中国「ディープシーク」ショック:識者はこうみる
[28日 ロイター] - 中国の低コスト人工知能(AI)モデルの出現が米半導体大手エヌビディアのようなAIリーダーの優位性を脅かすことへの懸念から、27日は世界的にハイテク株が売られた。
市場関係者に見方を聞いた。
◎メリットについても考慮すべき
<東洋証券 ストラテジスト 大塚竜太氏>
中国の新興企業「ディープシーク(DeepSeek)」が公開した新しいAI(人工知能)モデルの台頭が、エヌビディアや関連銘柄を中心に日米の半導体関連株の大幅安につながったが、ここまで悲観する必要があるのかという気もしている。
相場全体についても、半導体関連株を除いては27日はむしろ底堅く推移し、TOPIXはプラスに終わった。地合いをしっかり見極めるために、日経平均が半導体関連株に左右されやすい特性があることに留意すべきだ。株価全般は次第に落ち着くとみている。
◎リスクオフでドル上値重く、米国が対中で厳しい対応も
<りそなホールディングス シニアストラテジスト 井口慶一氏>
米政府の輸出規制などもあって、米国が中国に半導体で抜かれる心配がないのが大前提だったが、この前提が崩れてしまう可能性があり、米株を中心にリスクオフの反応になった。米株に対して強気に傾き過ぎていたため、その巻き戻しが入る可能性があり、米国を中心とするリスクオフが続くかもしれず、ドル/円も上値が重くなる。
半導体は、電力を含めて大量のインフラ投資が必要で、この投資が見直されれば米経済への影響が大きくなる可能性もある。トランプ米政権が中国に対しより一層厳しい対応を取る恐れもある。
1月27日、中国の低コスト人工知能(AI)モデルの出現が米半導体大手エヌビディアのようなAIリーダーの優位性を脅かすことへの懸念から、世界的にハイテク株が売られた。写真は、ディープシークのロゴ。同日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
短期的には市場にネガティブな影響が出てくることに注意しなければならず、「ディープシークショック」の第2弾、第3弾がないとは言い切れない。ただ長期的に見れば、コストをかけず生成AI(人工知能)を作成できる技術革新という点でマイナス面ばかりではなく、技術革新が米国を含め世界的な広がりをみせるかもしれず、ドルが売られ続けるとはみていない。
◎7月同様に株急落なら日銀追加利上げ遠のく可能性
<関西みらい銀行 ストラテジスト 石田武氏>
中国の新興企業ディープシークの新しいAI(人工知能)モデル開発については急に降って湧いた話であるものの、勢いがあったエヌビディアやその関連企業など半導体やAI業界に一石を投じた格好だ。
足元ではドル/円が153円台で下げ止まったことを踏まえると影響は一巡しているとみられ、米金融政策に影響を与えるものではないだろう。円債については米債券高に追随する格好で多少買われるものの、長くは続かないとみている。
今後トランプ政権の姿勢が中国に対してより厳しくなるなど間接的な影響が出てくれば、関税引き上げや米中摩擦でインフレ圧力が意識されやすく、米金利の低下余地も限られるとみている。
2月はイベントが少ないこともあり、株価の動向が焦点となりやすい。日銀の利上げ後に株価が急落するという昨年7月と同様のパターンとなれば、次回の日銀の追加利上げ時期がより遠くなる可能性がある。
◎指数は高値調整の範囲内、AI期待は継続
<岡三証券 チーフストラテジスト 松本史雄氏>
指数はいまのところ高値圏からの調整にとどまっている。AI関連の一角は調整がきついものの、経済自体は弱くなく、相場全体にリスクオフが波及する様子ではない。一段と売りが強まるかは見極めが必要だが、米国市場である程度消化したとみていいのではないか。
ディープシークが低コストで高性能なAIだとすれば、いったんは機械学習の用途でのインフラ関連でのAIへの期待は低下する可能性がある。情報管理などの安全保障面からのリスクが意識され、欧米企業はビジネス用途としては使いにくそうだが、EV(電気自動車)のように新興国や一般消費者の軽作業で利用が広がる可能性はある。サービス価格が低下すれば、既存のAIの価格にも影響するだろう。
ただ、AI自体への期待は継続するだろう。低コストでAIが利用できるようになれば、関連サービスでの利用が広がる。物色がインフラからサービスへとシフトする可能性がある。AIの利用が拡大すれば、新たな用途でAIを処理するために、あらためてインフラ需要も高まり得る。
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