猛暑で蚊が激増する!?殺虫剤を使わないことで話題の「蚊とり潜銅」って何?|@DIME アットダイム

今年の夏は、猛暑で蚊が大発生する⁉

夏になると悩まされるのが、どこからともなく侵入してくる、うっとおしい「蚊」。蚊は7月から9月の真夏の時期に最も多く発生するが、今年は暑くなるのが早かったので蚊の成長が早く、例年よりも増えやすくなっている、という報告もある。

蚊に刺されてかゆみを生じたり赤く腫れたりするのは、蚊が血を吸う際に、血が凝固するのを防止する成分を含んだ唾液を注入するため。つまりこの蚊の唾液によるアレルギー反応だが、もっと恐ろしいのは、蚊が感染症を媒介する危険があるということだ。

厚生労働省の発表では蚊媒介感染症として日本国内で感染リスクがあるのは「日本脳炎」のみとされているが、2014年にデング熱の国内感染例が報告され大騒ぎになった例もある。ある専門家は、黄熱、デング熱、ジカ熱を媒介するネッタイシマカが近年、連続して国際空港で確認されており、「温暖化の進展により定着の可能性がある」と指摘している。

こうした蚊の被害を防ぐため、殺虫剤や蚊取り線香、虫よけスプレーなど、さまざまな対策グッズがあるが、「殺虫成分が子どもやペットに悪影響を与えないか不安」「においや煙が気になる」という声も増えている。

最近よく見る、1回から数回の噴霧で効果を発揮する「ワンプッシュ」スタイルの殺虫剤は、哺乳類にとって安全性が高いとされているピレスロイド系殺虫剤が広く使われている。しかしこの成分も、大量に吸入したり皮膚に付着したりすると、 嘔吐、悪心、呼吸困難、咳、目の充血や痛みなどの症状が起こる可能性があるという。

また古くから使われている蚊取り線香も、煙に含まれる成分が健康に悪影響を及ぼす可能性があるという。厚生労働省が線香、お香、蚊取り線香10製品を用いた実験「線香、お香及び蚊取り線香の 煙中ベンゼン濃度」によると、試料を6畳間で1時間燃焼させたときの推定室内ベンゼン濃度はいずれも大気環境基準を超えていた。そのため「使用をなるべく短時間に抑えることや、燃焼後の十分な換気が必要と考えられる」としている。

筆者宅も猫や亀、熱帯魚などのペットが複数いるので、プッシュ式の殺虫剤や蚊取り線香は用心して使わず、「できるだけ窓を開けない」という消極的な対策しかとっていない。そんな時にネットで見かけて興味を持ったのが、「蚊を殺す」のではなく「蚊を発生させない」アプローチの防虫商品、「蚊とり潜銅(せんどう)」だ。

「蚊とり潜銅(せんどう)」(税込み1,700円)。太さ6.4mm、直径20cm渦巻状の銅管で、雨水桝に沈めるだけで銅イオンが水分中に供給され、蚊の幼虫、ボウフラの羽化を抑制する。実用新案・意匠・商標すべて登録済※画像提供:MCハンターズ

蚊とり潜銅は、兵庫県神戸市の「MCハンターズ」が開発し販売している商品で、蚊取り線香のようなうずまき型の銅管。

同製品を開発したMCハンターズ代表 藤田達史氏によると、実は、蚊の発生源の約7割は住宅の雨水桝(うすいます)だという。

筆者は今回の取材で初めて「雨水桝」という言葉を知ったが、簡単にいうと「一戸建ての住宅敷地内の雨水をためて側溝などに流す設備」のことらしい。屋根から雨どいを伝って集められた雨水を排水管に流すための枡で、建物外部の地中に埋められ、排水管の点検や桝の掃除ができるように地表面に開閉できる蓋がついている。

コンクリート製の雨水桝

網状の雨水枡の蓋

樹脂製の雨水枡

雨水桝は常に水が溜まっている状態になりがちなので、そこが蚊にとって絶好の産卵場所になる。しかし蚊とり潜銅を雨水桝(ます)に沈めると、銅の抗菌作用によって、蚊の幼虫(ボウフラ)の発生を防ぐというもの。あとは放置しておけばよく、一度購入すれば何十年も使えるという。

※画像提供:MCハンターズ

藤田氏はかつて、エアコンを取り付ける会社を経営していた時に、屋外作業で、雨水枡から大量の蚊が発生しているのをたびたび目撃していた。商品を開発するきっかけとなったのは、人手不足でモロッコ出身の外国人従業員を雇ったこと。まだ日本語がよくわからないその従業員が、終業後に退屈そうにしているのを見かねて、仕事柄いつも近くにある銅管を使った新商品を2人でいっしょに考えることにした。

「銅に強い殺菌作用があることは、昔から知られていました。それを利用した商品ができないかと2人で考えていた時、雨水枡から発生していた蚊を思い出したのです」(藤田氏)

調べてみると、住宅街で約7割の蚊が⾬⽔枡で発⽣しているという信頼できるデータがあること(デング熱‧チクングニア熱‧ジカウイルス感染症等の媒介蚊対策:国⽴感染症研究所:2019年)、ボウフラが銅に弱いこと(銅イオンによるデングコントロールの費⽤対効果:神⼾⼤学⼤学院保健学研究科紀要:2011年)がわかった。そこから商品の開発を始め、2022年から販売を開始した。

一般社団法人 日本銅センターによる以下のような実験では、銅で蚊の発生を抑えられることが証明されている。

(1)一般的な蚊であるヒトスジシマカ(ヤブ蚊)の幼虫(ボウフラ)を銅製の容器とガラス製の容器で飼って比較(2)銅製の容器のボウフラは全て羽化せずに死亡した一方、ガラス製の容器では9割が羽化して蚊になった

