露カザフ国境「トラック3000台滞留」報道 通関厳格化でロシア離れか…現地を訪ねると

通関手続きのためロシア・カザフスタン国境の検問所(奥)の前に並ぶ大型トラック。この日は大渋滞は見られなかった=10月9日、カザフ西部オラル近郊(小野田雄一撮影)

ロシアメディアが最近、中国からロシアへの主要物流ルートの一つである中央アジアの旧ソ連構成国・カザフスタンが軍事転用可能な製品などに関してロシアへの通関管理を厳格化した結果、両国国境でトラックの大渋滞が起きていると相次いで伝えた。事実であれば、ウクライナ侵略を背景に旧ソ連諸国で進んできた「ロシア離れ」の新たな兆候といえる。カザフ政府も渋滞の発生を認めており、実情を探るため現地を訪れた。

検問所職員「数千台は大げさ」

10月9日、カザフスタン西部オラルから北方約50キロにあるロシアとの国境検問所を目指した。露経済紙コメルサントが同月2日、この検問所付近に「2千〜3千台のトラックが滞留している」との露物流企業幹部の話を伝えていたためだ。

広大なステップ地帯を貫く一本道の左右には見渡す限りの草原が広がり、牛が草をはんでいた。道路を走る車の大半が大型トラックで、時おり路肩に現れる駐車場にはそれぞれ数十台のトラックが停車していた。

ただ、検問所付近では数十台のトラックが停車していたものの、想像していたような大渋滞は起きていなかった。検問所職員に話を聞くと、「渋滞が起きることはあるが、数千台というのは大げさだ」という。別の検問所も訪れたが、そこでも大渋滞は見られなかった。きつねにつままれたような気分だった。

露メディアの報道では、両国国境の渋滞は9月中旬ごろに激化した。ある露物流会社幹部は「積み荷が電子機器、ドローン(無人機)やその部品、欧米ブランドの衣服や製品である場合、カザフ側の通関が99%を検査するようになった」と説明。従来は10分程度で終わっていた通関手続きに最大3日間を要するようになり、大渋滞が起きたという。別の物流会社幹部は「集積回路や工作機械などの積み荷は100%、国境通過を拒否される」と証言した。

さらに、9月中旬にロシアとベラルーシが行った合同軍事演習への対抗措置としてポーランドがベラルーシとの国境を約2週間閉鎖した結果、中国から欧州への鉄道輸送が制限され、カザフ経由のトラック輸送の需要が高まったことや、中国で企業が大型連休に入る10月上旬の「国慶節」に先立ち、露輸入業者が輸入量を増やしたことなども渋滞の一因になったという。

米圧力で「制裁逃れ」対策強化か

ロシア側は渋滞の最大の要因をカザフによる通関管理の厳格化だとみている。露物流会社「ダトランス・ロジスティクス」のアセエバ輸入物流部長は産経新聞の取材に「ロシアとベラルーシに向かう全ての車両に対する検査が強化されている。トラックは国境で数日間もの停車を余儀なくされる」と説明。この結果、人件費や燃料代など物流コストが増加した上、遅配などの契約義務違反のリスクも高まったという。

カザフ政府は従来、ウクライナ侵略に伴う欧米主導の対露制裁に参加しない一方、ロシアによる制裁抵触製品の密輸入にも加担しないとする立場を示してきた。しかし現実には、カザフ経由でも「制裁逃れ」の製品がロシアに流入してきたとされる。

露メディア「レンタ・ルー」は10月6日、国境の渋滞を伝えた記事で、カザフのトカエフ大統領が9月、露友好国への関税強化に言及してきたトランプ米大統領やウクライナのゼレンスキー大統領と相次いで会談したと指摘。カザフがトランプ氏の圧力などに屈し、「制裁逃れ」対策を強化したとの見方を示した。

これに対し、カザフ通関当局は露メディアに、軍事転用可能な製品などの検査は以前から適切に実施してきたと説明。ここ最近で検査を特に厳格化した事実はないとした。真偽は不明だが、カザフ側がロシアとの関係悪化を懸念し、検査を厳格化した事実を公にしていない可能性は排除できない。カザフ通関当局に取材を求めたが、回答はなかった。

渋滞問題が示唆するカザフの対露政策

ただ、カザフ側も渋滞の発生自体は認めている。渋滞報道が相次いだ中、カザフ運輸省は9月21日、国境検問所の視察を実施したと発表。「複数の検問所で相当数の物流車両の滞留が見られた」と報告した。

レンタ・ルーによると、国境地帯での渋滞は10月以降も続いているが、9月ほどの規模ではなく、徐々に解消されつつある。物流業者がカザフルートを避け、より東方の中露国境を通過するルートを選んでいることも渋滞の解消につながっているという。記者が大渋滞を目にしなかった背景にもこうした要因がありそうだ。

カザフに詳しい露政治学者ユネマン氏は、渋滞問題が現時点で露・カザフ間の外交紛争に発展する可能性は低いとみる。ユネマン氏は一方で、カザフがロシアとの対立を避けながら欧米との関係強化を模索していると指摘。渋滞問題が、カザフの対露政策の現状を「示唆している」との見方を示した。(小野田雄一)

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