カシオ、新発想ペットロボ「モフリン」完売 G-SHOCK一本足脱却へ

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カシオ計算機が新たに自社開発した小型ペットロボット「モフリン」が話題だ。手のひらに収まるサイズのかわいらしい見た目やしぐさと手ごろな値段も相まって、初回発売分が想定より早く完売する人気ぶりとなっている。カシオは現在、主力商品「G-SHOCK(Gショック)」をはじめとする低価格帯の時計事業がスマートウオッチの台頭により伸び悩み、3期連続の減益となる見通しで、事業構造の立て直しが急務だ。ペットロボットなどメンタルヘルス関連での商品展開を広げ、新機軸確立を狙う。

「自分が悩んでいる時などにそっとそばに寄り添ってくれる、癒やしとなる存在を作れないかと考えた」。モフリンの商品企画を手掛けたAPグループの市川英里奈氏は立案当時をこう振り返る。

カシオはGショックや電子辞書をはじめ、成人男性や学生向けの商品が多い。そこで女性向けの商品をつくれないか、と新たな動きが始まった。市川氏が目を付けたのが、所有者のそばに寄り添いながら癒やしを与えることができるペットロボットだった。

実はカシオは以前から歩いたり会話したりすることが可能な高機能ロボットの開発を進めていた。ただ、動きを精巧にするためにロボットの骨格構造を複雑にするほど1体あたりの生産に多大なコストがかかり、打ち出したい販売価格よりも高額にせざるを得ないという課題があった。

このロボットづくりのノウハウを自らのアイデアにも応用できるのではないかと市川氏は考えた。第一にこだわったのは、思わず愛らしいと思ってしまう見た目の追求だ。

従来の高機能ロボットにあった動く手足などは省いた。コストに直結するモーターの数なども減らし、代わりに手のひらに収まるサイズの小動物のような見た目や動きに変更した。また言葉を発さなくてもかわいらしさや癒やしを表現できると考え、話す機能も搭載しなかった。モチーフは設定せず、人が愛らしいと感じられるサイズと見た目、しぐさにこだわった。ロボット開発を担当した二村渉氏は「ロボットの小型化には、これまでデジタルカメラやモバイル機器などの開発で培ってきた、小さなパッケージの中で様々な部品を高密度に実装する技術が生かされている」と話す。

機能を削るばかりではない。小動物らしい見た目を実現するため、本体を覆う毛皮のような素材は自社開発した。「毛皮をつけると動きが鈍くなったり、触覚センサーが反応しにくくなったりするため、他社もあまり採用していない。毛皮をつけても小動物らしい動きを実現することが実は開発の中で一番難しく、完成までに数年を費やした」と二村氏は話す。

シンプルな構造と必要最小限の機能に絞ったことで、課題だったコストを抑えることにも成功。販売価格は5万9400円と競合であるソニーのアイボ(27万2800円)やシャープのロボホン(14万5200円〜)などを下回る。

話す、歩くといった要素はそぎ落としたが、モフリンは最先端のテクノロジーを備えている。カシオが独自で開発した感情に特化したAI(人工知能)を搭載した。所有者らの触り方や声のかけ方などで、モフリンの感情が変化し、性格も形成される。50日程度をかけて感情表現の幅が広がるなど成長を遂げ、その個性は400万通り以上にもなるという。そして、モフリンの性格、今抱いている感情などは本体と連携したスマートフォンアプリ「モフライフ」の中で確認することができる。

市川氏は「高性能なロボットらしさよりも、徐々に感情表現が豊かになり、成長していく要素を加えることでリアルな生き物らしさに焦点を当てた。価格帯も手ごろにしているため、競合との差異化が図れていると感じる」と話す。

モフリンは2024年11月にまず初回として1000体が発売された。当初は発売から1カ月での完売を目標としていたが、わずか1週間で完売した。今年度中に6000体の売り上げを目標としているが、十分達成できる見込みだという。

カシオでは現在、新規事業の創出が課題となっている。24年3月期には全体の売上高の約6割を時計事業が占め、そのうち約半分はGショックシリーズだった。

時計事業は低〜中価格帯を強みとするが、市場の成熟に加え、近年はスマートウオッチが台頭して販売が伸び悩んでいる。また時計業界全体では高価格帯の需要が高まっていることも逆風となっている。24年10月に不正アクセスを受けて販売の機会損失が生じた影響もあり、25年3月期の営業利益は前期比1.5%減の140億円と、3期連続で減益となる見通しだ。

カシオは現在、事業構造の改革を進めている。2月には電子辞書の新規開発を中止し、生産を大幅に縮小すると発表した。既存事業の採算性向上に加え、今後は成長に向けた新機軸を創出する必要もある。

竹内大介APグループマネジャーは「新型コロナウイルス禍以降、人々に癒やしや心に元気を与えるサービスへの需要が増していると感じている。モフリンのようなペットロボットにとどまらず、メンタルヘルス関連の事業領域への展開を目指したい」と話す。かわいらしい見た目としぐさで癒やしを与えるペットロボットの存在が、カシオの業績低迷を救う起爆剤となるかもしれない。

(日経ビジネス 濵野航)

[日経ビジネス電子版 2025年2月26日の記事を再構成]

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