SROモータースポーツ・グループCEOステファン・ラテルインタビュー:鈴鹿1000kmの復活、これからのGT3/GT4
ル・マン/WEC ニュース
Ryuji Hirano / autosport web
9月12〜14日、三重県の鈴鹿サーキットで開催されるインターコンチネンタルGTチャレンジ第4戦『第49回鈴鹿1000km』。伝統の耐久レースの復活とも言えるレースであり、国内外からGT3の強豪チームが集っているが、レース開催に向け、シリーズを運営するSROモータースポーツ・グループのCEO/ファウンダーであるステファン・ラテルが来日した。オートスポーツwebでは2019年、2022年に続くインタビューだが、鈴鹿1000km復活について、近年のSRO規定のシリーズ、アジアの状況などを聞いた。
──まずは鈴鹿へ戻ってきた感想を教えてください。この鈴鹿はあなたにとってたくさんの思い出があると思っています。ステファン・ラテル(以下SR):昨年は富士スピードウェイに来たし、毎年日本には来ているんだ。日本は本当に大好きだよ。私は毎年富士と鈴鹿を交互に訪れているんだ。この鈴鹿に初めて来たのは1994年のことで、ドライバーとオーガナイザーを兼ねる立場として来たんだ。鈴鹿500kmレースだね。その後3回出場したけど、ふたたびここに戻ることができてとても嬉しく思っているよ。ドライバーのひとりとしても、ここはお気に入りで、いちばん好きなサーキットだ。
──2019年まで開催されていた鈴鹿10時間から、今回の開催まで6年の間がありました。新型コロナウイルスのパンデミックもありましたが、6年間開催できなかった理由はなんでしょうか。SR:我々はもちろん、ずっと復帰を望んでいたけど、コロナ禍のとき鈴鹿はサーキットだけでなく遊園地も封鎖されていたと聞いているよ。鈴鹿1000kmの復活については、ホンダモビリティランドはすごく慎重だった。ただ、我々は以前のようにイベントを復活させようと鈴鹿サーキットと尽力してきたんだ。以前は鈴鹿が主催だったけれど、今回は少し違っていて、鈴鹿サーキットとSROモータースポーツ・グループの共同で行うスタイルを採っているんだ。もちろん開催に向けて経済的なリスクはSROにもあるけど、今年のグリッドの状況を見る限り自信をもっている。きっと成功すると思うし、ファンの皆さんもきっと再開できたことを喜んでくれていると思っている。我々の願いでもあったし、IGTCにとっても鈴鹿1000kmは最も重要なイベントのひとつだ。
──今年の鈴鹿1000kmは33台のエントリーを集めました。どうご覧になっていますか。SR:鈴鹿1000kmは今年で49回目を迎えたけど、本当に歴史あるレースだ。GTワールドチャレンジ・アジアのドライバーたちはスプリントには慣れていると思うけど、耐久はあまり慣れていない。6時間半という距離を走るレースはちょうど良いと思う。また、鈴鹿サーキットと交渉を開始したときには、最低でも20台をエントリーさせたいという目標があった。今回33台が集まったことは非常に大きな成功だ。ベンジャミン(フラナソビッキ=SROモータースポーツ・アジア代表)のおかげだよ。アジアには非常に多くのGT3カーが存在していて、1000kmの走行に耐えられるポテンシャルがある。また、今回ヨーロッパのチームとのコラボレーションが見られていることも重要な要素だ。今年は非常に大きな成功だと思っている。
──5月にGTアソシエイションの坂東正明代表は、GT300を鈴鹿1000kmで走らせシリーズで開催するような構想を語りました。坂東さんとはどんな話をされていますか。SR:この鈴鹿1000kmの週末、坂東サンとは会う予定だ。もちろんGT300チームがここに来てくれることをとても楽しみにしているよ。当然、我々が使っているピレリと、複数のタイヤメーカーが走るGT300との問題を解決しなければならないし、他にも課題は多くあるが、来年鈴鹿1000kmは50回の記念の年だよね。50年というのは本当に大きな節目だ。その50年のレースに、GT300車両に参戦してほしいと心から願っている。
