連合の春闘要求32年ぶり6%超え、日銀の早期利上げ観測を後押し

日本最大の労働組合の全国組織である連合は6日、2025年春闘の賃上げ要求が6%を超えたと発表した。6%を上回ったのは32年ぶり。賃金上昇のモメンタム(勢い)持続を示唆する内容で、金融政策の正常化を進める日本銀行にとって好材料と市場は受け止めそうだ。発表後、外国為替市場では円買いが優勢となっている。

  連合によれば、3日時点の賃上げ要求は平均で6.09%と、1993年(7.15%)以来の高水準となった。ベースアップ(ベア)要求は4.51%。組合員300人未満の中小は平均6.57%で30年ぶりの高さ。ベアは5.01%となっている。

  日銀は、経済・物価が見通し通り推移すれば緩和度合いの調整を継続する方針を維持している。 内田真一副総裁は5日、物価の基調を考える上で「一番重要なのは賃金」と説明。今春闘でのさらなる賃上げに期待感を示した。日銀が昨年17年ぶりの利上げに踏み切った際は、春闘の好調な出足が決め手の一つとなった。今回の集計結果は市場で根強い早期の利上げ観測を後押しする可能性がある。

  大和総研の神田慶司シニアエコノミストは、今回の結果は想定以上に強かったとの受け止めを示し、最終的に「5%台前半程度で着地する可能性は十分にある」と指摘。1月の金融政策決定会合で利上げをした日銀の「見立ては正しかった」とみている。その上で、追加利上げの時期については7月をメインシナリオとしながらも、米経済の動向次第では「1カ月か2カ月の前倒しはあるかもしれない」と語った。

  日銀は18、19日に金融政策決定会合を開催する。1月の会合後にブルームバーグが実施したエコノミスト調査では、追加利上げの時期について最多の56%が7月の会合を挙げた。リスクシナリオとして最も早いタイミングに関しては、4-5月が45%で最も多い。

関連記事:調査リポート:日銀の次回利上げ予想、7月会合が5割超

  連合の集計発表後、円相場は対ドルで上げ幅を拡大し、一時1ドル=148円07銭を付けた。発表前は148円80銭付近で推移していた。

新たなステージの定着

  連合は、賃金の上昇を通じて持続的に生活が向上する「新たなステージの定着」を目指している。今年の賃上げ目標を昨年と同水準の「5%以上」、中小の労組は企業規模による格差是正分を加えて「6%以上」に設定。物価高の影響などで個人消費が力強さを欠くなか、消費マインドを好転させるためにも春闘への期待は高い。第1回回答集計の結果は14日に公表する。 

  芳野友子会長は記者会見で、要求が30年ぶりに6%を超えた中小組合について、「意気込みを感じている」とコメント。今後の交渉に期待感を示すとともに、「結果にこだわっていきたい」と語った。その上で、「何より国民が生活向上を実感できるきっかけとなる春季生活闘争にしていきたい」と語った。

  昨年は30年ぶりに5%を上回った要求(5.85%)に対し、33年ぶり高水準となる5.10%で妥結。中小では5.97%の要求に対し4.45%の賃上げを獲得した。

  ESPフォーキャストの2月調査よると、今春闘の賃上げ率(厚生労働省の集計ベース)について、エコノミストは平均4.92%を予想している。

  第一生命経済研究所の藤代宏一主席エコノミストは4日の電話取材で、賃金が数十年間上昇しなかった消費者にとって、過去2年の賃上げは「たまたま」だと見られていると指摘。3年連続の賃金上昇がマインドの変化につながるかどうか注目している。

  消費者にとっては所得の改善を実感しにくい状況が続いている。毎月勤労統計によると、24年の名目賃金は前年比2.8%増で1991年(4.4%増)以来33年ぶりの高い伸びとなった一方、物価変動を反映した実質賃金は0.3%減で3年連続前年を下回った。月次ベースで改善は見られるものの、プラス圏で定着するまでには至っていない。

  連合に先立ち、産業別労働組合の全日本金属産業労働組合協議会(金属労協)は今春闘で過去最高のベアを求めていると発表。UAゼンセンではパートタイムの要求が過去最高を更新している。

  帝国データバンクが先月公表したリポートによると、 25年度に賃上げを見込む企業が初めて6割を超え、このうち約56%がベアを予定していると回答した。賃上げの理由は「労働力の定着・確保」が7割を超えてトップ。「同業他社の賃金動向」が初めて3割を超えるなど、防衛的に賃上げに動く様子がうかがえる。

(エコノミストコメントを追加し、為替市場の動向を更新しました)

関連記事: