90分間、何もせずにいられますか? 韓国の「ボーっとする選手権」
「ボーっとする選手権」の2025年大会で優勝した、36歳のパンクロッカーで起業家のパク・ビョンジン氏。科学者によると、あえて何もしないでいることで、創造性、問題解決、感情の安定に関連する脳の領域であるデフォルト・モード・ネットワークが活性化するという。(PHOTOGRAPH BY KIM JUNG-YEOP)
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36歳の起業家で、インディのパンクロッカーでもある韓国ソウル出身のパク・ビョンジン氏は、「何もしないこと」がもたらすパワーを理解している。
2025年5月、ビョンジン氏はバンドのメンバーとともに、韓国で開催された「ボーっとする選手権」に参加し、100人のライバルを退けて優勝を手にした。この大会は、年に1度開催される。心の平穏を保ち、じっと動かずに90分間を過ごす能力が試される。
スマートフォンも、会話も、居眠りもなし。許されるのは、ただそこに存在していることだけだ。
この競技会は、2014年、ビジュアルアーティストのウップスヤン氏によって、心身を疲弊させる現代社会を批判するパブリックアート・プロジェクトとして生まれた。その後、ソウル市内を流れる漢江沿いで開催される文化的な名物イベントへと発展した。パーフォマンスとマインドフルネス、そして「沈黙は停滞と同じである」という現代にはびこる考え方への静かな挑戦が混ざり合った試みといえるだろう。
参加者には心拍数を測るモニターが装着され、その数値の安定度と観客の投票によって勝者が決まる。
「時間がたつにつれて、自分がどこにいるのかが曖昧になっていきました」とビョンジン氏は言う。「まるで自分の体が消えてしまったように感じたのです」
内的思考よりも外的刺激を求める
ビョンジン氏の勝利には、ネットで単にバズった話題以上の意味がある。そこに映し出されているのは、騒音に圧倒される社会における「休息への深い渇望」だ。(参考記事:「デジタルネーティブ世代がいま最も求める贅沢、それは『静寂』」)
米バージニア大学が2014年に行った研究によると、多くの人々は、わずか15分でも自分の思考とだけ向き合うよりは、軽い電気ショックを受けることを選んだという。
一方で、科学は、平穏には価値があることを示唆している。「ボーっとする」という行為は、創造性や感情処理、問題解決とかかわりがあるデフォルト・モード・ネットワークと呼ばれる脳の活動を活性化する。(参考記事:「斬新なアイデアをシャワー中にひらめくのはなぜか、進む研究」)
「刺激が多すぎる現代社会においては、自分の内面や感情を振り返る時間を持つことが、思考や行動を制御する助けとなります」と、韓国のソウル大学人類学部准教授で精神科医のパク・ハンソン氏は言う。「このプロセスはストレスに関連するホルモンを減らし、長期的には、不安やうつの軽くする効果を発揮することがあります」(参考記事:「健康にとって超重要な『ストレスホルモン』、コルチゾールとは」)