ユーロが対ドルで再びパリティーに近づいている理由とは-QuickTake
1999年にユーロが誕生して以降、対ドルでパリティー(等価)となったのは数回のみだ。直近は2022年。ロシアのウクライナ全面侵攻による欧州エネルギー危機で景気後退懸念が高まり、1ユーロ=1ドルまで下落した。足元で市場関係者は再び同様の事態が起きる可能性があると見ている。
なぜユーロは下落しているのか
欧州は、トランプ次期米大統領が掲げる関税引き上げの脅威に最もさらされている地域の一つだ。自動車から化学製品、高級ハンドバッグに至るまで、米国は欧州連合(EU)の輸出品の主要な買い手であり、関税引き上げは、既に弱まりつつあるEU経済のさらなる重しとなる恐れがある。
ユーロ圏の成長は低迷し、金利は他の先進国に比べ低い(ユーロ建て資産の金利収入減少を意味し、ユーロ需要減退につながる)。これに加えEU最大の経済国のフランスとドイツを巡る政治的な不透明感が増している。両国への投資リスクは高まり、成長を妨げる構造的な問題を政府が解決するのを難しくしている。
ユーロ安は、ドル全面高とも関連する。トランプ次期政権の政策が米国の経済成長や企業利益を押し上げるとの期待からドル建て資産への需要が高まっている。他の国・地域と比較した米資産のアウトパフォーマンスは24年、大半の主要通貨の重しとなった。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は同年7%余り上昇し、9年ぶりの年間上昇率を記録している。
パリティーになる可能性は
米大統領選後、少なくとも10の銀行がユーロの予想を下方修正した。その中には25年に1ユーロ=1ドルを下回るとの予測も一部見られた。
もっとも、パリティーになるとの見方で一致しているわけではない。トランプ氏の政策の規模やスピードを巡っては、依然として不透明な部分が多い。欧州の成長を刺激する措置が講じられるとの楽観的な観測もある。
なぜ重要なのか
パリティーは、投資家や政策立案者にとって心理的に重要な意味を持つ。何十億ドル規模のオプション取引がリンクしている可能性があり、ユーロのボラティリティーを拡大させ得る。
可能性は低いが、ユーロ圏から離脱する国が出てくるリスクはなお存在する。ユーロがパリティーまで下落すれば、反ユーロのポピュリスト政治家を勢いづかせる可能性もある。ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は、EU、ユーロ圏からの離脱を訴える選挙キャンペーンを計画している。
ユーロ安の欧州経済への影響
政策立案者は、輸出競争力の向上で経済成長を刺激するとして自国通貨安を歓迎することが多い。ただ米国がそれらの商品に追加関税を課せば、プラス効果が薄れる可能性がある。
ユーロ安により原材料の輸入価格が上昇し、物価上昇圧力が再燃するリスクもある。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後のインフレの抑制を期待していた欧州中央銀行(ECB)にとっては頭痛の種となるだろう。ECBのシュナーベル理事は、ユーロの「大幅な下落」はインフレに影響を及ぼす可能性があると警告している。
消費者にとっては、ユーロ安は輸入品やユーロ圏外での休暇にかかるコストを増やすことになる。一方、欧州の観光業界は米国からの観光客流入による恩恵を受け得る。
ECBはユーロを支えるため介入するか
為替レートは、ECBの政策目標ではない。ユーロ相場に政策立案者が反応するような特定の水準も存在しない。
ECBは政策金利を決める際に為替レートの変動を考慮するものの、ユーロを買い支えるため直接介入するのは極めてまれだ。これまでにECBが為替市場に介入したのは数えるほどしかない。2000年のユーロ下支えの介入と、11年の円押し下げに向けた主要7カ国(G7)の協調介入のみだ。
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原題:Why the Euro Is Closing In on US Dollar Parity Again: QuickTake(抜粋)