2025年鈴鹿1000km ナイトプラクティスの様子
GT300決勝スタート 2025スーパーGT第5戦鈴鹿
──今年のインターコンチネンタルGTチャレンジにはメルセデスAMG、BMW、ポルシェ、フェラーリがマニュファクチャラーとして登録しています。他のメーカーを含め、現在のGT3マーケットをどうご覧になっていますか。SR:IGTCには4つのマニュファクチャラーが参加している。2年前の3メーカーよりは良くなっているが、コロナ禍前の2019年には8つものマニュファクチャラーが参加していたんだ。IGTCはコロナ禍で鈴鹿10時間を失ったとともに、非常に大きな打撃を受けた。また経済状況もあり、5大陸で5レースを開催する野望は途絶えてしまったが、ニュルブルクリンク24時間という大きなイベントも加え良い結果を生んでいる。だけど、さらに多くのメーカーを加える必要があるのは間違いない。来季はさらに1社増えることを期待している。毎年1社ずつ増えれば良い状況に戻れるだろう。
──現在、トヨタが新しいGT3を開発しています。ただ、なかなかレースに登場するタイミングが来ません。何か教えていただけることはありますか。SR:ご存知のとおり、GT3マーケットは世界的な成功を収めており、世界中で発展し続けている。我々は来年、GT3の20周年を祝う年なんだ。20年間で10社以上のメーカーが参加してくれたが、時にメーカーを失うこともある。ベントレーしかり、間もなくアウディもだ。しかし常に新しいメーカーが参加している。
日本の状況は少し残念で、過去にはニッサン、レクサス、ホンダがGT3カーを作り上げたが、日本メーカーは純粋なカスタマーレーシングであるGT3の本質を、過去には完全に捉えることができなかった。しかし、いまトヨタは新しいプログラムでそれを実現させており、我々は彼らのGT4カー(トヨタGRスープラGT4)の成果に非常に満足している。世界中で多くの車両を販売し、真のカスタマーレーシング部門を築き上げた。ついに、ついにだよ(笑)。日本人は少し物事に時間を要するけれど、作り上げたものは素晴らしい。いま新しいGT3が少し遅れていていつになるかは分からないが、世界中で開催されるIGTCに参加することを願っている。2027年になるのか、2028年になるのか分からないが、期待しているよ。
──一方で、GT4のマーケットはいかがでしょうか。カスタマーも車種も充実しているように感じます。SR:我々がGT4を投入したマーケットは非常に成功している。ヨーロッパでは40台以上が参加するシリーズが今も開催されているし、国内マーケットではフランス、ドイツ、イギリスが盛況だ。またオーストラリアも同様だし、アジアでは中国でGT4を使うSRO GTカップも今シーズンから発足し、これもまた成功している。GT4は引き続き魅力的なカテゴリーだと思う。
──近年のGTワールドチャレンジ・アジア、そして2024年から始まったジャパンカップについてどうご覧になっていますか。両シリーズとも非常に多くのエントリーを集めています。SR:先ほども話したとおり、GTワールドチャレンジ・アジアとSROジャパンカップも成功を収めているだろう。さまざまな変化により、現在フルグリッドになっていて、とても満足しているよ。アジアでの唯一無二のマルチメイクレースだと思う。GTワールドチャレンジ・アジアには、日本、中国、韓国、マレーシア、シンガポールなどさまざまな国籍の人々が一堂に会している。また、インドネシアではマンダリカをカレンダーに加えたし、北京のストリートコースでのレースを控えている。北京は非常に大きな挑戦になるだろうね。我々が成功を収めることで、中国におけるGTカーレースの成長に繋がることを願っている。
