【為替】9/8-9/12の米ドル/円を予想する

先週の米ドル/円は、レーバーデイが終わり実質的な夏季休暇明けで取引を本格化したトレーダーが、過去1ヶ月続いてきた狭いレンジの「上放れ」を試す動きを先行したことから、一時149円台まで上昇しました。ただし、9月5日(金)に発表された米8月雇用統計が予想よりも弱い結果となり、9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での大幅利下げ観測が浮上し、米金利が低下したことから、米ドル/円も一時146円台まで急落しました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年6月~)

浮上した9月0.5%利下げ、10月以降の連続利下げの可能性

注目された米8月雇用統計は、総じて予想より弱い結果となり、早期利下げ再開、さらに大幅利下げ、連続利下げの可能性も示すものとなりました。

NFP(非農業部門雇用者数)は、前回(8月1日)の発表で過去に発表された分の大幅な下方修正が大いに注目されていました。しかし、今回発表された8月分と、1~7月までの修正値を累計すると59.8万人の増加となり、1ヶ月平均は7.4万人の増加となりました(図表2参照)。2024年のNFPの1ヶ月平均は16.7万人の増加だったことから、トランプ政権に代わった2025年からはNFP増加ペースが半分以下に急減していることになります。米労働市場が急激に悪化している可能性を示していると言えるでしょう。

FFレートと米失業率の相関性に注目すると、今回8月失業率が4.3%となり、より相関性の高まる失業率修正値は現在4.5%のFFレート誘導目標上限を、早期に4%まで引き下げる必要性を示唆する結果となりました(図表3参照)。つまり、9月FOMCで0.5%の大幅利下げの可能性を示す状況となったわけです。

【図表3】FFレートと米失業率修正値(2022年~)

今回の雇用統計発表前から、米金利は9月FOMCでの0.25%利下げの可能性を織り込む動きをしていましたが、雇用統計の結果を受けて、利下げ幅が0.5%に拡大する可能性、さらに年内残る10月、12月の2回のFOMCでも連続的に利下げを行う可能性も織り込み始める動きとなりました。

米金利低下など米ドル安要因に鈍い反応の理由とは?

上記の内容を受けて、金融政策を反映する日米2年債利回り差(米ドル優位・円劣位)は一段と縮小しました。これまでの関係を参考にすると米ドル/円は145円を割れるまで下落してもおかしくないとみられますが、その意味では金利差の割に米ドル/円の「下げ渋り」が目立っています(図表4参照)。では、その原因は何なのでしょうか。

【図表4】米ドル/円と日米2年債利回り差(2025年7月~)

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の米ドル・ポジションは、主要な5通貨(円、ユーロ、英ポンド、加ドル、豪ドル)を対象にしたもので見ると、足元では小幅な買い越し、ほとんどニュートラルとなっています(図表5参照)。つまり、これまで見てきた金利差から見た米ドル「下げ渋り」が、行き過ぎた投機的米ドル買いの結果ではなく、その逆にすでに米ドルが「売られ過ぎ」となっていることから、米ドル売り材料への反応が鈍くなっているというわけでもないそうです。

【図表5】CFTC統計の投機筋の米ドル・ポジション=主要5通貨対象(2000年~)

ただし、米ドルのポジションを、円とユーロの2通貨だけを対象にしたもので見ると、4月以降記録的な「売られ過ぎ」が続いています(図表6参照)。4月のトランプ米大統領による相互関税発表をきっかけに「米国売り」が拡大し、米ドルも急落する場面がありました。

そうした中で起こった円やユーロに対する米ドル「売られ過ぎ」の状況がその後も続いていることから、金利差米ドル優位縮小といった米ドル売り要因への反応が鈍くなっている可能性があるのではないでしょうか。

【図表6】CFTC統計の投機筋の米ドル・ポジション=主要2通貨対象(2010年~)

今週(9月8日週)の注目点=米CPI等の結果は大幅利下げや連続利下げに影響か

テクニカルには146円台サポート続くかに注目

今週は、PPI(生産者物価指数)、CPI(消費者物価指数)など米インフレ指標の発表が予定されています。すでにみてきた雇用統計の結果などにより、米CPI等の結果で、9月FOMCでの利下げ再開との見通しが変わる可能性はほぼないでしょう。米CPI等の結果は、雇用統計の結果を受けて浮上した9月FOMCによる0.5%利下げや10月以降の連続利下げの可能性を左右する要因になるのではないでしょうか。

米ドル/円は雇用統計発表などを受けて急落する場面もあったものの、7月からサポートされている146円台を割り込むまでには至りませんでした。その背景としては、米金利低下などの米ドル安要因への反応が鈍い状況が続いているということが大きいのではないでしょうか。米ドル安・円高がさらに広がるかは、ある意味では米利下げ見通し以上に、146円台のサポートを割れるかが重要になるかもしれません。

見え隠れする円安を容認しない日米の姿勢=今週(9月8日週)の予想レンジは145~149円

一方、米ドル安要因への反応が鈍いのは、米ドル「売られ過ぎ」の影響ということなら、その修正で米ドル高・円安に振れやすい面はあるでしょう。ただし、日米間税交渉の合意による不確実性の低下などから、日銀による早期利上げの可能性も着実に高まっていると考えられます。とくに円安圏で、植田日銀総裁とベッセント財務長官や石破総理の会談が話題に出てくるのは、一段の円安を容認しない観点から日銀利上げを検討しているようにも感じられます。その意味では、米ドル高・円安にも自ずと限度があるのではないでしょうか。

以上を踏まえ、今週(9月8日週)の米ドル/円は145~149円で予想します。

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