HDDの終焉は来ない。WDのCEOが示すAI時代の存続理由
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Western Digital(WD)は10月1日、都内で記者会見を開催し、来日したIrving Tan(アーヴィン・タン)CEO、およびジャパンカントリーオフィサーの高野公史氏が、AI時代におけるHDDの役目や今後の展望について語った。
NANDフラッシュメモリの登場によって「HDDの時代は終わった」と言われて久しいが、実はそんなことはない。現在、データがAIによって新たな価値を生み出している時代に突入しているが、タンCEOによれば、むしろデータセンターストレージにおいてリーダーシップを発揮していくのが同社の役目であると語る。
WDは1970年の創立から55年が経過しているが、日進月歩するこの業界において、ここまで長く生き残っている会社も珍しい。同社のHDDは当初、デスクトップやノートPC、そして初代iPodのストレージなど、コンシューマ向けの製品での採用がメインだったが、長年かけてデータセンター事業を強化してきた結果、今や最新の四半期においては、ハイパースケーラー事業(要はGoogleやAWS、Azureのような超大型データセンター)が売上の9割を占めるようになっている。
これは、現代社会がデータを中心に経済を回しているからだとタン氏は語る。そして最近はAIが登場したことにより、これまでのデータから、さらなるデータが生み出されている。2030年のデータ量は今のデータ量の3倍になるという予測もある。そういった時代においてもHDDはデータを保存するストレージとして中心的な役割を果たすという。
「今、ハイパースケーラーに保存されているデータの10%はNANDフラッシュ、80%はHDD、残る10%はテープドライブだ。これは、HDDがもっとも耐久性があり、信頼性が高く、そして大容量で所有コストが低く、容量あたりの電力が低いためである。今後も引き続きHDDがその中心的な役割を果たしていく」とタン氏は分析する。
ここでやや補足が必要だろう。上でも述べた通り、NANDフラッシュメーカーの多くは、HDDの終焉を謳っている。我々一般消費者から見てもそのイメージが強いかもしれない。しかしながらハイパースケーラー提供の事業者から見ると、コストの最適化をしていく中でHDDは欠かせない存在だという。エンドユーザーからして「データがハイパースケーラー事業者のストレージの中に保存されている」という認識が強いかもしれないが、実はそのデータは静的ではなく動的なのだ。
タン氏はより具体的に、「動画共有サイトに保存された、猫がボール遊びをしている動画」を例として挙げた。この動画に人気が集まっている間は、集中してアクセスされるため、SSDに置くのが最適解となる。しかし1週間が経過し、人気がなくなった後も動画をSSDに置くことは、事業者にとって良い選択肢とは言えない。SSDは容量あたりの単価が高価で、電力も高いからだ。その際にHDDに移したほうが経済性が良いというわけだ。
同様のことは、実はテープドライブにも当てはまる。たとえば金融業界において、そのデータはアクセスされる機会は皆無だったとしても、法律などによりデータを一定の年数保管する義務がある。そうしたケースにおいてはHDDよりもテープの方が適しているわけで、これもテープが永遠に消滅しない理由の1つだとしている。
……というように、ハイパースケーラーにおいて、HDDへの需要は消えることはないわけだが、そのためWDは今後もデータの増加の需要に備えて、さらなる大容量HDDの投入を継続していく。今では、容量32TBのHDDを投入しているが、2026年半ばには容量36TB、そして2027年下期には容量44TBのHDDを投入していくロードマップを明らかにした。
ちなみに、この36TBのHDDにはePMR(エナジーアシスト垂直磁気記録)技術、44TBのHDDにはHAMR(熱アシスト磁気記録)技術を採用する。実は、既にHAMR技術は“物理的な問題はまったくない”のだが、ePMRに留まっている理由として、1つは既存顧客から高い信頼性の評価を得ているため、そしてもう1つが「一気に数百万大規模の量産に持っていく必要があるため」だという。
先述の通り、WDの事業の9割を占めるのがハイパースケーラー事業だ。つまり、顧客は数百台あればいい……というはずもなく、数万台を一気に納入する必要がある。そのため、HAMR立ち上げ時には、既に四半期で数百万台量産できる体制が整っていなければならないとタン氏は言う。
そのため同社はR&Dと量産プロセスも変えている。これまでの製品は、まずテストパイロット製造ラインを設け、そこで数台生産してテストし、問題がなければ量産ラインに持っていくという順序に沿った開発がされてきたのだが、HAMRについては、直接量産ラインで製造し、問題がないかどうかをチェックするという、並列で開発が行なわれている。これによって迅速な品質の担保と量産の立ち上げを実現するという。
「今まではシーケンシャルな開発だったが、今はパラレルでやろうとしている。今44TBのHAMRを出荷できないのか?と言われればできなくはないが、100万台作れますかと言われればできない。量産可能な体制を整える意味ではまだ準備段階だ。また、ハイパースケーラーでは高い信頼性が求められるので、我々はePMRと同等の信頼性が得られる製品の確証を得てからHAMRを投入したい」とのことで、“満を持してHAMRを投入する”意向を示した。
日本担当の高野氏は、「WDにとって日本も重要な投資先として位置づけている」と紹介。2025年度は日本のサプライヤーやパートナーに対しての支出が15億ドル(2,210億円)を超えているほか、日本の藤沢事業所には、元HGSTやIBMのDNAを受け継ぐ開発者も多数在籍しており、今後5年間で10億ドル(1,470億円)投資する見込みだ。
特に開発においては、今後もリーダーシップを発揮していきたいとしている。たとえば同社が初めて投入したヘリウム封止技術を採用したHDDは、今や業界標準とも言える技術だ。今後は日本の大学や、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)などと協業し、スピントロニクス技術(再生ヘッドに適用し、記録密度を高めていく)などを共同で開発し、さらなるイノベーションを投入していきたいとした。
一方、HDDは容量だけでなく、低消費電力化や速度(スループット)の向上といった面へのニーズもある。質疑応答では、HAMRだけでなく、ほかのイノベーションの有無、WDならではの強みなどについても質問があった。
まず低消費電力化についてだが、タン氏によればこれは2つの要素が絡む。1つはモーターだが、これは日本のパートナーのイノベーションが期待できるという。もう1つはプロセッサで、これはソフトウェアの軽量化と効率化により達成できる見込みだ。「本日はご紹介できないが、まもなくこの消費電力関連のイノベーションをご紹介できると思う」と答えた。
スループットの向上についても、実は研究を進めているとしており、「2026年の第1四半期に、なんらかのお知らせができるのではないかと思う」という。データセンター顧客の声を実際に聞いて、研究開発にフィードバックしているとのことだった。
最後にHAMR以外の記憶容量向上技術として、「UltraSMR」を紹介した。UltraSMRではCMR記録と比較して容量を20%、従来のSMRと比較しても容量を10%高めることができると言い、競合と比較しての優位性であると語った。
【9時40分訂正】記事初出時、創立からの年数に誤りがございました。お詫びして訂正します。