シェア4割なのにほぼ無名…1日70万本、「春巻きしか作らない」食品メーカーにコンビニもスーパーも頼る理由
コンビニやスーパーで販売される春巻きを、年間2億本超つくる会社がある。神奈川県藤沢市のスワロー食品は、大手コンビニのほか、オーケー、サミット、ヤオコーなどに商品を供給する春巻き専業メーカーだ。2014年、篠崎由博さんが2代目社長に就任した当時は、6億円の借入金を抱え、債務超過に陥っていた。ところが、この12年で業務用冷凍春巻き市場でのシェアは15%から40%へ拡大。売り上げは約3倍になり、黒字化も実現した。大手食品メーカーが相次いで撤退する市場で、なぜこの会社は成長できたのか。ライターの弓橋紗耶さんが、篠崎社長に取材した――。
筆者撮影
2代目社長の篠崎由博さん
茶色・黄色・オレンジ・緑・黒・ピンク・赤――。テーブルの上に載せられた見たことのない春巻きを前に、心が躍った。それぞれ違う具材が入っているようだが、オーソドックスな茶色以外は中身の見当がつかない。
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スワロー食品の春巻きは、揚げてもきれいな発色を保つのが特長の一つ
「黒いものは、ブラックフライデーのときに大手コンビニで発売された、すき焼き風春巻き。黄色のものは別のコンビニで販売された、ベーコンポテト春巻きです」
促されるまま手づかみでいただくと、「パリパリッ」と心地良い音が響く。調理してから2時間半が経っていたが、まるで揚げたての食感だった。
この日筆者が訪れたのは、神奈川県藤沢市に本社を置く春巻き専業メーカー、スワロー食品だ。ほとんどの消費者はこの名前を知らないだろう。けれど、業務用の冷凍春巻き市場では、大手NB(ナショナルブランド)メーカーと肩を並べるほどの急成長を遂げている。同社が1日に製造する春巻きは、最大約70万本。年間換算だと2億本を超える。
最盛期は業界全体で30〜40社がひしめき合っていたが、1990年代後半以降は、総合食品メーカーが次々と撤退。今残っているのは5〜6社程度だ。そのなかでも同社が頭角を現し始めているのは、大手コンビニ3社のほか、オーケー・ヤオコー・サミットなどの有力スーパーを顧客に抱えているからだ。大手コンビニのうちの1社にいたっては、15年にわたり取引が続いている。
ただ、委託を受けて他社ブランド品を製造するOEMメーカーのため、一般の消費者が社名を目にする機会はない、というわけである。
なぜコンビニ、スーパーが手放せないのか
さて、スワロー食品が名だたる企業とタッグを組めているのは、高品質の製品として定評があるからだ。
例を挙げると、大手スーパーの惣菜コーナーでは、定番人気とされる餃子やシュウマイを抑え、春巻きが売り上げナンバーワンに。「安さ」を売りとしている別のスーパーでは、単価の安い別メーカーから同社の春巻きに切り替えた。すると、評判が広がってリピーターが増加。今では、切り替え前に比べて売り上げが10倍に伸びているという。
誰もが一度は口にしたことがある、「あの味」を作っている黒子企業――それが、このスワロー食品なのである。
しかし、同社は社員数が100人未満の中小企業で、外から見る限り、工場に最新鋭の設備が入っているようには思えない。なぜ、そうそうたる有名企業に支持されているのだろうか。
鍵を握っていたのは創業者……ではなく、畑違いの2代目社長だった。
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「なぜ税務顧問に?」と疑問を持つ読者は多いだろう。だが、創業者は2年ほど篠崎さんの仕事ぶりを間近で見ており、絶対の信頼を置いていた。
はじめは真に受けなかったが、財務状況を熟知した上で「まだ復活できる可能性があるかもしれない」とピンときた。というのも、その頃から大手コンビニと継続的に取引しており、有力スーパーからも引き合いが来ていたからだ。大手企業を顧客に抱えながらも、なぜか数字に現れていない実情を見て、仮説を立てた。
写真提供=スワロー食品
パリッとした外皮と柔らかな内皮、二層の食感が楽しめる
「商品自体はいいものを持っている。ということは……問題は経営面にあるのかもしれない」
2014年12月、「あんな会社買ってどうするの……⁉」と周囲の反対と驚愕の声を耳にしながら、篠崎さんは借金6億円の企業を買収した。
大手が春巻き事業から撤退したワケ
2代目社長に就任すると、「春巻き製造がいかに繊細で、歩留まり(投入した原料に対する完成品の割合)が悪いか」を思い知らされることになった。
薄い皮で具材を巻く工程は、機械化されていても不良品が出やすい。そもそも、春巻きは大量製造に適していないことがわかった。そこで、「競合各社も春巻き部門単体では収益化できていないはずだ」と踏んだ。
写真提供=スワロー食品
春巻きの皮は、巨大なドラムが1周する間にムラなく焼かれていく
それでも、総合食品メーカーはラインアップのために、製造を続けておく必要がある。「たとえ部門単体では採算が取れなくても、会社全体で帳尻を合わせればいい」と考えてきたのだろう。だが、1990年代後半以降、盛んに叫ばれた「選択と集中」の経営改革のもと、競合他社は次々と春巻き事業から撤退。これがスワロー食品にとっては追い風となった。
「大手メーカーが自社製造をやめたんですけど、やっぱりカタログのラインアップとしては持っておきたいわけです。そこでOEMの声がかかったのが、独立系専業メーカーのうちでした。ほかのNBメーカーはライバルになるので、絶対に頼めませんからね」
