愛車の履歴書──Vol81 沢尻エリカさん(前編)

俳優の沢尻エリカさんにクルマを好きになったきっかけを尋ねると、「おそらく父の影響だと思います」という答が返ってきた。

「父はスポーツカーにばかり乗っていて、メルセデス・ベンツのオープンカーやジャガーなど、物心ついた頃からそういうのを見てきたので、自分も大人になったら乗りたいと思ったんでしょうね。“クルマって格好いいな”という気持ちはありました」

小学生の頃からモデルとして活動してきた沢尻さんが運転免許を取得したのは21歳のとき。

「実技の試験で緊張しすぎて一度不合格になった以外は、順調でした」。そして免許を取得すると、もちろん自分のクルマが欲しくなる。沢尻さんが選んだのは、BMWの初代「Z4クーペ」だった。この選択は、やはり父上の影響を受けているように思える。

沢尻さんが自らの愛車に関するエピソードをメディアで話すのは、今回が初という。

Hiromitsu Yasui

撮影用のBMW Z4ロードスターが現場に到着すると、沢尻さんは「私のZ4はクーペだったんですが、オープンはかわいいし憧れもあったんです」と目を細めた。

そしてインストゥルメントパネルを覗き込んで、「そうそう、こんな感じでしたね、懐かしい!」と明るく笑った。その弾けるような笑顔から、初めての愛車だったZ4をとても気に入っていたことが伝わってくる。

初代Z4は2003年、日本でも発売がスタート。2006年に Z4 ロードスターがマイナーチェンジを受けたタイミングで、新たにZ4クーペ、Z4 Mロードスター、Z4 Mクーペのニューモデル3車種が追加された。

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日本仕様のBMW Z4にはいくつかのエンジンバリエーションが存在したけれど、沢尻さんが乗っていたZ4クーペは、排気量3.0リッターの直列6気筒エンジンのみの設定だった。

「若葉マークだったので、オープンは敷居が高いと思ったんですね。あと、マニュアルで免許を取ったのでマニュアル車も考えましたが、さすがにオートマだろうと。ただ、なぜか左ハンドルにこだわりがあって左を選んだんです。でも、日本では左ハンドルがいかに使いにくいかということを学びました(笑)」

Z4クーペはZ4ロードスターに単に屋根をつけただけのモデルではなく、正統派クーペの流れを汲む優美なデザインを実現するため、車体の後半部は大きな設計変更を受けたのが特徴だった。

撮影車両は、Z4 2.5i/3.0iに追加ラインナップされたZ4 2.2i。エンジンは「320i」に搭載され好評を得ていた2.2リッター直列6気筒DOHCエンジンを採用した。当時の新車価格は¥3,980,000(希望小売価格、税別・登録諸費用等別)。

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Z4 2.2iが搭載する直列6気筒2.2リッター DOHC 4バルブ・エンジンは、最高出力170ps/6,100rpm、最大トルク210Nm/3,500rpmを発揮する。

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搭載されるトランスミッションは、電子式油圧制御5速オートマチックで、ステップトロニックを装備した。

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沢尻さんが21歳の頃といえば、が映画『パッチギ』で多くの映画賞を受賞したり、主演したドラマ『1リットルの涙』が大ヒットしたりした直後だ。さぞかし忙しかったのではないだろうか。

「Z4に乗るようになってからは、どこでも自分の運転で行きたいという気持ちが強くなりました。プライベートはもちろん、仕事の現場にも、自分でZ4を運転して行くことが増えたんです。よく覚えているのは、仕事の終わりに首都高速をぐるぐるしたことですね。夜遅い時間帯の首都高はクルマも少なくて、あてもなく流しているといろいろなことが忘れられるというか、あの感じが好きでした」

初代Z4は、従来モデルのZ3から大きくプレミアム・セグメントへと移行する新世代のロードスターとしてデビューした。ロング・ホイールベース、ワイド・トレッド、低重心、約50:50の理想的な前後軸重量配分の高剛性ボディと直列6気筒DOHCエンジン、最新の電子制御電動パワーステアリング(EPS)が生み出すZ4のドライビングは、まさにダイレクトでパワフルだった。

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俳優の方に話を聞くと、車内で発声やセリフの練習をするケースが多いけれど、沢尻さんは「そういうのとは違いましたね」と、きっぱり。

「ただリラックスしたり、リフレッシュしたりするためにぐるぐるしたという記憶が残っています。Z4はすごく気に入っていたんですが、海外に拠点を移すときに日本に置いていくことになったんです」

Z4 2.2iでは、ランフラット・タイヤを標準で装備し、タイヤ・サイズを205/55 R16(Z4 2.5iは、225/50R16)に設定、ホィールは2.5iと同様7Jx16を装着した。

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Z4 2.2iの日本仕様は右ハンドルのみの設定だった。クラシックなBMWロードスターを思い起こさせるT字型レイアウトのセンター・コンソールとインストルメント・パネルを採用。

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円筒状に突出したカバーを持つスピードメーターとタコメーターを装備。スピードメーターにはオンボード・コンピューターの液晶ディスプレイを内蔵、燃料計と水温計はタコメーターに組み込んだ。

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Z4 2.2iのインテリアは、Z4 2.5iと同じクロス/合成レザーのコンビネーション内装の「フリー・スピリット」が標準装備だった。さらに、オプションとしてクロス/レザー・コンビネーション内装「アクティブ・スポーツ」と「オレゴン・レザー」を設定した。

