展望2025:円相場、初の5年連続安は回避か 急落なら再介入も

 2025年の外為市場では、円が緩やかながら5年ぶりに反発する展開を予想する声が優勢だ。写真は円と米ドル紙幣。2023年3月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 2日 ロイター] - 2025年の外為市場では、円が緩やかながら5年ぶりに反発する展開を予想する声が優勢だ。ドル高のピークアウトや日銀の利上げが、年後半にかけてドル/円の上値を次第に抑える見通し。ただ、トランプ新政権が発足する米国の急速な景気失速は想定しづらく、ドル安は緩慢なペースにとどまるとの見方だ。

トランプ政権が外交手段として利用する関税政策、米中対立の先鋭化など山積する不透明要因は、逃避的なドル高につながる面もあり、ドル/円が仮に前回高値の161.96円を上抜けるような上昇を見せれば、円買い介入が行われるとの指摘も多かった。独仏を中心に政治経済両面から懸念が強まるユーロも、等価水準(パリティ、1ドル=1ユーロ)割れを試すとの予想が出ている。

ドル/円が25年も年間で上昇すれば、変動相場制移行後、初の5年連続ドル高/円安となる。インターバンクと機関投資家、個人投資家それぞれの専門家に見通しを聞いた。

◎ドル年末に140円割れへ、円高/日本株高が同時進行

<シティグループ証券 チーフFXストラテジスト 高島修氏>

2012年以降の長期円安トレンドは、すでに転換期を迎えている。今しばらくドルは150円前後を中心としたレンジで、160円近辺まで上昇すれば介入が行われる可能性もあるが、年末までに140円を割り込むと想定している。

われわれが算出しているドル/円の推計値は現在145円前後。円キャリー取引などの影響でスポット価格は上振れしているが、米国の金融緩和と日本の引き締めで短期金利差は縮小し始めており、ドル/円が下落することで、推計値との差は次第に埋まっていくと考えている。

ドル/円は日米短期金利差が5%以下へ明確に縮小すると、円キャリー取引の解消を巻き込んで円高へ転じる傾向がある。夏以降にドルは161円台から140円台へ急落したが、こうした動きは、下落プロセスがすでに始まっている表れだといえる。

トランプ次期大統領が掲げる政策のうち、財政刺激と関税はドル高的とされるが、通貨政策と金融政策への圧力、エネルギー政策はドル安に作用する可能性がある。特に、新たなエネルギー政策が原油価格を押し下げれば、ドルが連れ安となるだけではなく、日本の交易条件改善を通じて、日銀の金融正常化が進みやすくなる点も見逃せない。

日本企業の間で株主還元の充実や国内での設備投資増など、重要な構造変化が発生していることも注目される。こうした取り組みは株式市場でまだ過小評価されており、今後それを織り込む過程で、円高と日本株高の共存が起こるとみている。

ドル/円の予想レンジ:140─160円

◎日銀発の円高想定、国内勢の外債投資は米新政権の出方見極め後に

<明治安田総合研究所 エコノミスト 吉川裕也氏>

日銀発の緩やかな円高を想定している。年初はトランプ次期政権がインフレ圧力を高める政策を矢継ぎ早に打ち出しそうなこともあって、ドル高材料が集中するが、春闘の力強い結果が示されれば日銀の利上げを後押しし、主に日本側からの要因で円高がじわじわと進むだろう。今後、日銀が中立金利の下限とされる1%を目指して利上げをする方針は変わらず、円債の投資妙味は比較的増す見通し。

一方、当初の想定より米連邦準備理事会(FRB)の利下げ見通しが後退しているため、ヘッジコストが下がらずヘッジ外債は引き続き手掛けにくい。トランプ政権下では為替のボラティリティーが高まる公算が大きいため、オープン外債でリスクを取るにも慎重にならざるを得ない。オープン外債投資に伴う本邦投資家のドル買いが出るかは、新政権の出方を見極めてからになるだろう。

米国では連邦公開市場委員会(FOMC)で示された利下げ見通しが年4回から2回に減ったが、景気は底堅く、今後の政策次第で1回に減る可能性もある。トランプ氏は就任当初から出し惜しみせず、政策を打ち出すだろう。ドル高主導で1─3月にドル/円は160円前後へいったん接近する場面があるかもしれないが、160円近辺は日本政府/日銀が為替介入を通じて、一段の円安を抑えるとみている。相場のボラティリティーが高い今は、ボラが低くても実施した7月と比べて国際的な理解が得やすい。

日銀に関しては、植田和男総裁の会合後会見で、今後の利上げに不透明感が高まっているものの、2025年1月の利上げが可能なら、7月と12月にも引き上げて、年内に政策金利1%が実現できる可能性も出てくる。次回利上げが3月へずれ込めば、年内の1%到達は難しいが、その場合でも26年の3月には1%まで引き上げるとみている。

ドル/円の予想レンジ:140─160円

◎ドル/円に上昇余地、個人の円買いが円一段安の燃料に

<トレイダーズ証券 市場部長 井口喜雄氏>

2025年のテーマは、トランプ次期大統領の政策と日米の金融政策だ。米国の移民、関税、減税政策はインフレが加速して景気を過熱させる可能性があり、ドル高を促しやすい。FRBの利下げ見通しは後退したが、日銀は利上げに慎重と見られており、実質金利は米がプラス、日本がマイナスであることも考えると、円キャリー取引が正当化される。ドル/円はまだまだ上昇余地があるとみている。

特に、日銀のハト派傾斜は予想外で、賃金動向やトランプ政権下の政策の影響を見極めたいなら、1月利上げは困難となる。これほど慎重な姿勢であり続けるなら、利上げは最大で年2回、0.75%までだろう。当初想定より日米金利差は縮小せず、ドル高/円安地合いが継続する。

個人投資家は現在、ドル売り/円買いポジションを積み上げている。為替介入を先読みして円の反発時に持ち高を解消することで利益を狙う戦略であるため、需給的には介入効果を和らげてしまう面がある。

介入がなくても、ドルが上昇すれば損切りのドル買い戻しを迫られるため、個人はドル/円上昇の燃料となるポジション構成になりがちだ。個人の動きが円安という火に油を注ぐ形になる傾向は、25年も続くだろう。

ドル/円の予想レンジ:145─170円

※この記事は12月25日にLSEGグループのニュース・データ・プラットフォームWorkspaceに掲載されました。当時の情報に基づいています。

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