「いつでも電話してくれ」-すでに始まっているトランプ流外交

米大統領としてのドナルド・トランプ氏と向き合ったことのない世界のリーダーは、同氏のやり方を急速に学んでいる。トランプ氏と話したいならば、直接電話した方がいいかもしれない。

  世界中の外交官や政府高官がこれまでに得た感触では、トランプ氏は来年再び大統領に就任した後、自らがフロリダ州に所有する会員制高級リゾート「マールアラーゴ」で多くの時間を過ごすことになりそうだ。

  そして、望む時に望む相手に電話をかけるだろう。外交儀礼や国家安全保障上の懸念など、同氏の知ったことではない。

  インドネシアのプラボウォ大統領は今週、トランプ氏が「どこにいても」会って、大統領選で勝利したお祝いの言葉を直接伝えたいとソーシャルメディアのX(旧ツイッター)に投稿した。

  すると、トランプ氏は「私の電話番号は知っているだろう。これが私の電話番号だ。いつでも電話してくれ」と応じた。

  トランプ氏の深夜の発言や即興のコメント、唐突な決定は、これまで4年間のより統制のとれたホワイトハウスを相手にしてきた各国首脳に素早い思考と速やかな調整を迫っている。

ワシントンで開催された共和党議員の会議で演説するトランプ氏(11月13日)

  アルゼンチンのミレイ大統領は今週パームスプリングスで開催される保守政治活動会議(CPAC)の寄付者イベントで講演する招待を受け、有頂天だ。トランプ氏と面会する予定で、20カ国・地域(G20)首脳の中でトランプ氏の大統領当選後に最初に同氏と会うことになる。

非公式

  一方、リオデジャネイロで開催されるG20首脳会議(サミット)のホスト役を務めるブラジルのルラ大統領は、微妙な立場だ。あからさまにえこひいきをするトランプ氏は、ルラ氏の宿敵ボルソナロ前大統領のファンだったからだ。

  G20サミットは、ペルーで開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と並んで、バイデン米大統領の引退セレモニーとなる。

  トランプ氏は非公式な会合で会話を独占し、間接的に議題を設定することになるだろう。公式なスケジュールがどうであれ各国首脳は、世界経済と同時に自身の政策や政治的運命に影響を及ぼす、関税引き上げ、減税、保護主義強化、規制緩和という差し迫ったシナリオに直面している。

  トランプ氏がまだ会話を交わしていない重要な首脳の1人は中国の習近平国家主席だ。トランプ氏が国家安全保障の要職に指名した人物は、いずれも中国に対する米国の姿勢がさらに強硬になることを示唆している。

北京での記者会見の最後で握手を交わすトランプ氏(左)と習近平氏(2017年)

  APECとG20の首脳会議が重なる中南米では各国の首脳や高官が、トランプ氏と面会しようと試みるだろう。

  1期目のトランプ政権で各国は、大使や国家安全保障会議といった従来の外交ルートを通すよりも、直接トランプ氏に連絡を取るか、あるいはFOXニュースに出演することが、トランプ氏の関心を引く最善の方法であることをすぐに学んだ。  

トランプ氏詣で

  英国のジョンソン元首相は、個人的相性の良さからトランプ氏の短縮ダイヤルリストに入っている。現職のスターマー英首相より優先的にアクセスを得る可能性もある。

  フランスのマクロン大統領は2017年にトランプ氏をパリに招き、早い段階でじっくりと話し合った。一方、ドイツのショルツ首相は米大統領に対立候補のハリス副大統領を望むと明らかにしていたため、「トランプ氏詣で」では列の最後尾に並ぶことになる。

  欧州がリーダーシップを最も必要としているまさにその時に、ドイツの3党連立政権が崩壊してしまったことも痛手だ。

2017年、パリのエリゼ宮で握手するマクロン氏(左)とトランプ氏

  イタリアのメローニ首相は、現在トランプ大統領の側近の一人であるイーロン・マスク氏と、慎重に親交を深めてきた。

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  ニューヨークのイベントで見つめ合うメローニ氏とマスク氏の写真がソーシャルメディア上で話題になった。メローニ氏の側近たちは水面下で、トランプ氏とのパイプを築くために動いている。

ニューヨークで開催された式典に出席したメローニ氏とマスク氏(9月23日)

  実際、あらゆるタイプの指導者がトランプ氏との接触を求めており、そのためのルールを即席で学んでいる。石破茂首相もトランプ氏との面会を探っている。最近ゴルフの練習を始めたのは、韓国の尹錫悦大統領だ。

  マールアラーゴに足を運ぶ各国首脳は、トランプ氏が何を求めているのかを探り始めることになるだろう。 詳細は不明かもしれないが、確かなことが一つある。それは、トランプ氏はお世辞を好み、家ぐるみの関係が重要だということだ。

  サウジアラビアのムハンマド皇太子は、G20サミットの前か後にトランプ氏と会談する可能性がある。トランプ氏の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏は、ムハンマド皇太子と親しい関係にあり、中東でのビジネスにも関心を持っている。

ホワイトハウスでトランプ氏とムハンマド皇太子との会談に同席したクシュナー氏(右、2017年)

  南米で何が起ころうとも、最も重要な駆け引きはすでにマールアラーゴやトランプ氏のプライベートな携帯電話上で繰り広げられている。

  トランプ氏は大統領退任後も、ロシアのプーチン大統領と連絡を取り合っていたことは明白だ。イスラエルのネタニヤフ首相は、すでに3回トランプ氏とチャットしたと述べている。

  「トランプ氏はまだホワイトハウスにはいないが、同氏が戻ってくることになって、地政学的な状況はすでに変化している」とオーストラリアのローウィー研究所で世論・外交政策プログラムのディレクターを務めるライアン・ニーラム氏は指摘した。

原題:‘Call Anytime You Want’: Trump Roils G-20 With Disdain for Rules(抜粋)

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