8月前半は低調なるもアラスカ会談を挟んで8月後半は攻撃激化:ウクライナ迎撃戦闘2025年8月分の傾向(JSF)

 2025年8月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は合計で4288飛来(ドローン4132機+ミサイル156発)でした。8月前半の攻撃は低調で先月の3分の1程度の少ないペースでしたが、8月15日の米露アラスカ会談を挟んで、8月後半は攻撃が激化して先月とほぼ同じペースに戻っています。出典:ウクライナ空軍司令部

8月後半から攻撃が激化:図を拡大

筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃:2025年8月
  • 8月01日~15日:1152飛来、1日あたり平均77飛来
  • 8月16日~31日:3136飛来、1日あたり平均196飛来
  • 7月01日~31日:6495飛来、1日あたり平均210飛来 ※過去最大

※8月15日の米露アラスカ会談の後にロシア軍はウクライナ全土に対し、8月21日(記事)、28日(記事)、30日(記事)に大規模な長距離ドローン・ミサイル攻撃を実施。温存していた巡航ミサイルまでも纏まった数を投入している。なお18日と19日も攻撃規模は比較的大きく、米露アラスカ会談の評価が固まった後に本格攻撃再開の命令が出た可能性が高い。

2024年7月~2025年8月の飛来数:図の拡大

筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃の推移(2024年7月~2025年8月)

2024年7月~2025年8月の飛来数(ドローンのみ)図の拡大

筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン攻撃の推移(2024年7月~2025年8月)

2024年7月~2025年8月の飛来数(ミサイルのみ)図の拡大

筆者作成図:ロシア軍の長距離ミサイル攻撃の推移(2024年7月~2025年8月)

ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃:2024年7月~2025年8月

※囮無人機が混じり出した2024年7月以降(急増は2024年10月以降)、2025年8月までの14カ月間でドローンは41790機であり、1カ月あたり平均2985機。

※囮無人機が混じっていない2024年6月以前の1年分(2023年7月~2024年6月)でドローンは4433機であり、1カ月あたり平均369機。

※2024年10月以降に囮無人機が急増したと分かるのは、未到達(囮無人機の燃料切れによる墜落が多くを占める)が急増した為。

○2025年8月:4288飛来3484排除

各種ミサイル:156飛来107排除 ※阻止率69%

  • 弾道ミサイル:50飛来22排除 ※阻止率44%
  • 転用ミサイル:8飛来0排除 ※阻止率0%
  • 巡航ミサイル:97飛来85排除 ※阻止率88%
  • 不明ミサイル:1飛来0排除 ※阻止率0%

各種ドローン:4132飛来3435排除 ※阻止率83%

  • プロペラ推進:4120飛来3424排除 ※阻止率83% ※自爆型と囮型
  • ジェット推進:12飛来11排除 ※阻止率92% ※自爆型のみ

※ジェット推進ドローンの飛来報告はウクライナ空軍司令部からは8月2日(出典)と8月8日(出典)のみだが、8月28日にキーウ市内でドローン用と推定される小型ジェットエンジンの残骸が発見されており(出典)、実際の飛来数はもっと多い。ただし全体の飛来数としては現状ごく一部に止まる。

※不明ミサイルは8月21日(出典)に飛来。正式な分析ではないがスクラムジェット極超音速巡航ミサイルと喧伝される新兵器「3M22ツィルコン」という推定がある。

※なおウクライナ空軍司令部は2025年7月24日以降に「未到達」の数を詳しく報告しなくなった(説明記事)。

※「排除」とは撃墜または抑制(ЗБИТО/ПОДАВЛЕНО)のことで、抑制とは本来は電子妨害での無力化を意味するが、しかしここではドローンに関しては囮無人機の燃料切れ墜落の未到達を含む。

※ドローンの「排除」は撃墜+未到達、ミサイルの「排除」はほぼ撃墜と読んでもよい。ただしこれはウクライナ空軍司令部の報告を解釈したここでの読み方であることに注意。

※ここでのドローンとは長距離型のみを指す。

弾道ミサイル8月傾向:7月と同規模

  • キンジャール空中発射弾道ミサイル×7飛来2排除
  • イスカンデルM/KN-23弾道ミサイル×25飛来15排除
  • イスカンデルM弾道ミサイル×18飛来5排除

