この症状がある人はがんによる死亡リスクが52%低下…医師「がん発症リスクとアレルギー性疾患の意外な関係」(プレジデントオンライン)

7/11 16:17 配信

免疫を高める行動は何か。医師の佐藤典宏さんは「免疫の最前線ではたらくNK細胞による免疫監視機構が弱くなると、がんが発生、成長するリスクが高まると考えられる。この活性を高めるために5つの習慣を紹介しよう」という――。 ※本稿は、佐藤典宏『専門医がやっている「がん」にならない50の習慣』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。■花粉症とがんリスクの意外な相関関係 花粉症の人は多いと思いますし、年々増えているという報告もあります。 春から初夏の花粉の時期に、鼻水、鼻づまり、目のかゆみといったつらい症状が続き、生活の質を低下させるやっかいなアレルギー性疾患です。 ただ、この花粉症が、意外にも、がんのリスクと関係があるという報告があります。 はたして、花粉症があると、がんのリスクが高くなるのでしょうか? あるいは、低くなるのでしょうか? 2016年にClinical & Experimental Allergyという雑誌に報告された論文によると、日本人を対象とした観察研究で、群馬県の中高年の住民およそ1万人について、過去12カ月以内に花粉症になったかどうかを調査した結果、全体の12%が花粉症になったということです。 そのうえで、花粉症の有無と、その後のがんによる死亡率との関係を解析した結果、花粉症がある人では、なんとがんによる死亡リスクが、52%も低下していました。 これは、花粉症があるとがんで死ぬリスクが半減するというおどろくべきデータです。この研究報告は、以前、東京大学の中川恵一先生も、新聞記事で紹介されています。 もう一つ、花粉症と膵臓がんとの関係についての研究を紹介します。 2020年に、Frontiers in Public Healthという雑誌に報告された論文によると、これまでに報告された花粉症と膵臓がんとの関係についての研究論文をまとめて総合的に解析した研究です。

 8つの研究をまとめて解析した結果、花粉症の既往がある人の膵臓がんの発症リスクは、43%も低くなっていました。

■消化器系のがんのリスクが低下する要因に 以上のように、いくつかの研究から、花粉症をもっている人は、がん(とくに、膵臓がん)にかかりにくく、そして、がんによる死亡リスクが低いという結果が示されました。 その理由についてはまだよく分かっていませんが、花粉に対するアレルギーがある人では、おそらく免疫のシステムや機能が他の人よりも活性化することで、がん細胞に対する免疫監視機能も高まって、そのリスクが減るのではないかと考えられます。 花粉症も含め、様々なアレルギー性疾患とがんとの関係を調査した研究では、アレルギー性疾患があることは、胃がん、大腸がん、肝臓がんなど、おもに消化器系のがんのリスクが低下する要因であるという結果がみられます。 ただ、アレルギー性疾患とがんとの関係は複雑で、単純にアレルギーを持っている人はがんのリスクが減るというわけではないようです。 たとえば、アトピー性皮膚炎がある人では、リンパ腫、皮膚がん、腎臓がんなど、がんになるリスクが増えるという研究もあります。 ただ、花粉症に関しては、がんのリスクを低下させるという結果で一致しているようです。 花粉症というとマイナスのイメージしかない人も多いと思いますが、一方でこうした研究結果が出ていることは知っておいて損はないでしょう。■免疫力が低下している人のがんのリスク 「風邪をひきやすい」という定義が曖昧なので、風邪にひきやすい人ががんになりやすいかの研究はありませんが、ただ一般的に免疫力が低下している人では、あらゆる病気感染だけでなく、がんのリスクが増えます。 これまでに報告された、免疫とがんとの密接な関係を示した代表的な研究結果をいくつか紹介すると、下記のようになります。----------1.血液中のリンパ球のがん細胞を殺傷する能力(免疫活性)が高い人は、低い人に比べてがんを発症するリスクが低い。2.切除したがんの組織中に、NK細胞やT細胞といった、免疫細胞が多く集まっている患者の生存期間は長く、逆に少ない患者は生存期間が短い。3.血液中の免疫細胞の割合を調査すると、免疫力が高いパターンのがん患者は、低いパターンの患者に比べ、抗がん剤治療による生存期間が明らかに長い。4.臓器移植を受けた患者は、免疫抑制剤というT細胞のはたらきを抑える薬を飲み続ける必要があるが、この患者にはがんの発生率が高い。5.エイズなど免疫不全をともなう病気の患者には、がん(肉腫(にくしゅ)など)が高率に発生する。6.免疫チェックポイント阻害薬という、本来の免疫力(がんに対する免疫細胞の攻撃力)を回復する薬によって、進行したがんが縮小あるいは消失することが確認されている。

