代打直前に中村晃が漏らした"弱音" 今宮健太は「絶対打つ」…2人だけの特別な関係

 勝負の9月、ベテランの力がやはり頼りになる。「絶対に打つと思いました」。盟友に寄せる信頼は絶大だ。ヒーローインタビューに選ばれた中村晃外野手と今宮健太内野手は、互いの働きを称え合った。

 2日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)でチームは逆転勝利を収めた。相手先発の宮城に苦しめられていたが、リードを奪ったのは同点の8回だ。2死三塁で打席に立った今宮が左前に適時打を放ち、試合を決めた。「内容とかどうでもいいです。残りも少なくなってきているので。結果的にヒットになって、最終的に勝てばそれでいいです」。そう言ってチームリーダーは汗を拭った。

 試合を振り出しに戻したのは、中村のバットだった。1点を追う7回1死三塁から代打で登場。大歓声に包まれながら、宮城との勝負に挑んだ。「お客さんが雰囲気を作って、相手にプレッシャーをかけてくれた。そういうのもあって打てたと思います」。ベテランの存在感が際立った一戦。中村は打席に向かう直前、“弱音”を口にしていた――。2歳年下の背番号6は、こう明かした。

「打席に行く前から宮城投手との相性というか、イメージが良くないと言っていました。代打だったら変わるんじゃないかなと。『打て、打て』と思いながら見ていました。僕とまた違って、代打の一打席でああやって結果を出すっていうのは全然違うので。本当にすごいなと改めて思いましたね」

 試合前時点で中村晃は宮城に対して通算31打数4安打、打率.129だった。4本のヒットは2021年に記録したもので、左腕から快音を響かせたのは実に4年ぶり。「(7回に自分と対戦した時は)110球くらい投げていましたけど、球界を代表する投手から打てたのはよかったと思います」。スライダーに対して2度の空振り。追い込まれていたが、最後はそのスライダーを弾き返した。「なんとかバットに当てられたらと思っていた。いい準備をして打席にいけたと思います」と安堵の表情を見せた。

 今宮は6月に左脇腹を痛めて戦線離脱。8月19日に1軍復帰を果たし、スタメンに名を連ねるようになった。遊撃に入れば、自然と内野陣も引き締まる。中村も「いろんなことを一緒に経験してきた選手。こうやって2人で結果を残していくことで、存在感を示していけるのかなと思います」と頷いた。8回はベンチから盟友の一打を見守ったが「絶対に打つと思いました。勝負強い選手なので」。誰よりも強く“確信”を抱いていた。

 当然、今宮にとっても背中を見てきた先輩だ。「準備をする姿を後輩も知っていると思うし、僕自身もそこを見てやってきた」。緊迫した展開の中、打席へと向かう。チームを背負う重圧を2人で分かち合いながら、常勝時代を築いてきた。「緊張は若い選手たちと同じくらいしていると思います。ただ割り切りというところに関しては、自分たちはできるところがある。その結果がきょうは勝利につながったのかなと」。シーズンもいよいよ大詰め。ベテランの存在感がどこまでも頼もしい。

 お互いがレギュラーを掴み、何度も日本一を経験した。ベテランと言われるまでキャリアを重ねてきた2人。2位・日本ハムとは1ゲーム差のまま。中村が「こういう試合ができるのは素晴らしいこと。ファイターズを意識しても仕方ないと思うので、まずは自分たちの試合をしっかりと勝っていくこと。それだけ考えていれば、いい結果は出る」と足元を見つめれば、今宮も力強く言い切った。

「常に負けられないと思っています。負けてしまったら後退してしまうので、常にそういう意識です。だからこそ、気持ちはバクバクすると思います。1打席1打席の緊張感が本当に前半とは違うし、特に僕は怪我が多かったシーズン。そんな中で1軍に戻ってきたので、より緊張はします。そこは皆さんも応援してくださっているので、なんとか期待に応えられるように思い切っていきたいなと思います」

 盟友と並び立ったお立ち台からは、特別な景色が見えたはず。何度も味わってきた歓喜の瞬間。2025年、このメンバーでリーグ優勝がしたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)

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