アングル:電力危機のミャンマー、必要に迫られソーラー発電拡大
[14日 ロイター] - タイが今年、隣国ミャンマーへの送電を停止したのは、数十万人を人身売買するネットワークと結びついたオンライン詐欺拠点を抑制するためだった。
しかし、この措置は地域社会全体に影響を及ぼし、病院や一部の役所が太陽光パネルを設置する事態となったと、タイ国境の町ミャワディに住む救助隊員のザウさんは語る。家庭も同様に切り替えを進めているという。
「今では4人のうち3人が太陽光パネルに頼っている。企業は複数のパネルを使っている」とザウさんは語った。ザウさんは報復を恐れ、フルネームは明かさなかった。
2021年のクーデターとその後勃発した内戦で、ミャンマーの電力供給は悪化し、数百万人が慢性的な停電に悩まされている。西側諸国の制裁で資金難に陥った政府は電力インフラを維持できずにいる。
世界銀行は、去年の同国の稼働電力容量が2015年水準まで落ち込んだとし、紛争地域の電力供給を「壊滅的」と表現した。
中国企業は、安価な太陽光パネルを供給し、需要の空白を埋めている。
<天然ガス不足で発電低迷>
国連が分析した光度データ(経済活動や電力アクセスの代替指標)によると、クーデター後の年間平均減少率は8%に達した。世界銀行の24年6月の報告書によれば、主因は天然ガス不足だ。国内生産が減少し、外貨不足で液化天然ガス(LNG)輸入を停止したためだ。
米国のバイデン前政権はミャンマーの資産約10億ドル(約1550億円)を凍結し制裁を発動したが、その一部はトランプ政権により緩和された。制裁は、送電線など内戦で損傷したインフラの維持に必要な技術支援や部品、専門知識へのアクセスを制限している。
ミャンマーの軍事政権は今年、発電容量が21年以前の水準からほぼ半減したと発表した。電力・エネルギー省のウェブサイトのデータでは、発電量は18年以降ほとんど変化していない。情報省は電力需給に関する詳細な質問に回答せず、軍政報道官もロイターの電話取材に応じなかった。
<中国製の安価な太陽光パネル>
電力危機に対処するため、家庭や企業は太陽光発電を導入している。ロイターが東南アジア各地の住民や事業者、パネル・バッテリー販売業者12人に取材したところ、こうした動きが確認された。
フィッチ・ソリューションズ傘下BMIの再生可能エネルギーアナリスト、リンダ・ゼン氏は「アジアの多くでは企業需要が太陽光発電の成長をけん引しているが、ミャンマーではエネルギー安全保障と燃料不足が主因だ」と語った。
中国の税関データによると、ミャンマーにとって最大の供給国である中国からの太陽光パネル輸入額は、9月までの9カ月間で約1億ドルと前年同期比で倍増した。パンデミック前からは8倍以上に増えている。
ミャンマーで活動する国際開発機関の担当者は、照明や冷蔵、電子決済に必要な安定電力を求める店舗やレストラン、工房、水の販売所、診療所、学校などで小型太陽光システムの利用が広がっているという。
「冷蔵庫が10台ある。電力は不安定なので太陽光パネルを使わざるを得なかった」と、古都モーラミャインのアイスクリーム販売業者は語った。報復を恐れ、名前を明かすことは拒んだ。
家庭用太陽光設備は19年の数百件から25年には約30万件に急増した。ミャンマーでパネルと発電機を販売するパラミ・エナジーのケン・ピ・ワ・トゥン会長は、利用者はディーゼル発電機から蓄電機能付き太陽光パネルに切り替えていると述べた。
「家庭用の蓄電池+インバーター付きソーラーは1000ドル未満で入手でき、必需品を4ー5時間稼働させ、エアコン2台を動かせる」と同氏は説明した。大半の家庭には高額だが、約7000ドルの小型ディーゼル発電機と週50-100ドルの燃料費に比べれば安いという。同氏は、太陽光は将来的に200万から250万世帯を賄える可能性があると予測した。
<気候目標ではなく「ただ必要だから」>
ミャンマーのソーラー関連設備の輸入の急増は、パキスタンやイラク、スリランカ、アフガニスタンなど、電力供給が不安定な低所得国・中低所得国で広がる太陽光導入の流れと一致する。エネルギー系シンクタンク「エンバー」のデータによると、こうした国々は中国製パネル輸出の成長市場となっている。
「送電網が信頼できず、価格も高いなら、人々は自力で何とかする。そして今は太陽光のおかげでそれが可能になった」と、エンバーの政策・戦略ディレクター、リチャード・ブラック氏は語る。
政策ではなく必要性に駆られたソーラー設備の導入は、従来の電力事業モデルを揺さぶり、化石燃料需要予測を覆し、送電網管理を複雑化させる可能性があると専門家は指摘する。
パキスタンでは富裕層が高額な送電網電力をやめて太陽光に切り替えた結果、電力会社が残る利用者向けの料金を一段と引き上げざるを得なくなった。
今年1ー10月のミャンマーのディーゼル輸入は11%減少した一方、太陽光パネル購入は増加したと、分析会社ケプラーのデータは示している。
バゴ地域のある住民は、「環境のためでもクリーンエネルギーのためでもない。内戦下の国だ。ただ必要だから使っているだけだ」と語った。
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Sudarshan currently reports on the evolving energy landscape in Asia, as the region tries to strike a balance between ensuring reliable electricity supply and fighting climate change. In his previous avatar, he reported on sanctions-era global trade, human rights violations, labor movements, environmental offences and natural disasters in India for six years. During his nine years as a Reuters correspondent, he has attempted to lend a global perspective to small-town issues.