非鳥類恐竜類の絶滅に関する議論はなぜいまだに決着しないのか(對比地孝亘/古脊椎動物研究者)(ナショナル ジオグラフィック日本版)
このような多様性の評価をさらに複雑なものにしているのが、大きさの異なる個体の間の骨格形態の差異を種の違いとして認識して、複数の種が共存していたとするのか、同種内での成長にともなう形態変化として解釈するのかという仮説の違いである。その例としては、パキケファロサウルス類のドラコレックスDracorex―スティギモロクStygimoloch―パキケファロサウルスPachycephalosaurus、角竜類のトリケラトプスTriceratops―トロサウルスTorosaurus、ティラノサウルス類獣脚類のナノティラヌスNanotyrannus―ティラノサウルスTyrannosaurusのそれぞれの間の関係性が挙げられる。 以上に挙げた論点については、最近も新たな研究が発表され続けている。 まず北米大陸の地層については、これまで調査されてきた地域より南のニューメキシコ州に分布するカートランド層上部の年代が再検討され、この層準がK/Pg境界直下にあたることが判明した(Flynn et al., 2025)。ここからはこれまでにも様々な恐竜類が知れられていたため、この年代推定の結果から、北米大陸の南部においても北部と同様に、絶滅直前の恐竜類は多様であったことが示された。 また、ナノティラヌス―ティラノサウルスの関係については、モンタナ州から新たに発見された標本を元にした研究が行われた(Zanno and Napoli, 2025)。その結果、ナノティラヌスとされている標本は、成長が鈍る成熟期に入りかかっており、幼若個体でないことがわかった。 このような観察結果を基にしてこの研究では、ナノティラヌスはティラノサウルスとは区別できる別種であること、さらにはこれまで報告されていた種であるナノティラヌス・ランセンシスNanotyrannus lancensisに加えて、新たにナノティラヌス・レサエウスNanotyrannus lethaeusという種が区別されることを提唱した。 この研究は、絶滅直前の一つ地域に存在していたティラノサウルス類に焦点をあてたものであるが、同様な分類学的な見直しが他の恐竜類において行われれば、この時期の恐竜類の多様性の評価も大きく変わる可能性がある。