【コラム】トランプ米大統領の関税、想像上回るひどさ-ダドリー

トランプ米大統領が貿易相手国にどの程度の輸入関税を課すかを巡り、筆者は以前、自分が悲観論者だと思っていた。しかし、実際には筆者の想像を上回るひどさだ。

  筆者は先月、トランプ大統領が関税を第1次政権時から大幅に引き上げ、輸入総額の3%から10%にまで引き上げると推測していた。一時的に発動は延期されたものの、カナダとメキシコに対する25%の関税、そして中国に対して10%の関税を課すなど、すでに筆者の予想を上回る措置を講じており、まだ終わる気配はない。中国が報復措置を講じ始めたように、誰かが報復すればさらに踏み込んだ措置を取るとトランプ氏は表明している。そして、欧州など他の地域が次だと発言している。

  関税は、限られた状況下では妥当な場合もある。例えば、レアアースのような重要な原材料の国内供給者を保護し、そうしなければ一部の友好国以外からは入手できない場合だ。あるいは新興産業が国際競争に必要な規模を獲得できるよう支援するケース。補助金や為替操作といった不公正な貿易慣行を終わらせるよう各国に圧力をかける場合などもそうだ。カナダとメキシコへの課税は、これらの目的のいずれにも役立たない。むしろ、米国が世界的に競争力を維持するのに役立ってきた経済生態系に深刻なダメージを与えることになるだろう。

  北米3カ国は互いに利益をもたらす自由貿易圏を形成している。大まかに言えば、カナダは多くのコモディティーを供給し、メキシコは低コストの労働力を提供、米企業は2つの国境を越えて複雑な活動を連携している。関税はこの成長エンジンに歯止めをかけるものだ。ミクロ経済のレベルでは、関税はサプライチェーンを混乱させ、北米全域の産業や企業の相対的な競争力を変化させる。マクロ経済のレベルでは、関税は米国の物価を押し上げ、消費を抑制し、投資を阻害するだろう。

  具体的には、25%の関税が賦課された場合、米国の消費者物価はさらに1%ほど上昇すると筆者は予想する。過去4年間、インフレ率が米金融当局の目標値である2%を根強く上回ったままである現状では、これは特に問題だ。経済成長への影響は評価がより難しい。景気抑制的な財政の影響を減税が相殺できるかどうか、関税が恒久的なのかどうかを企業が見極めようとして投資をどの程度抑制するかに左右される。

  金融市場は打撃を受けるだろう。インフレ高進と成長鈍化は、株価のバリュエーションを押し下げるはずだ。投資家はリスクに対する見返りをさらに要求するだろう。これは危険なゲームであり、いつまで続くのか誰にも分からない。これまでの株式市場の反応は、トランプ氏が単なるはったりを言っているとの希望を示唆しているが、筆者は違うと考えている。大統領は本気で関税が米国の競争力を強化し、多額の収益を生み出すと信じている。

  債券の見通しはより複雑だ。米金融当局の対応が大きく影響する。インフレ期待が上昇傾向にある場合、金利をより長期にわたって高水準で維持する必要がある。そうでない場合、つまり、家計や企業がさらなる物価上昇を一時的な変動と見なす場合は、金利を引き下げて成長を支援することが可能だ。トランプ政権1期目では、一時的な変動という見方が優勢だった。しかし、状況は異なっていた。関税の引き上げ幅ははるかに小さく、インフレはおおむね目標を下回っていた。

  潜在的な影響を評価するために、筆者は2つの点に注目している。まずはカナダ、メキシコ、中国との報復関税合戦をどこまで続けるのかというトランプ大統領の意思だ。2つ目はミシガン大学やニューヨーク連銀の調査が示す長期的なインフレ期待の指標と、通常の利付国債とインフレ連動債の利回り差などの市場指標だ。

  北米自由貿易協定(NAFTA)やその後継協定である、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA、第1次トランプ政権が交渉)で達成された全ての進歩をトランプ大統領が積極的に危険にさらしているのは、見る者を憂鬱(ゆううつ)にさせる。これは米国の経済や金融市場にとって良い兆候ではない。

(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Trump’s Tariffs Are Even Worse Than I Imagined: Bill Dudley(抜粋)

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