「動く点P」はなぜ動くのか…「数学を勉強しても意味がない」と絶望する受験生に、東大生が伝えていること 数学的な素養とは、論理的に考える力である

「どうして数学を勉強しなければいけないのか」と子供に聞かれたら、どう答えればいいのか。東大生作家の西岡壱誠さんは「数学の知識は大人になってから絶対に必要なものだ。社会で活躍する人は、物事を数学的な思考で捉えている」という――。(第2回)

※本稿は、西岡壱誠『読んだら勉強したくなる東大生の学び方』(笠間書院)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/taka4332

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数学は「大人になってから絶対必要になる」

「数学なんて、勉強しても意味なくない?」

この質問は、いろんな場所でよく聞く問いです。おそらく数学が苦手な多くの人が子供の時に一度は思ったことがあるのではないでしょうか? 英語であれば「外国人と話すため」だと納得できますし、国語であれば「文章を読めるようになるため」と考えることができます。しかし、数学はパッとやる意味が思い浮かびませんね。

算数であれば、「計算ができるようになる必要があるから」と言えるかもしれませんが、数学は難しいですよね。「なんでXとかYとか勉強しなきゃならないの?」「微分積分の問題とか、大人になってから解かないんでしょ?」と言われることも多いのではないでしょうか。

でも実は、数学の勉強って、大人になってから絶対に必要になってくるんですよね。特に東大生の親御さんは、数学の勉強について、「社会で活躍するための技能」としてお子さんに紹介している場合が多いです。

我々もよく、学生から「なんで数学の勉強やんなきゃいけないの?」という質問をされます。

それに対してしっかりと「こういう役に立つ」ということを提示できると、「それだったらやってみようかな」と納得してもらえて、成績が上がることもあります。

“納得しているかどうかなんて成績の向上に違いを生む要素ではない”と考えてしまう人も多いかもしれませんが、そんなことはありません。

本人の納得感は学習意欲や理解度に大きな差を生みます。「数学を勉強する意義」に納得できるかどうかが、数学が得意になれるかどうかという違いを生んでいるのです。今回の記事では、子供たちに伝えたい数学の意義についてお話ししたいと思います。

「お得にタクシーに乗る方法」を考えてもらう

まず、よく聞くのが「点Pがなぜ移動するのか」という話です。「点Pがこう移動するとしたら、60秒後にはどこにいることになるか答えよ」みたいな問題が数学では頻出ですが、なんでこんな問題と解かなければならないんだ、と考えてしまうという人も多いかもしれません。

「移動する点P」に疑問を抱く生徒に対して、筆者はこんな問題を出して考えてもらっています。

友達と遊びに行くとしよう。タクシーを使って移動をするとき、大型タクシーなら2台、小型タクシーなら3台呼ばないといけないという状況。

●大型タクシー 1台につき【最初の1kmまでが1000円】

その後【320mごとに200円が加算される】

●小型タクシー 1台につき【最初の1kmまでが700円】

その後【480mごとに20円が加算される】

この場合、“小型を使うほうが安い”距離は何メートルか?

実はこれは、移動距離と速度に関する東大の問題をベースにした“問い”です。さすが東大の問題だけあって難しくはあるのですが、「点Pがどう移動するのか」という問題を学んだ延長の知識で、中高生でも図解などを通じて考えることができます。回答例は以下です。

▽1000mから1320mであれば 大型2台だと2400円、小型3台だと2700円で、「大型の方が安く」なる

▽1320mから1480mであれば 大型2台だと2800円、小型3台だと2700円で、「小型の方が安く」なる

ですから、答えのひとつは1320mから1480mです(答えは複数あります)。


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さて、この座標に関して、中学生ではX軸とY軸で構成される座標平面の中には「象限」という考え方があるということを習います。(図表2)

この図のように、右上、左上、左下、右下の4つの場所を分けるものです。XもYも正の数なら第一象限・XもYも負の数なら第3象限、というようなものですね。先ほどの図で言うなら、読書感想文は第1象限、日記は第4象限になります。

今回の場合、「締め切りが早い」×「時間がかかる」の場所、つまり第1象限にあるものの優先順位が一番高いと考えることができます。今回の場合、そこに位置するのは読書感想文ですよね。そう考えると、読書感想文から実践するべきなのではないかと考えることができます。

このように、「X軸」「Y軸」に落とし込むと言うのは、物事を整理したり、優先順位を付けたりする時に有効な考え方であり、仕事をする上で非常に役に立つものだと言われています。

例えばコンサルティング系の会社では、「X軸とY軸でマトリクスを作って、物事を4つに分けて整理していく」というような思考法は非常によく登場しますし、「もはや使えないと話にならない」なんて言われるくらいのものです。

「高倍率」「高年収」ほど数学的素養が求められる

ちなみに、コンサルティング系の会社ではよく、就職面接の中で数学の質問をすることが多いと言われています。

「サイコロを2つ振って、その目の合計の値を調べる。この時、出る目の値として一番出やすいにはどれ?」というような質問をして、パッと「6通りある7」と答えられるかどうかを見て、「あ、彼女はこの会社で働ける人材だな」「彼は難しいかもしれないな」というように判断を下すのだそうです。

コンサルティング系の会社以外にも、外資系・金融系の会社では、数学的な質問が就職面接でよく出題されることが知られています。倍率が高く、年収も高い企業では、人材の質を見るために数学の質問をするのです。

なぜ、数学の質問をするのか。それは、先ほどのマトリクスの考え方もそうですが、数学的な素養が身についている人の方が、論理的に物事を考え、適切に優先順位を付ける能力があると考えられているからです。

社会に出て年収の高い会社に就職することができるかどうかは、数学的素養があるかないかによって変わってきてしまうかもしれないわけです。

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