英オックスフォード大ほか最新研究で判明した《認知症や脳の老化を早める習慣》「65才を過ぎたら痩せてはいけない」理由を医師が解説 (1/1)

 もの忘れが多くなったり、判断力が低下する認知症。加齢とともに認知症の発症リスクは高まるが、食生活や運動、睡眠などの生活習慣が認知機能の低下に深く関わっていると言われている。「健康に良い」と思っていた習慣が脳の老化を早めているかも?専門家が解説する。

室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、奥村歩さん/日本認知症学会指導医・おくむらメモリークリニック理事長

 さまざまな老化現象を“克服”する研究が世界中で進んでいる。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは言う。

「近年は世界的に老化研究の進歩が目覚ましい。2020年以降は抗老化(エイジングケア)から一歩進み、動物実験などによって“若返り”の可能性が科学的に証明され始めています。米ハーバード大医学大学院教授で、長寿と加齢研究の世界的権威であるデイビッド・シンクレア氏の提唱した『老化は治療や予防が可能な病である』との考え方が広まりつつあるのです」

 今年2月に英オックスフォード大の研究チームが「老化を左右するのは遺伝よりも生活習慣」とする研究報告を学術誌に発表した。

「約50万人のデータを解析したところ、遺伝要因が寿命に与えた影響が2%未満だったのに対し、生活習慣を含む環境要因は17%でした。体に良い習慣を日常生活に取り入れることで長生きの可能性が高まるというシンプルながら重要な指摘です」(室井さん)

「認知症を早める習慣/遅らせる習慣」について専門医が紹介する。

 物忘れが増えて人の名前が出てこない――加齢とともに認知症の予兆を自ら感じてしまうのは、多くの人が経験することかもしれない。

 認知症予防に良いとされる脳トレなどで対策する人は多いが、日本認知症学会指導医の奥村歩医師(おくむらメモリークリニック理事長)が着目するのは“体型”だ。

「端的に言えば『65才を過ぎたら痩せてはいけない』が私の持論です。一般的に日本では肥満にならないほうが認知症を含む様々な病気や老化を防ぐと思われていますが、認知症リスクに対しては研究で逆の結果が示されています。例えば2019年に発表された東大・山梨大などの共同研究では、日本の65才以上の男女を約6年間追跡調査した結果、BMIが低い(痩せている)人ほど認知症になりやすいとの結果が出ました」(以下、「」内は奥村医師)

 体重を落とさないために取り入れるべき生活習慣とはなにか。

「炭水化物は最も効率よく、脳の栄養源である糖質を摂取できる主食です。肥満や生活習慣病などで糖質制限が必要な場合を除き、糖質の摂取を過度に気にする必要はありません。むしろ、65才で健康な人は、ご飯やパン・麺類など主食の炭水化物をしっかり摂取すべきでしょう」

 肥満を避けたいあまり炭水化物(糖質)を極端に避けることが、認知症のリスクを高めるとの指摘だ。

脳の老化防止のための「睡眠」「運動」

「食事のほか、睡眠も重要です。アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβは、ノンレム睡眠中に除去されることがわかっています。60代以降は睡眠時間が短くなる傾向がありますが、そうしたケースでは午後3時頃まで、30分以内の昼寝を心がけてください。近年の研究により、昼寝の睡眠でもアミロイドβが除去されるとわかっています」

 日々の軽度な運動も脳の老化防止に寄与する。

「一日20〜30分、週3回の有酸素運動、特にウォーキングをおすすめします。30分程度でも脳の血流が改善し、老化に抵抗する力を増強する神経成長因子(BDNF)が増えることが研究でわかっています」

 認知症対策としての運動は、五感を刺激しながら行なうのがポイントだ。

「疫学的なデータでは、一人ジムで黙々と有酸素運動をするより、社交ダンスやテニスのように人との関わりを楽しみながら体を動かすほうが効果的との報告があります。高齢の方が手軽にできる運動としては、家族や友人など気心の知れた相手とストレスなく一緒に散歩することです」

・炭水化物を制限する脳の栄養源になる糖質を制限することで認知症が加速する

・一人で過ごす社会的孤立が認知機能低下の最大リスクになる

・30分以内の昼寝をするアルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ」を除去できる

・自然のなかでウォーキングする五感を刺激しながらの有酸素運動が脳の血流改善に効果的

※週刊ポスト2025年7月11日号

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