焦点:ネタニヤフ氏を合意に引き込んだトランプ氏、和平定着へ正念場

  ノーベル平和賞受賞を目指してきた自称「和平仲介者」のトランプ米大統領は10月13日、ついに報道陣のカメラの前で外交的勝利を収めた。写真は同日、イスラエル国会で言葉を交わす同大統領とネタニヤフ首相。代表撮影(2025年 ロイター/Evelyn Hockstein)

[ワシントン 14日 ロイター] - ノーベル平和賞受賞を目指してきた自称「和平仲介者」のトランプ米大統領は13日、ついに報道陣のカメラの前で外交的勝利を収めた。各国の首脳がエジプトに集まり、トランプ氏が仲介したイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦および人質解放の合意について署名式が実施されたのだ。

しかし、持続的な和平を定着させるには、和平案の次の段階にその支持が必要な人物、つまりイスラエルのネタニヤフ首相に対して圧力を維持しなければならないだろうと、外交官や専門家は指摘する。

米歴代大統領はビル・クリントン氏からジョー・バイデン氏に至るまで、強固な意志の持ち主であるこのイスラエル指導者と協調するのに苦労してきた。トランプ政権内からさえも、イスラエル軍の一部の攻撃が米国の政策を損なうとみて不満が出ていた。

だが、トランプ氏は今月、ネタニヤフ氏に自身が提示した包括的和平の枠組みをやっとのことで受け入れさせた。一方でその他の中東諸国を説得し、ハマスに戦争の主要な交渉カードであるイスラエル人質全員の返還を認めさせた。

しかしながら、取り組みはここからさらに難しくなり得る。

<トランプ和平案を巡る溝は残る>

イスラエルとハマスは、トランプ氏の「20項目和平案」の多くの点で意見が対立している。イスラエルは来年に選挙を控えており、ネタニヤフ氏の態度は右派連立の結束を維持するために変わるかもしれない。

ネタニヤフ氏の連立政権の有力者であるベングビール国家治安相とスモトリッチ財務相はいずれもハマスとの停戦合意を批判した。ベングビール氏は合意に対する抗議として政権離脱も辞さない姿勢を示している。

イスラエルの外交政策シンクタンクであるイスラエル地域外交政策研究所(ミトヴィム)のニムロド・ゴレン所長は「政治的な年に突入しつつあり、来年は全てが選挙運動がらみになる。ネタニヤフ氏は打算的に考えて、圧力に屈する態度から自らが政治的に生き残ろうとする方向に転じるかもしれない」と語った。

外交官や専門家によれば、トランプ和平案の強みは同時に弱点でもあるという。

合意の核心である文書は曖昧な部分が多く残され、イスラエルとハマスがともにいずれの条項の詳細な点について合意したわけではない。この曖昧さが双方に署名を実現させる上で重要だったが、最も困難な外交交渉の一部はこれから始まることになる。

トランプ和平案の争点の一つとなる可能性があるのは、ハマスが武装解除し、将来のガザ統治に一切関与しないという条項だ。ハマスはトランプ和平案を大枠で受け入れたが正式な声明でこの点に全く触れておらず、幹部らは戦後ガザの統治に事実上関与するとの意向を示している。

戦略国際問題研究所(CSIS)の中東専門家で元国務省高官のジョン・アルターマン氏は「この合意が失敗する可能性はいくらでもある」とし、「これほど多くの作業を後回しにした国際合意は記憶にないくらいだ」と指摘する。

米政府高官によると、トランプ氏はネタニヤフ氏に対して他の重要問題で強くイスラエルを支持することで影響力を得たという。

第1次トランプ政権はエルサレムをイスラエルの首都と、また係争地ゴラン高原をイスラエル領とそれぞれ公式に認めた。いずれもイスラエル政府が長年求めてきた措置だった。

この高官は「トランプ大統領がイスラエルに対して成し遂げたのは、中立的な立場を取ろうとしなかったことだ」とし、「トランプ氏は基本的にイスラエルと100%肩を並べてきた。だからこそ、イスラエルを望ましい方向に導くように手助けできるのだ」と述べた。