また、SROジャパンカップも日本ではスーパーGTとスーパー耐久の間に位置するレースを築けたと思う。昨年はやや控えめなスタートではあったけど、うまくいっていると思う。スプリントのフォーマット、シングルメイクのタイヤというフォーマットは素晴らしく、コストの面でも魅力的なシリーズにすることができた。我々はすでに18〜20台ほどを集めているが、成長の余地はあり、まだ台数を増やすこともできると思う。ただ日本のモータースポーツシーンは非常に忙しい。ふたつのカテゴリーでGT3が走ることができるが、これはこれで良いことだろう。
2025年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでサプライズ披露された『トヨタGTレーシング・コンセプト』。トヨタは「FIA FT3カテゴリーへの参戦を目指して開発中」と説明している。
ピレリGT4アメリカの様子
──2019年に、FIAモータースポーツ・ゲームスの初開催についてあなたから『ぜひ取材に来るべきだ』と誘っていただいたことを覚えています。残念ながら参加はできませんでしたが、近年の開催はいかがですか。SR:昨年はスペインのバレンシアで開催したが、大成功だった。これまでで最大のイベントとなり、82カ国から750人ものドライバーが参加し、26のカテゴリーが行われた。最高のイベントだったよ。盛大な開会式も行われた。次回の開催については、FIA国際自動車連盟との取り決めにより、ヨーロッパ外での開催となる。最初の3大会はヨーロッパで、4回目はそれ以外での予定となっているんだ。現在最終契約がまだだが、できる限り開催地は早く発表したいと思っている。
──例えば、FIAモータースポーツ・ゲームスを日本で開催することは可能でしょうか?SR:もちろん日本もモータースポーツが盛んな国であり、ここで開催すれば成功するだろう。しかしご存知のとおり、モータースポーツはお金がすべてだ。だから資金を確保しなければならない。このモータースポーツ・ゲームスは大規模なイベントであり、多額の費用がかかる。もちろんホストとなる地方自治体の協力、そしてスポンサーが必要だ。もし日本で資金調達が成功すれば、モータースポーツ・ゲームスは喜んで日本に来るだろう。ご存知のとおり、2年に一度開催されるイベントだ。2028年には開催は可能だよ。
──日本には非常にたくさんのGTカーファンがいます。この週末も多くのファンが訪れると思います。何か日本のファンへメッセージをお願いします。SR:鈴鹿1000kmを開催するために我々は懸命に努力し、リスクを負ってきた。このレースはアジアで最も古く、そして最も重要な耐久レースだ。日本のみならずアジアでもその伝統を知られている。このイベントを成功させたいし、成功させなければならない。今季、素晴らしいグリッドができたいま、たくさんのファンの皆さんの熱が必要だ。このイベントを応援してくれるファンの皆さんの存在はとても重要だ。今後もファンの皆さんにはぜひサーキットに足を運び、応援してもらいたい。日本にはたくさんの国内レースがあり、2週間後には富士スピードウェイでWECもあるのは知っているが、GT3のみで構成された耐久レースはこの鈴鹿1000kmだけで、価値あるものだと思う。ファンの皆さんの応援があれば、この鈴鹿1000kmは今後も成長し続けるだろうね。
2024年のFIAモータースポーツ・ゲームスの様子
2024年のFIAモータースポーツ・ゲームスの様子
SROモータースポーツのCEO&ファウンダー。フランス出身。レーシングドライバーとして活動するかたわら、1994年にベンチュリのワンメイクレースを立ち上げ、95年からはBPR GTシリーズの共同創設者に。以降ヨーロッパを中心にFIA GTなどのプロモーターを務めた。2006年にGT3コンセプトを築き上げ、その規定は世界的にヒット。いまやSROモータースポーツ・グループは世界各国のGTレースのプロモーターを務めている。
川井栞かわいしおり
2025年 / スーパーGT TWS PRINCESS