なぜ日本人は「芸能人の不倫」が許せないのか…赤の他人の不祥事に飛びついてしまう認知科学的理由(プレジデントオンライン)
■人のランク付けをする人の脳内構造 もうひとつ、「社会的支配志向性(Social Dominance Orientation:SDO)」という、社会心理学の概念があります。アメリカの心理学者であるジム・シダニウスとフェリシア・プラットによって提唱された社会的支配理論(Social Dominance Theory)に基づくもので、個人が「社会階層や集団間の不平等をどの程度支持する傾向があるか」を表す指標です。 この「社会的支配志向性」が高い人は、社会における階層構造や権力の不平等をむしろ肯定的に捉え、それを維持または拡大する行動を支持する傾向があります。反対に、この値が低い人は、平等主義や集団間の公正さを重視します。 すると前者の場合は、そもそも人を階層構造で捉えてランキングをする志向があるため、「社会的支配志向性」が高い人ほど、おそらく他者との比較などもしやすくなると推察できます。また、「社会的支配志向性」との直接的な関連性を示す明確な研究は現時点ではないものの、脳内物質「ドーパミン」が社会的行動や社会的地位の形成に関与していることは、研究によって示されています。 具体的には、ヒトを対象とした研究で、大脳基底核(だいのうきていかく)の一部で、運動機能や意思決定などに関わる「線条体(せんじょうたい)」におけるドーパミンD2受容体の可用性(継続稼働できること)が、社会的優位性や社会的地位と関連していることが示されています。これらの研究は、ドーパミンが社会的階層や支配行動に関与している可能性を示唆しています。 ■欧米人よりも周囲の目を気にする日本人 さらに視点を変えて、文化的観点から見てみると、自己を他者から独立したものとして捉える西欧文化と比べ、日本人は全般的に人とのつながりや調和を大切に考える傾向があるといえます。それにより、日本人は概して「社会的比較」の志向が強くなっていることがわかっており、多くの人にとっての悩みにもつながっています。 ただし、人生の多くの時点で「他者比較」を行うことは、ほぼすべての人の経験的事実であり、程度の差こそあれ、人種や性別、年齢に関係なく普遍的に起こっている現象であると考えられます。つまり、「自分と似た他人」と自分とを比べる社会的比較は、もともとネガティブな現象というわけではなく、周囲の状況や社会生活に適応するために必要な機能だということです。 他者と比較することが一概に悪ではないからこそ、人間の本能として備わっている面があると推察できます。また、集団という視点から見ると、ある特定の集団のなかで規範が守られ、その集団が発達繁栄していくための重要な要素でもあるといえるのです。 ---------- 細田 千尋(ほそだ・ちひろ) 東北大学 大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻 及び 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野 准教授 東京医科歯科大学大学院医歯学総合博士課程修了。博士(医学)。JSTさきがけ研究員、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員などを経て現職。内閣府ムーンショット型研究目標9プロジェクトマネージャー、ウェルビーイング学会理事、Editorial bord member of Frontiers in Computational Neuroscience、仙台市教育局学びの連携推進室学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会委員、日本ヒト脳マッピング学会広報委員、国立大学宮城教育大附属小学校運営指導委員などを務める。 ----------
東北大学 大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻 及び 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野 准教授 細田 千尋