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3本スポークのステアリング・ホィールは、Z4のために新たに開発されたコンパクトなもの(直径358mm)で、これはBMWモデルのなかで最も小径なステアリング・ホィールだった(当時)。

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海外から戻り、日本に帰国した沢尻さんは、BMW Z4の後継を探すことになる。

「アウディも格好いいと思って試乗もさせてもらったんですが、んー、やっぱりビーエムのほうが好きかなと感じて、6シリーズを選びました」

初代Z4は、顧客による直接オーダーを前提として発表された。初代Z4を注文する場合、最長で約6カ月という時間がかかるものの、ボディカラーや内装をはじめ多くのオプションを顧客自身の自由な選択により個別に組み合わせて注文可能だった。

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こうして沢尻さんは、F12の開発コードで呼ばれる3代目の6シリーズ、BMW 「650i」と生活するようになる。

ただし、6シリーズを所有した期間は、それほど長くはなかったという。その理由が、BMWがすごく気に入ったからだというのがおもしろい。

6シリーズクーペは、流れるようなボディラインとスポーティなプロポーションが生み出す美しいエクステリアデザイン、そして、エクスクルーシブなインテリア空間を併せ持ったのが特徴だった。

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インテリアは、センターコンソールとダッシュボードが一体化されたデザインを採用。左右非対称なセンターコンソールのフォルムを形成し、視覚的にもドライバー指向なデザインを強調するとともに、運転席と助手席の調和のとれたデザインを実現。ドライバーが最も見やすいダッシュボード最上部に配置された10.2インチ高解像度ワイドコントロールディスプレイにはクロームの枠が施された独立型フラットスクリーンを採用した。

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「どんどん走ることが好きになって、自分だけの空間でもっと運転を楽しみたいという気持ちが強くなったんです。行動範囲も広がって、かなり長距離ドライブもするようになったんですけど、だったらM6のほうがいいかなと思いました。もうひとつ、M6は純正のオプションでマット塗装が選べるようになったのも大きかったですね」

こうして沢尻さんは、最高出力560psを発生する4.4リッター V型8気筒エンジンを搭載する、BMW M6クーペに乗るようになった。ちなみに、2017年から2023年まで生産された4代目の6シリーズにはM6が設定されなかったから、現時点では最後のM6ということになる。

ハイ・パフォーマンス車両を手掛けるBMW M社が開発したBMW M6クーペは、エクステリアおよびインテリアに数々のM専用デザインを採用し、一目で通常モデルとは違う、エクスクルーシブかつ機能美を追求したスタイリングに仕上げられた。

copyright BMW AG. for press purposes only

M6クーペに装備されるカーボンファイバー製ルーフは、軽量化と同時に車両の重心を下げ、運動性能をさらに高めることに貢献する。

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Mツインパワー・ターボ・エンジンは、最高出力412kW(560ps)を6,000rpmにて発揮し、7,000rpmまでほとんど衰えることなく吹け上がるMモデルならではの高回転型出力特性を実現。680Nm(69.3kgm)の最大トルクは、1,500~5,750rpmという広い回転域で一定して発生。アクセルを踏み込んだ直後から高回転にいたるまで、圧倒的なパワーと力強いレスポンスを提供する。

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「M6 は最⾼に気に⼊っていました。ずっと乗ろうと思って、本当に⼤切にしていたんです が……、思いがけない事故に巻き込まれて、フロント部分が大破してしまい、買い替えざる得なくなりました。あのときの無残な“マイベイビー”の姿は、今でも目に焼き付いています」

ロードスターが搭載したソフトトップ(折りたたみ式ルーフ)は、新しい折りたたみ機構により、極めて簡単に、誰にでもオープン・エア・ドライビングが楽しめるようになったのが特徴だった。デビュー当初はZ4 2.5iには手動式ソフトトップが、Z4 3.0iにはフル・オートマチック電動式ソフトトップを装備。

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最愛のBMW M6と悲しい別れとなった沢尻さんが次に出会ったのが、現在の愛車だ。

後編となる次回は、現在の愛車について語ってもらうのと同時に、いま興味があるクルマを試乗いただく。

ボディスーツ¥19,000、ナイロンパンツ¥22,000(すべてTW/03-4334-6121)、アクセサリー(スタイリスト私物)

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沢尻エリカ(さわじりえりか)

俳優。1986年4月8日生まれ。東京都出身。05年、ドラマ『1リットルの涙』で主演を務め、同年公開の映画『パッチギ!』で、『第29回⽇本アカデミー賞』新⼈俳優賞を受賞。映画『へルタースケルター』(12 年)では日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞し、『ファースト・クラス』(14 年)など話題作に出演。映画『#拡散』が2026年2月に公開される。また昨年に上演されたテネシー・ウィリアムズの名作『欲望という名の電車』では初舞台で主人公のブランチを演じ、来年は『ピグマリオン-PYGMALION-』の公演が控えている。

【舞台情報】『ピグマリオン-PYGMALION-』  【期間】2026年1月20日(火)~2月8日(日)【場所】東京/東京建物 Brillia HALL 他、地方公演(愛知・北九州・大阪)【原作】ジョージ・バーナード・ショー【演出】ニコラス・バーター

【出演】沢尻エリカ/六角精児/橋本良亮/清水葉月/玉置孝匡/市川しんぺー/池谷のぶえ/小島聖/春風ひとみ/平田満 他

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By サトータケシ

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文・サトータケシ 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・冨沢ノボル スタイリング・亘つぐみ 編集・稲垣邦康(GQ)

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