品質の高さから新規顧客の獲得が進んでいたところに、撤退した大手の仕事がそのまま同社に流れていった。すると、当初15%ほどだった業務用冷凍春巻きの市場シェアが、40%へと一気に拡大していくことになる。
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スワロー食品が設立されたのは、1974年(昭和49年)のこと。創業者は日本に初めて春巻きを流通させた、台湾系企業の営業マンだった。しかし、突然会社が倒産したことで「自分がメーカーになろう」と、国内初の冷凍春巻き製造工場を立ち上げる。
はじめはすべて手作りしていたが、成型機をメーカーと共同開発し、機械化に成功。その後、ファミリーレストランの草分けである「すかいらーく」(現在は「ガスト」「バーミヤン」を運営する、すかいらーくホールディングスへと社名変更)で採用されたのを機に、一気に知名度を広げていった。
写真提供=スワロー食品
春巻きへの情熱から私財を投げ打ち、国内初の冷凍春巻き製造工場を立ち上げた、スワロー食品創業者 吉原 修氏(写真中央)
すると、大手食品メーカーが次々と春巻き市場に参入。同社は先行者利益を得ていたものの、創業者に「あるスキル」が欠けていたせいで、3度も倒産危機に見舞われることになった。
1度目の危機は、売り上げ全体の6〜7割を占めていた大手メーカーが、同社の技術を学び取り、自社工場を建設して製造を移管してしまったことだった。売り上げの大半が消えて困っていたところを、別の大手メーカーに助けられ補填できたが、数年後にその企業も製造を自社工場へと移した。これが2度目の危機である。
「先代は技術に対するこだわりが人一倍強く、職人気質な方でした。ただ、その思いの強さから、事業の継続という観点では、課題を抱えていたのも事実です。かつて、1つの皮の開発に1億円もの開発費を計上していたこともありましたからね……」
そう言って苦笑するのは、2代目社長の篠崎由博さんだ。
彼は創業者の血縁でもなければ、もともとスワロー食品の社員だったわけでもない。完全なる他所者だ。何のつながりもなかった二人が出会ったのは、奇しくも2012年に訪れた3度目の危機がきっかけだった。
創業者「君に買ってほしい」
当時、同社は生産量の増加を見込み、3つの工場を保有していた。だが、各工場の稼働率は40%と低く、明らかに過剰な設備投資だったと言えよう。その結果、13億円の売り上げに対して6億円もの借入があり、年間の利益がほぼ利息の支払いでなくなってしまう、という倒産寸前の状態に陥っていたのである。
この限界ギリギリの状況を救ったのが、元銀行員で税務コンサル事業を手がけていた篠崎さんだった。
銀行員時代の知見を生かし、なんとかリスケジュール(返済条件を見直して返済額や返済期間を調整すること)で危機を脱することができたものの、今度は後継がいないことを理由に事業を売却することに。このとき、税務顧問を任されるようになっていた彼に、創業者はこう声をかけた。
「君に(この会社を)買ってほしい」
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ただ、「歩留まりの悪さ」をそのまま放置するわけにはいかない。はじめて工場に入ったとき、篠崎さんはきれいに成型された春巻きが、製造ラインの途中で「ポロッ」と落ちる光景を見て衝撃を受けた。
「1時間見ていたら、1台あたり5〜6本落ちるわけですよ。なかには、ものすごくトリッキーな動きで弾かれるものもあって。でも、スタッフは50年間その機械を使っているから、それが当たり前だと思っているようでした」
毎日毎日じっと製造ラインを見つめ、ロスが出るポイントを発見しては、自ら改修した。一般的に、食品メーカーは納品された成型機をそのまま使うことが多い。しかし、スワロー食品では機械が届いた瞬間に手を加え、オリジナルの成型機に仕上げてしまう。その結果、歩留まりが劇的に向上し、利益率が改善された。
写真提供=スワロー食品
自社の経験を生かし、グループ会社の「ロボットアレンジャーズジャパン」では、他メーカーの製造ラインの改造を引き受けている
6時間パリパリを支える独自製法
さて、春巻き製造から撤退したメーカーが同社を選んだ理由は、「独立系だから」の一点だけではない。食品のプロたちの信頼を勝ち得たのは、一切妥協しない製品作りへの姿勢と、品質の高さが決め手だった。
例えば、春巻きの中に入れる具は、一般的に材料を加熱しながら混ぜる工場が多い。およそ90分間の調理が必要となるため、「煮る」という表現が適切だろう。しかし、同社では独自の直火釜製法で、中華鍋さながらに高火力で「炒めて」いる。調理時間は20分。使う野菜は冷凍品ではなく、新鮮な生野菜だ。さらに、作り方は家庭や中華料理店と同じ手順を踏んでいる。
代表的な五目春巻きの場合、まず肉を炒めたあとに火が通りにくい野菜を入れる。調味料で味付けしたら、食感を残すためにわざとこのタイミングで小松菜を投入。最後に醤油を鍋肌で焦がしながら入れたら、出来上がりだ。この作り方は、一気に材料を投入して「煮る」よりも何倍も手間がかかるが、この差が食感と味に直結している。
筆者撮影
ホットケース用の春巻きの皮には無数の小さな穴が空いており、そこから蒸気を逃すことで、パリパリ食感を維持している