(3)ビルの地下などに一年中生息するチカイエカのボウフラを繊維のように細い銅線と一緒にガラス容器に入れたところ、やはり全滅。銅線を入れない場合は8割が羽化して蚊になった

MCハンターズが蚊とり潜銅のボウフラ殺虫効果を確かめた実験(実際より小さいサイズ)。ボウフラ(蚊の幼虫)各15匹を2個の水槽に移し左の水槽にだけ蚊とり潜銅を入れた

5日後、右の水槽のボウフラは蚊になって飛び立っているため、空になっている。左の蚊とり潜銅を入れた水槽のボウフラはほぼ全滅して死骸が下に沈んでいる※2点とも画像提供:MCハンターズ

同センターではこの結果に対し、「実験で使った銅を入れた容器の水からは銅イオンが検出されており、銅の微量金属作用のはたらきが、蚊の発育を抑えたと考えられる」と分析。蚊の幼虫が死滅する直接のメカニズムはまだ解明されていないが、「水と接触した銅の表面から、微量の銅イオンが放出される」→「放出された銅イオンが細胞膜を破壊して侵入し攻撃する」という抗菌・殺菌作用が関わっていると考えられている。

このような蚊の発生抑止効果に着眼し、街路樹の下の銅板や排水溝の銅製の蓋などもあるという。また墓地に蚊が発生しやすいのも、花立てなど水が溜まる箇所が多く、この中に蚊が卵を産むのが原因と考えられている。この対策として昔から伝えられているのが、花立ての中に10円玉を入れておくという知恵だが、現在ではより効果の高い銅製の花立ても登場している。

ホームセンターに行けば、銅線は手軽に購入でき、価格は太さ3mm程度の銅線なら2mで1000円~2,000円程度。これを買ってきて雨水枡に沈めればOKなのでは? 

実は藤田氏も当初そう考え、手持ちの銅線をカットして自宅の雨水枡に沈めてみた。しかし数日後に確かめると、入れたはずの銅線が雨水で流されたのか、消えてなくなっていたという。そこで藤田氏は、住宅の⾬⽔桝の平均的な⼤きさを調べ、それに⾒合った銅の量(銅の表⾯積)を調査し、「⾬に流されない」「泥に埋もれてしまわない」「配送しやすい」「設置しやすい」形状を考え「実⽤新案登録」と「意匠登録」を取得している。

蚊とり潜銅とiPhone(約15cm)とのサイズ比較※画像提供:MCハンターズ

最近の総務省のデータによると、⽇本の住宅の⼀⼾建ての数は約2931万9千⼾。豪雪地帯では⾬どいや⾬⽔桝が少ないが、事業所や集合住宅にも⾬⽔桝があるので、約2000万⼾の建築物に⾬⽔桝があると藤田氏は見積もっている。また⼀般社団法⼈ ⽇本下⽔道協会によると⾬⽔枡は「1⼾あたり2~4個設置」が⼀般的となっているため、現時点で蚊の対策をしていない⾬⽔桝は、少なく⾒積もっても日本に約5000万個は存在する計算になる。仮のその中の1%の人が購入したとしても、市場規模は10億円。しかも現段階で競合がほとんどない市場といえる。

こうしたデータを見ると、すぐにでもブレイクしてよさそうな商品に思えるが、そうなっていないのにはさまざまな理由があると藤田氏は語る。最大の理由は、事業が⼩規模で店舗も持っていないため、なかなか信用されにくいこと(SNSでのコメントも1割ぐらいが「怪しい」という感想だとか)。さらに「蚊の発⽣場所の約7割が⾬⽔枡というデータが知られていない」「銅に蚊の幼虫の発生を抑える効果があることが知られていない(藤田氏の実感だと、知っている人は1割程度)、「雨水桝の存在や構造が知られていない」「自分のところで対策をしても、ほかから飛んでくるとあきらめている」などが理由としてあげられる。

都道府県別の蚊とり潜銅の購買者数を比較すると、1位が愛知県で、2位の東京の2倍以上となっている。愛知県で特別な施策をしたことはないので、たまたま購入した人の周囲から口コミで広がっていったのではないかと藤田氏は見ている。このような、使用した人のクチコミでの認知の拡大に期待をしているそうだ。

「蚊とり潜銅は何⼗年も使⽤できるのでリピーターはいないだろうと思っていましたが意外と再注⽂があります。なぜ再注⽂するのか私の想像ですが、最初はまだ信用していないので、どんなものが届くのか最小単位で購入し、使ってみて効果を実感された⽅が自宅の⾬⽔枡の個数だけ再注⽂しているのでは。最初から信⽤され、お客様にこのような⼿間をかけずに1度で購⼊していただけるようにしていきたい」(藤田氏)

近年の殺虫剤の進化は著しいが、それと競うように、殺虫剤への耐性を持つ蚊もまた増加している。そのため現在、東南アジアでは「蚊の発生を抑える」という根本的な対策が重要視されているという。蚊とり潜銅の市場は、東南アジアにも広がるかもしれない。

取材協力/MCハンターズ参考資料/厚生労働省「蚊媒介感染症」、厚生労働省検疫所 FORTH、一般社団法人 日本銅センター「医療・暮らしへの貢献に関する試験」「銅の超抗菌・抗ウイルス性能」、厚生労働省「線香、お香及び蚊取り線香の 煙中ベンゼン濃度」

取材・文/桑原恵美子

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