特集 - 株探ニュース

現状の生産方法には原材料枯渇やGHG排出などの問があり、持続可能性に疑問符がつくようになってきた。そこで関心を集めているのが、生物由来の素材を用いる「バイオものづくり」だ。
―製造業の新たなイノベーション、地球規模の社会課題解決と経済成長を両立―  資源自律や化石資源依存脱却など地球規模の社会課題解決と経済成長との両立を可能とする製造プロセスとして「バイオものづくり」が関心を集めている。植物や微生物などの生物を用いて物質を生産する技術は、従来の化学プロセスに比べて省エネルギーであるとともに、原料を化石資源に依存しないことから今後の市場拡大が見込まれる研究分野のひとつだ。製造業の新たなイノベーションとして高い市場ポテンシャルとビジネスチャンスを持っており、関連銘柄に目を向けてみたい。 ●社会実装に向けNEDOが支援  「バイオものづくり」とは、生物由来の素材を用いてものづくりを行うこと、更には微生物などの能力を利用して有用化合物などをつくり出すことを指す。先行して取り組まれている医薬品や食品にとどまらず、化学品・素材・繊維・燃料など多様な産業領域での活用が見込まれており、従来の化石資源を原料としたさまざまな製造プロセスを置き換える「持続可能なものづくり」として次世代の産業基盤となる可能性がある。醤油や味噌といった発酵食品もバイオものづくりの一種といえるが、従来の手法に対して最先端の遺伝子工学やゲノム編集などの技術を使って、人間が必要とする物質の生産のために微生物などの能力をデザインするのが今のバイオものづくりだ。  こうしたなか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は未利用資源の収集・原料化、微生物などの改変技術、生産・分離・精製・加工技術、社会実装に必要な制度や標準化などバイオものづくりのバリューチェーン構築に必要となる技術開発及び実証を一貫して支援している。政府はバイオエコノミー市場の拡大を目指した取り組みの推進で「2030年に国内外で100兆円規模の市場創出を目指す」ことを掲げているが、中国や米国をはじめ世界的に競争が激化しているなか、バイオものづくり分野で国内産業を興していくためには技術開発や具体的なプレーヤー(企業)の育成などが欠かせない。各プロジェクトを通じてバイオものづくりへの製造プロセスの転換とバイオものづくり製品の社会実装を推進する企業のビジネス機会が広がりそうだ。 ●ものづくりを根本から変える銘柄群

 ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ <6090> [東証S]は7月28日、「バイオものづくり」生産性向上支援サービスの提供を開始すると発表した。このサービスは、メタボローム解析を活用した顧客伴走型サービスにより、「バイオものづくり」に取り組む企業や研究者にとって共通の解決すべき課題である目的物質の生産性の向上によるコスト削減を支援するもの。このサービスを用いることで、目的物質の生産スピードを格段に向上させる培養液成分や培養条件の最適化を促進するという。

 NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」で、鹿島 <1812> [東証P]やデンカ <4061> [東証P]などは共同で「遺伝子組換え植物を利用した大規模有用物質生産システムの実証開発」プロジェクトに取り組んでいる。7月9日には同プロジェクトの成果を活用し、物質生産用に開発した植物を用いて、栽培から遺伝子発現、目的物質の抽出精製までを一気通貫型に実施可能な世界初の植物バイオものづくり研究開発拠点を横浜国立大学内に設置したと発表。同拠点での活動を通じて、国内における植物を活用した高効率有用物質生産系の普及及び新規産業の創出を支援するとともに、有用タンパク質生産分野などにおける温室効果ガス(GHG)排出量削減につなげる構えだ。

 千代田化工建設 <6366> [東証S]は7月7日、NEDO事業の一環として植物を用いた有用物質を生産する新規基盤技術の実証設備を建設し、有用物質として世界初となるヒト2型コラーゲンを実証モデルタンパク質に選定して生産実証に成功したと発表。植物を用いることでワクチンなどの医薬品や再生医療等製品、化粧品、機能性食品といった多様な製品をアニマルフリーで安価に生産できる技術であり、GHGの排出抑制効果も期待できるとしている。同社はこの設備を植物バイオものづくりの実用化開発を受託する国内初の「植物バイオファウンドリ」として立ち上げ、さまざまな機関や企業の研究開発を支援するとしている。

 Green Earth Institute <9212> [東証G]は、NEDOのバイオファウンドリ事業で、バイオものづくりを社会実装しようとするユーザー(企業や大学など)が持っているスマートセル(生物の細胞が持つ物質生産能力を最適化して最大限に引き出した細胞)について、生産プロセスの最適化、スケールアップ、サンプル生産などを実施する生産実証を受託している。7月3日には千葉県茂原市にある「関東圏バイオファウンドリ拠点」で、今年6月までに8件の生産実証案件を実施し、委託元の企業や大学がラボスケールで検証した有用物質の生産性に対して同等もしくは最大約3倍のスケールアップとなる生産性を実現したと発表。27年度からバイオファウンドリサービスを実運用する計画だ。

 王子ホールディングス <3861> [東証P]は、化石資源を原料とした既存のプラスチックや燃料などの製造プロセスをバイオマスベースに置き換えることを目指し、木質由来の新素材の開発に取り組んでいる。5月に竣工式を行った木質由来糖液・エタノールのパイロットプラントは国内最大級の規模を誇り、年間3000トンの木質由来糖液、同1000キロリットルの木質由来エタノールの生産能力があり、30年度の事業化を視野に取り組みを加速させるとしている。

●ファーマF、大王紙などにも注目

 このほか、NEDOのバイオものづくり革命推進事業として研究開発の委託を受けている企業にも注目。主なものでは、ファーマフーズ <2929> [東証P]の「改変酵素を用いた卵殻膜の総合的活用プラットフォームの構築」、帝人 <3401> [東証P]及び高砂香料工業 <4914> [東証P]などが取り組む「未利用原料から有用化学品を産み出すバイオアップサイクリング技術の開発」、大王製紙 <3880> [東証P]及びGEIの「製紙産業素材を活用したバイオ燃料・樹脂原料等の商用生産に向けた研究開発・実証」、レンゴー <3941> [東証P]子会社の「建築廃材等未利用資源を活用したSAF用2Gバイオエタノール生産実証事業」、東洋紡 <3101> [東証P]の「マンノシルエリスリトールリピッドの利用分野拡大に向けた革命的生産システムの開発」、長瀬産業 <8012> [東証P]の「スマートセル活用によるエルゴチオネイン発酵生産の事業化」などがある。

 また、今年3月に「バイオものづくり神戸事業所」を開所した島津製作所 <7701> [東証P]も要マークだ。同事業所では二酸化炭素(CO2)から バイオプラスチックを生産できる有用微生物を迅速に開発することを目指しており、これまで困難とされてきた有用微生物開発の高速化と、バイオプラスチック製造コストの軽減により、カーボンニュートラルの実現につなげる考えだ。なお、同社は23年度からNEDOの「グリーンイノベーション基金事業/バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進」で、日揮ホールディングス <1963> [東証P]やカネカ <4118> [東証P]などと「CO2からの微生物による直接ポリマー合成技術開発」に取り組んでいる。

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