大谷翔平の「非常識」な打撃 体に引きつけ異例の飛距離
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見慣れた光景でも、別の視点が加わることで新鮮となり、改めてその物事の本質に触れられることがある。
分かりやすい一例が空振り。今永昇太(カブス)の4シームファストボール(4シーム)の球速は約93マイル(約150キロ)で大リーグでは極めて平均的。しかし、高い回転数(2442=1分間)、高い回転効率(99%)、-4.0度という低いバーティカル・アプローチ・アングル(VAA)を誇り、縫い目の影響も相まって、相手は彼の4シームが浮き上がっていると錯覚する。
球速だけでは、わからないのだ。「回転数が高いから」という説明だけでは、あまりにも話を単純化している。
大谷翔平が米国での開幕戦で放った一発も、まさにそんな本塁打。あの本塁打の打球初速は108.9マイルで、打球角度は25度。この限りでは、さほど珍しくないデータだが、これが仮にホームベース上で捉えた打球だとしたら? 力学的に可能なのか? という疑問を抱くのは、むしろ玄人ではないか。
まだコンタクトした位置の正確なデータは出ていないが、大リーグでは今年から打者がどこでボールを捉えたかのデータを提供する予定。参考として先日、昨年のデータが先行公開されたが、大谷の場合、コンタクトした位置の平均値は-3.7インチ(約9.4センチ)だった(ホームベースの一番投手寄りのラインを0とし、前であればプラス、後ろであればマイナスとする)。
これがいかに特異なことか。
メジャーの平均値は+2.4インチ(約6.1センチ)なので、その差は約15.5センチもある。言い換えれば、大谷は平均的な打者よりも15.5センチも引きつけて打っていることになる。この数値は打席の立ち位置などによっても変わってくるが、別のデータでも「こんなに近い距離で打っているのか?」ということが証明されている。
そのポイントで捉え、反対方向に飛距離を出すことがいかに難しいか。かつて横浜(現DeNA)やソフトバンクでプレーし、現在は野球解説者を務める多村仁志さんは「日本だと金森理論(金森栄治氏による打撃理論)といって、やはり、できるだけ体の近くまで引きつけて、右打者なら右半身の軸回転で強い打球を打つ理論もあります。城島(健司)さん、井口(資仁)さんがそうでした」と教えてくれたが、「大谷選手のように、あれだけ近いポイントで打って、あれだけの飛距離を出すというのは、金森理論とは少し違いますが、現代の打撃理論のバレルターンも含め、打ちにいく時のトップの位置からのクイックな動きや相当な筋力と柔軟性がないと無理だと思います」と話し、続けた。「普通は押し込まれてファウルになるか、浅いフライになるか、という感じでしょうか」
どうだろう。素人との比較なら、ゲームセンターなどにあるパンチングマシンで、多くの人が助走をつけたり勢いをつけてパンチしたりするのと違って、大谷は手首のスナップだけでベストスコアをたたき出す感じだろうか。
では、メジャーの他のスラッガーは、どのポイントで捉えているのか。
先ほども触れたように、コンタクトポイントの平均値だけで比較した場合、バッターボックスの立ち位置などによっても誤差が出るので、その平均値に加え、体の重心からコンタクトポイントまでの距離をまとめてみた。
これを見ると、コンタクトポイントが大谷より後ろの選手はいるが(J・D・マルチネス、マーセル・オズナら)、重心からの距離となると、大谷より近い選手はいない。もちろん全選手のデータを出したわけではないが、やはり突出している。
ちなみにメジャーには、「ホームベースの前にお金が落ちている」という表現がある。ウォルカー・ジェンキンスというツインズのプロスペクト(若手有望株)も、米データサイト「ファングラフス」の取材に対し、「お金を稼ぐなら、ベースの前にある」と話している。「より相手にダメージを与えられるし、よりパワーが打球に伝えられる」。また、元カブス打撃コーチのアンディ・ハインズも、「勝負は、ホームプレートの前9〜18インチで決まる」と話したことがあるそうだ。
そんなメジャーの常識で考えても、大谷のコンタクトポイントは非常識なレベルだ。
ここまでボールを引きつけるということは、ボールを長く見るということにもなる。ストライク、ボールの見極めだけではなく、球種の判断でも有利に働く。また、大谷の打席で捕手の打撃妨害が多いのも、これである程度説明がつく。捕手は最後に腕を伸ばすようにして捕球するが、大谷の始動のタイミングが遅いので、当たってしまうのだろう。
スイングスピードの速さゆえでもあるが、あの本塁打に関していえば74.8マイルで、昨年の平均値(76.3マイル)を下回った。コンタクトした位置とどう関係しているのか。そこを掘り下げると本人の意識も確認する必要があるので、今回はここまでにする。新しい視点が提供されたこともあって、今年も開幕から、素人も玄人も飽きさせない大谷である。
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