○弾道ミサイル合計:50飛来22排除、28突破 ※阻止率44%

※不明ミサイルは8月21日(出典)に飛来。正式な分析ではないがスクラムジェット極超音速巡航ミサイルと喧伝される新兵器「3M22ツィルコン」という推定がある。確定だった場合は弾道ミサイルではないが同等以上の性能と見做してこの項目に分類する予定だが、現段階では外してある。

 8月の弾道ミサイルの使用規模(50発)は7月(58発)や6月(59発)とほぼ同じ。主に数発ずつの使用を15回行っており、一度に二桁の数を発射したのは8月28日の11発(イスカンデルM/KN-23×9発、キンジャール×2発)の1回のみ。

 弾道ミサイルは2024年10月~2025年4月の7カ月間は1カ月あたり20発台の使用でしたが、最近の2025年5月~2025年8月1カ月あたり47~58発と倍増しています。おそらくですが北朝鮮製KN-23弾道ミサイル(ロシア製イスカンデルM模倣品)の供給が続いていると見られます。

 なお6月から使用を再開したキンジャール(約5カ月間使用が無かった)は、6月(16発)、7月(15発)、8月(7発)という推移です。

転用ミサイル8月傾向:再び低調に

  • S-300地対空ミサイル×7飛来0排除 ※8月3日(5発)、8月14日(2発)
  • Kh-22空対艦ミサイル×1飛来0排除 ※8月3日(1発)

○転用ミサイル合計:8飛来0排除、8突破 ※阻止率0%

※ここでは転用ミサイル(本来の用途ではない対地攻撃に転用したもの)は超音速型に限定して準弾道ミサイル扱いとし、亜音速型は巡航ミサイルに分類する。

 転用ミサイルは先月の7月にS-300(24発)と数カ月ぶりに纏まった使用がありましたが、今月の8月は再び飛来数が低調になっています。使用数も2回のみです。

巡航ミサイル8月傾向:7月と同規模

  • 巡航ミサイル/空対地ミサイル(4種類)×37飛来32排除
  • Kh-101巡航ミサイル×44飛来40排除 ※上の数が入っていない
  • カリブル巡航ミサイル×14飛来12排除 ※同上
  • イスカンデルK巡航ミサイル×2飛来1排除 ※同上

○巡航ミサイル合計:97飛来85排除、12突破 ※阻止率88%

※巡航ミサイル/空対地ミサイル(4種類)とはKh-101、カリブル、イスカンデルK、Kh-59であり、ウクライナ空軍司令部の8月30日の報告(出典)は巡航ミサイルの細かい種類を識別できずに大雑把な集計としている。

 8月の巡航ミサイルの使用規模(97発)は7月(116発)とほぼ同じです。最近では6月(170発)のみが多く、これは6月1日のパヴティナ作戦(蜘蛛の巣作戦)への報復で一時的に6月は増えた巡航ミサイル使用数が、7月と8月は元に戻ったと見做せます。

 例年の傾向ではロシア軍は年末年始に大規模な巡航ミサイル攻撃を仕掛けるために、秋の何処かの時期で使用を控える備蓄期間を設けるので、9月以降に発射数は控えめになるかもしれません。

各種ドローン8月傾向:前半は低調、後半は7月と同規模

  • プロペラ推進:4120飛来3424排除 ※自爆型と囮型
  • ジェット推進:12飛来11排除 ※自爆型のみ

○各種ドローン合計:4132飛来3435排除、697突破 ※阻止率83%

※ジェット推進ドローンの飛来報告はウクライナ空軍司令部からは8月2日(出典)と8月8日(出典)のみだが、8月28日にキーウ市内でドローン用と推定される小型ジェットエンジンの残骸が発見されており(出典)、実際の飛来数はもっと多い。ただし全体の飛来数としては現状ごく一部に止まる。