1990年代にネタニヤフ氏に仕えたイスラエルの世論調査会社ミッチェル・バラク氏は、トランプ氏がホワイトハウスにいる限り、米国と「共同歩調をとる」しかないと語った。

<より厳しい姿勢のトランプ氏>

トランプ氏はネタニヤフ氏に対する政治的圧力をかけることに関して、これまで態度一貫していなかった。

イスラエルは7月、米国がシリア新政権と関係強化を進めようとしていたにも関わらず、首都ダマスカスの国防省を爆撃した。トランプ氏は欧州・アラブ諸国の人道的懸念が高まる状況で数カ月間、ネタニヤフ氏に政治的な後ろ盾を提供していた。

しかし、トランプ氏はここ数週間、これまでよりも厳しい姿勢を示した。イスラエルが9月にハマス幹部を狙ってカタールを空爆し失敗に終わった件について、トランプ氏はネタニヤフ氏にカタールの首長に対して謝罪の電話をさせた。トランプ氏は最終的に、ネタニヤフ氏が懸念を表明しているにもかかわらず20項目の和平案に署名させた。

アルターマン氏は「トランプ氏はイスラエル国内で非常に人気が高く、ネタニヤフ氏に対してその影響力を行使できると思われる」と述べた。

トランプ氏は13日、イスラエル国会で演説し、ネタニヤフ氏に冗談交じりの言葉を投げかけ、特別扱いしない姿勢を見せた。

「もう戦争は終わったのだから、少しは優しくできるだろう」と語り、場内の笑いを誘った。

もっとも、来年の選挙はネタニヤフ氏の政治的な打算を予測不能な方向に変える可能性がある。

ハマスが武装解除を渋れば、連立内の強硬派がネタニヤフ氏にガザで軍事行動を再開するよう圧力をかけ、トランプ合意を事実上頓挫させる可能性がある。

さらに厄介な問題となる可能性があるのは、将来のパレスチナ国家創設の可能性が和平案の条項に含まれている点だ。ハマスによる2023年10月の攻撃を踏まえれば、多くのイスラエル人にとってこれは受け入れがたい内容だとアナリストは話す。

元駐イスラエル米国大使のダン・シャピロ氏は、イスラエルの与野党がパレスチナ国家の創設に激しく反対する運動をすれば、アラブ諸国がハマスにトランプ和平案の義務を履行させようとする熱意を損なう可能性があるとの見方を示した。

シャピロ氏は「将来のパレスチナ国家構想を含めたのはアラブ諸国の協力を得る上で非常に重要だった」とし、「イスラエルがパレスチナ国家を絶対的に拒否するという方向に振れれば、アラブ諸国の協力に影響しかねないだろう」と話した。

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Gram Slattery is a White House correspondent in Washington, focusing on national security, intelligence and foreign affairs. He was previously a national political correspondent, covering the 2024 presidential campaign. From 2015 to 2022, he held postings in Rio de Janeiro, Sao Paulo and Santiago, Chile, and he has reported extensively throughout Latin America.

Alexander has over a decade of international reporting experience. He is currently a senior correspondent in Jerusalem covering Israel & the Palestinian Territories and was formerly in Dubai where he covered the Arabian Peninsula, including the United Arab Emirates, Saudi Arabia and Yemen, often writing about foreign policy, security and economic-related issues.

Humeyra Pamuk is a senior foreign policy correspondent based in Washington DC. She covers the U.S. State Department, regularly traveling with U.S. Secretary of State. During her 20 years with Reuters, she has had postings in London, Dubai, Cairo and Turkey, covering everything from the Arab Spring and Syria's civil war to numerous Turkish elections and the Kurdish insurgency in the southeast. In 2017, she won the Knight-Bagehot fellowship program at Columbia University’s School of Journalism. She holds a BA in International Relations and an MA on European Union studies.

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