で、プルトニウム管理についてはあらゆる代替案を歓迎するという暫定的な政策見解を形成した」として、「セラフィールドにある英所有の民生用分離プルトニウム在庫を固定化する」との方針を発表した。 英国内には、他国から預けられた24.1トンを含め、140.9トンのプルトニウムが処分を待っている状況だ(IPFM 国際核分裂物質に関するパネル 2025年1月25日)。 核弾頭1個を生産するのに必要なプルトニウムの量は、3.5キロとも8キロともされる(CENTER FOR ARMS CONTROL AND NON-PROLIFERATION)が、上記のプルトニウムのうち、どれだけが核兵器に不可欠なプルトニウム239であるかは、筆者には不明だが、英政府や国民が、新たな「見せる核抑止」用の核兵器の生産に踏み切るのかどうか、その判断と将来に関心を抱く必要があろう。 NATO欧州においては、英スターマー政権以外にも、今年に入って新たな核戦略を探る動きがあった。