※プロペラ自爆無人機:シャヘド136(ゲラン2)、シャヘド131(ゲラン1)

※プロペラ囮無人機:ガーベラ、パロディ

※ジェット自爆無人機:名称不明(暫定:ゲラン3)

※ジェット囮無人機:飛来していない

※ここでのドローンとは長距離型のみ

ドローン突破数と阻止率の推移

  • 2025年08月:697突破:4132飛来3435排除 ※阻止率83%
  • 2025年07月:723突破:6297飛来5574排除 ※阻止率89%
  • 2025年06月:761突破:5438飛来4681排除 ※阻止率86%
  • 2025年05月:715突破:4005飛来3290排除 ※阻止率82%
  • 2025年04月:381突破:2476飛来2095排除 ※阻止率85%
  • 2025年03月:377突破:4198飛来3821排除 ※阻止率91%
  • 2025年02月:107突破:3909飛来3802排除 ※阻止率97%
  • 2025年01月:90突破:2599飛来2509排除 ※阻止率97%
  • 2024年12月:24突破:1850飛来1826排除 ※阻止率99%
  • 2024年11月:68突破:2436飛来2368排除 ※阻止率97%
  • 2024年10月:85突破:1912飛来1827排除 ※阻止率96%

 2025年3月以降に自爆無人機の顕著な突破数の増加と阻止率の低下が見られます。囮無人機の急増は2024年10月以降なので、2025年3月以降の変化の原因は囮無人機の投入の影響ではありません。自爆無人機の目標選定の変化の影響が最も大きいと筆者は考えます。(2025年8月1日考察記事

 2025年8月のドローン飛来数(4132機)は過去最大だった先月の7月(6297機)の65%程度に減少していますが、突破数は先月の7月と大差がありません。2025年8月のドローン阻止率(83%)は、過去1年近くで最もドローン阻止率が悪かった2025年5月(阻止率82%)に次ぐ低い数字だったからです。

 ジェットエンジン搭載型シャヘド自爆無人機(名称不明、暫定:ゲラン3)は今月に初めてウクライナ空軍司令部が飛来を報告しましたが(12機)、未報告分を含めてもせいぜい十数機から数十機で、1カ月あたり数千機が飛来している長距離ドローン全体からするとごく一部の数で大きな影響はまだ出ていません。

速力の違い(数字は大まかなもの)

  • 超音速以上:弾道ミサイル イスカンデルMなど
  • 超音速以上:迎撃ミサイル パトリオットなど
  • 900km/h:亜音速巡航ミサイル Kh-101など
  • 600km/h:ジェット迎撃無人機 コヨーテBlock2(ウクライナ未投入)
  • 500km/h:ジェット自爆無人機 仮称:ゲラン3
  • 300km/h:プロペラ迎撃無人機(高速型) 姿勢転換水平飛行型
  • 200km/h:プロペラ自爆無人機 シャヘド136(ゲラン2)など
  • 150km/h:プロペラ囮無人機 ガーベラ、パロディなど
  • 150km/h:プロペラ迎撃無人機 市販の小型マルチコプターと同じ形式

※ジェット型の囮無人機は今のところ飛来していない。

※ジェット自爆無人機はプロペラ迎撃無人機(高速型)より速いのでこれを無力化できる上に、目視照準の対空機関砲を突破し易くなる。ただし迎撃ミサイルには対抗できない上に、高価なジェットエンジンを搭載すれば製造単価はプロペラ自爆無人機より高くなる。

※ジェット自爆無人機がもし大量に投入された場合、対抗でジェット迎撃無人機が投入されることになる。ジェット自爆無人機は長距離を飛ぶために燃料を多く積み機体が大型化するのに対し、ジェット迎撃無人機はそれより遥かに短い射程を飛べて小さな弾頭を積めばよく、必然的に自爆型と迎撃型を比較すると同じジェットエンジンでも迎撃型の方がより小型高速になる。

※関連記事:ドローン迎撃ドローンはジェットエンジンを搭載した遅い迎撃ミサイル

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