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■免疫の最前線で働くNK細胞を低下させる習慣5 以上の結果から、がんの発生や進行に、免疫力の低下が関与していることは間違いありません。そのため、「風邪をひきやすい」=「免疫力が低下している」と考えると、風邪をひきやすい人はがんになりやすいといえるでしょう。 がん細胞やウイルスに感染した細胞を異物として認識して排除する、免疫の最前線ではたらく重要な細胞がNK細胞です。このNK細胞による免疫監視機構が弱くなると、がんが発生、成長するリスクが高まると考えられます。 2021年にBiomedicinesに報告された研究では、過去に報告されたNK細胞の活性化に与える様々な因子(加齢や生活習慣)についての研究を集めて、総合的に解析を行いました。以下が、NK細胞の活性を低下させる習慣です。 1.喫煙 いくつかの、人での研究では、喫煙者は、NK細胞の活性が低下していることが分かっています。また、喫煙量(たばこの本数)とNK細胞活性との間に負の関係があることも報告されていますので、ヘビースモーカーでは、さらにNK細胞の活性が低下して、がんが進行する可能性があります。 2.飲酒 お酒とNK細胞との関係については、じつは異なる研究結果があります。アルコールの摂取によって、NK細胞の活性が下がったという研究結果と、変わらなかったという結果があります。ただ、長期に大量の飲酒をする人、とくにアルコール性の肝障害がある場合には、NK細胞の活性が低下するといわれています。 3.ストレス ストレスが、NK細胞の機能に影響することが分かっています。たとえば、がんに対する不安が、NK細胞の活性を低下させると報告されています。また、仕事のストレスによっても、NK細胞の数が減少し、活性が低下することが分かっています。ですので、NK細胞の活性を保つためには、できるだけストレスのない生活を送ることが重要です。 4.肥満 肥満は、免疫のはたらきを弱め、がんの発症や進行につながる可能性が指摘されています。 実際に、肥満の人ではNK細胞の数が減って、また、がん細胞を殺す能力が低下しているという研究結果もあります。免疫力を維持するためには、肥満を防ぎ、適正体重を保つことが大切です。 5.加齢 年齢とともに、NK細胞の活性は低下していきます。これが、高齢者にがんが増えてくる原因の一つと考えられています。■森林に行ったり音楽を聴いたりし免疫を高める 次に、NK細胞の活性を高める習慣です。 1.適切な睡眠 実験によれば、夜間に睡眠をとらないと、NK細胞の数と活性がどちらも下がるということです。これは、一つには、不眠によって、グルココルチコイドやカテコラミンなどのストレスホルモンが増えるためと考えられています。ですので、NK細胞の活性を維持するためには、適切な睡眠時間を確保することが大切です。 2.適度な運動 運動によって免疫機能が高まることが、多くの研究によって証明されています。実際に、定期的に運動する人やアスリートでは、NK細胞の数と活性が高いということが報告されています。また、運動すると、その直後からNK細胞が血液中に増えてきて、その後減っていくことが分かっていますが、動物実験では、がんがあるとそこにNK細胞が動員されて集まっていくことが分かっています。したがって、とくにがん患者は、NK細胞を活性化してがんへの攻撃力を高めるためには、定期的に運動することが必要です。 3.森林浴 日本医科大学の李卿先生の研究が有名ですが、健康な人に森林浴をしてもらったところ、NK細胞の細胞数が有意に増加し、活性が有意に上昇していました。森林浴によるこのようなNK細胞活性化のメカニズムについては、森林からのフィトンチッドおよび森林浴によるリラックス効果が関係している可能性があると考えられています。晴れた日は、ぜひ森林に足を運びたいですね。 4.音楽を聴く 音楽は、ストレスホルモンを減らすことにより、免疫によい影響を与えます。実際に、音楽療法によって、NK細胞の活性が高まったという報告があります。 これらのNK細胞の活性を高める生活習慣によって免疫力を高め、がんや感染症を予防しましょう。----------佐藤 典宏(さとう・のりひろ)がん専門医、医学博士、帝京大学福岡医療技術学部教授福岡県生まれ。九州大学医学部卒。2001年から米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部に留学し、多くの研究論文を発表。1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。がんに関する情報を提供するため、YouTube「がん情報チャンネル・外科医 佐藤のりひろ」を開設、登録者12万人(2023年10月時点)。2023年4月、がん患者さんの悩みや質問に個別に答える「がん相談サロン」をスタート。著書に『がんにも勝てる長生きスープ』(主婦と生活社)、『手術件数1000超 専門医が教える がんが治る人 治らない人』(あさ出版)、『専門医が教える最強のがん克服大全 エビデンスに基づく新しい対処法64』(KADOKAWA)などがある。

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プレジデントオンライン

最終更新:7/11(金) 17:12

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