ロシア、甘い経済提案で米国に揺さぶり-元ゴールドマンが先兵役

ロシアの新たな特使が、さっそく作戦に着手した。トランプ米大統領とその側近のイーロン・マスク氏に、ロシアと魅力的な事業取引を結べる可能性をちらつかせている。

  「グローバルサウス」諸国および米国含む西側との「投資・経済協力」開発を担当するロシア特使に最近就任したキリル・ドミトリエフ氏は今週、およそ10年ぶりに、マスク氏が保有するX(旧ツイッター)に投稿。米ロの協力は「世界の課題に対処する鍵」になるとの考えを示した。続く投稿では米国およびサウジアラビアとの火星探査の構想を打ち出し、マスク氏のスペースXのようなロケットを登場させた。

  火星に対するマスク氏の壮大な夢に焦点が当てられたのは、偶然ではない。ドミトリエフ氏に課せられた重要な任務は、ロシアとの大型経済取引の見通しを餌にトランプ氏およびマスク氏ら最高顧問を釣り、ウクライナでの戦争を巡りロシアに有利な条件を引き出すことだ。

  事情を知る関係者によると、米ゴールドマン・サックス・グループの投資銀バンカーだった経歴もあるドミトリエフ氏は、事業の可能性を軸にトランプ氏との関係を発展させるようプーチン大統領を説得。トランプ氏がウクライナに鉱物資源へのアクセスを要求し始めたのを見て、ロシアはそのような交渉に活路を見いだしたと、内部の議論だとして匿名を要請した関係者は述べた。

リヤドで記者団の質問に答えるキリル・ドミトリエフ氏(18日)

  カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターの政治学者、エカテリーナ・シュルマン氏は、ロシアは「トランプ氏の『実利主義』と見られるものに付け入る方法や、同氏チームの実業家に商業的なアプローチが機能するかを探っている」と指摘。「トランプ氏側近の集団を長らく知る投資家、仲介役として(ドミトリエフ氏は)この戦略に適任」だと分析した。

  プーチン氏は今週、ロシアのレアアース採掘で「米国のパートナー」との協力をテレビ演説で提案し、この戦略を推進。ロシアは「ウクライナよりもこの種の資源を桁違いに多く持つ」と主張した。

  プーチン氏はまた、トランプ政権が輸入制限を解除すれば米国に200万トンのアルミニウムを売ると提案し、ロシア企業と米国企業との合弁でシベリアでアルミニウム生産を行う可能性にも含みを持たせた。

  インタファクス通信の報道によると、ドミトリエフ氏はリヤドで記者団に対し、米国とロシアは北極圏やその他地域での合同プロジェクトに目を向けていると発言。「合同プロジェクトで、われわれはもっと成功できる」と述べた。

  ドミトリエフ氏の報道官はコメントを控えた。

  ロシア大統領府のペスコフ報道官は27日、米ロ企業は協力に関心を持っているが、「この問題で実質的な議論はまだない」と述べたと、インタファクス通信は報じた。「これまでに明らかにされた米国の立場は、まず合意、経済はその後だ。全ては段階的に解決される必要がある」とペスコフ氏はくぎを刺したという。

  週末にゼレンスキー大統領を迎えてウクライナの天然資源取引に署名すると見込まれるトランプ氏は25日、「ロシア産の鉱物も購入したい」と述べ、ロシアはレアアースの埋蔵量が「極めて豊富」だとホワイトハウスで記者団に指摘した。「われわれが合意するなら、ロシアにとっても素晴らしい。ロシアには活用されていない貴重な土地がたくさんある」と続けた。

プーチン大統領と会談するキリル・ドミトリエフ氏(1月13日、写真はロシア国営メディアが配信)

  ドミトリエフ氏(49)はウクライナのキーウ生まれ。米スタンフォード大学とハーバード大学で学び、マッキンゼーでコンサルタントを務めた経験もある。プーチン氏の娘の友人と結婚し、2011年からロシア政府系ファンドを率いてきた。2022年2月のウクライナ全面侵攻の開始直後に「知名度の高いプーチン氏の盟友」として米国は制裁を科した。

  サウジアラビアで開かれた先週の米ロ高官協議では、プーチン氏の戦略を遂行する重要人物としてドミトリエフ氏は台頭した。協議自体には関与しなかったが、ウクライナ侵攻を巡る制裁で失われた経済損失を強調し、関係を改善してロシアに投資する正当性を米国の高官や記者団に論じた。

  プーチン氏のトランプ氏に対する戦略は、旧ソ連の国家保安委員会(KGB)が協力者にさせようと狙った人物の信頼を得るために活用していた「ミラーリング」に似た手法が反映されていると、米ワシントンの戦略国際問題研究所で欧州・ロシア・ユーラシアプログラム担当上級研究員のマリア・スネゴワヤ氏は指摘した。

  プーチン氏はトランプ氏の2期目就任以前から、「2020年の大統領選はトランプ氏から盗まれた、トランプ氏が政権の座にとどまっていればウクライナでの戦争は起こらなかっただろうといった、トランプ氏の発言をまねしていた」とスネゴワヤ氏。こうしたミラーリングの手法が「今も明らかに続いている」という。

原題:Putin Envoy Dangles Business Ties to Lure US to Ukraine Deal (1)(抜粋)

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