【コラム】ウクライナ防衛、欧州の「切り札」はまだ健在-ローラン
欧州の運命はマイアミで決まってしまったのだろうか。欧州委員会のクビリウス委員(防衛担当)は、ウクライナでの戦争終結に向け米国とロシアがまとめた和平案を「容認できない」と嘆き、欧州も独自では和平案を導き出せずにいるようだ。
クビリウス氏は仏誌レクスプレスがストラスブールで主催したイベントで、「いつも米国の計画について議論するのにはうんざりしている」と語り、「われわれ自身の計画を練った方がいいだろう」と述べた。
同氏がそう考える理由は明白だ。マクロン仏大統領やスターマー英首相らの反発により、トランプ政権が打ち出した屈辱的な28項目の和平案は、より受け入れやすい19項目へと絞り込まれつつあるものの、ウクライナを罰し、費用を欧州に押し付ける苛烈な講和の脅威は依然消えていない。前線は行き詰まり、トランプ氏が「切り札を持っていない」と主張するウクライナは、来年2月までに資金が枯渇する見通しだ。防衛、エネルギー、貿易で米国に深く依存する欧州の指導者たちは、傍観者の立場に追いやられている。
とはいえ、欧州にもまだ切れるカードは残されている。ウィトコフ米特使とロシアのドミトリエフ特使が中心となった和平案の第14項は、凍結されているロシアの国有資産3000億ドル(約46兆9000億円)の相当部分を米ロで分け合い、復興投資に回すよう求めている。これでは欧州最大の切り札を無力化することになる。この条項は後で削除されたようだが、その意図は明らかである。米国はトランプ流の勝利を主張する好機と捉え、ロシアはウクライナの生命線を断つ重要な手段とみなす。欧州の反応は衝撃、怒り、そして抗議だった。
だが、今必要なのは行動だ。欧州の域内総生産(GDP)はロシアの10倍だ。これまで以上のことができるはずだ。凍結資産を戦後賠償のための融資に活用することにはなお異論がある。凍結資産の大半を預かるベルギーの決済機関ユーロクリアは自らの存続に危機感を抱いている。しかし、資金難のベルギーに保証を提供するか、同額の資金源を確保することで、こうした異論は克服できるはずであり、また克服すべきだ。欧州外交評議会のアガット・デマレ氏は、ためらい続ければ米国が欧州に圧力をかける余地を残すことになると指摘する。
求められているのはリーダーシップであり、理想的には、ウクライナ向け大型戦闘機の巨額売却が視野に入るドイツとフランスが、それを発揮すべきだ。トランプ氏の主張とは裏腹に、ウクライナの主要な資金提供者は欧州である。
凍結資産に踏み込む決断には、当然ながら他の資金手当ても伴う必要がある。ウクライナ復興の費用は約2300億ドルに上ると、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は試算する。しかしロシアのプーチン大統領の強硬姿勢を前に、欧州は自らの軍備再拡大にも支出せざるを得ない。トランプ氏主導の世界で自立を図るには、欧州大陸の連帯が不可欠だ。ユーロ圏の中央銀行当局者は、共通の軍事支出を賄うため、共同債務の拡大を提唱している。ドイツ経済の停滞とフランスの財政危機を踏まえれば、これは理にかなう。
資産の凍結解除などを通じた資金拠出は、欧州の戦略的な役割がウクライナの運命と不可分であることを示す。ただし、それが戦況に即座の突破口をもたらすわけではない。厳しい現実として、戦争終結には譲歩が不可避であり、ウクライナは領土の一部喪失を受け入れ、軍事プレゼンスを縮小せざるを得ず、北大西洋条約機構(NATO)加盟も依然として険しい道のりだ。汚職取り締まりの強化は不可欠となる。
それでも、制裁強化により石油収入が揺らぐなど、ロシア自身も圧力に直面している以上、欧州は「和平」というより「苦々しい降伏」に近い計画に抵抗すべきだ。マイアミはベルリンやパリから遠く離れており、欧州大陸の運命を決める場としてふさわしくない。
(リオネル・ローラン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Ukraine’s Defenders Still Hold an Ace Card: Lionel Laurent
(抜粋)