最高値圏の任天堂株左右する「スイッチ2」、過熱に負けぬソフト必要
任天堂の株価を上場来高値へと押し上げた後継の家庭用ゲーム機「スイッチ2」の詳細公表が目前に迫った。8年ぶりの新型機登場に投資家の期待が高まった結果、投資指標は割高感や過熱感を示す水準に達しており、今後は材料一巡で売り圧力にさらされる可能性がある。
任天堂株は過去1年で24%上昇し、東証株価指数(TOPIX)の下落率2.2%を大きく上回る。昨年12月以降は後継機への期待が徐々に高まったほか、米国トランプ政権の関税政策の影響を受けにくいとの見方からゲーム株が人気化し、上昇基調を強めた。2月には時価総額が初めて1000億ドル(約15兆円)を突破し、上場来高値(1万1800円)を付けた。1日終値は1万205円。
スイッチ2への期待は幻想ではない。現行機「スイッチ」シリーズの世界累計販売台数は1億5000万台を超えており、初期購入者を中心に買い替え需要が見込めるためだ。3月25日に投資判断「買い」で任天堂株の調査を再開したゴールドマン・サックス証券では、新型機は初年度から1000万台を超す出荷を目指す可能性が高く、新作ソフトウエアも多数準備されていると分析した。
ただし、事前に投資家が先回りして買った結果、株価収益率(PER)は一時40倍を超え、7年ぶりの高水準に達した。テクニカル分析の一種で株価が買われ過ぎか売られ過ぎかを示す移動平均線からの乖離(かいり)率も、投資家の長期売買コストである200日線に対しプラス15%と過熱圏に位置する。一段の上昇を期待するには危うい状況にあるとみる市場関係者も少なくない。
英ペラム・スミザーズ・アソシエイツのアナリストであるペラム・スミザーズ氏は、新型ゲーム機と付随するゲームソフトが市場の高い期待に応えられなければ、「任天堂のラリーはここで限界かもしれない」と警戒感を示す。発表後に「期待は失望にシフトするリスクがある」とも述べた。
任天堂は2日、同社の最新情報を紹介する映像コンテンツ「ニンテンドーダイレクト」でスイッチ2の詳細を発表する。
株価上昇の持続性を疑う投資家心理は空売りのデータからも明らかだ。S&Pグローバルによると、任天堂株の浮動株に対する空売り比率は足元で約1.8%と、1年ぶりの高水準に近付いている。
サンフォード・C・バーンスタインのアナリスト、ロビン・チュー氏も新型機の発表後に「利益確定の売りが出てもおかしくない」とみる一人。任天堂株は歴史的高値圏にあり、現行機のスイッチ発表時よりも大きな売り圧力にさらされる可能性を懸念している。初代スイッチが発売された2017年のケースでは、発表後1週間で株価は約6%下げた。
鍵はゲームソフト
米関税政策がゲーム機価格を押し上げるリスクも警戒されている。スミザーズ氏は、多くの人の予測通り「449ドルまたは499ドルで発売されるなら、関税の影響がなくても非常に高い価格だ」と指摘。ソニーグループの競合機向けにリリースされ、現行のスイッチでは遊べない新たなゲームソフトが加われば、価格に関係なく新型機への需要は強いと予想する。
一方で、そうしたインセンティブがなければ、現行機のユーザーがさらに高い価格を支払い、スイッチ2にアップグレードする理由はないと言う。
TDカウエンのアナリスト、ダグ・クロイツ氏は、株価上昇の持続にはハードの性能だけでは不十分で、人気シリーズの「マリオカート」や「ポケモン」など「魅力的なソフトの品ぞろえを用意することが重要だ」とみている。
クロイツ氏は、映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の成功などハードの販売に依存しない収益構造になってきたほか、知的財産(IP)の市場価値は十分に反映されておらず、株価の先高観は強いと分析。2月に目標株価を1万600円から1万2400円に引き上げた。